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CLANNAD  (2006年5月13日 執筆)



 見どころ: シナリオ



■ 全般

  プレイ時間が長いと言う理由で特に手をつけなかったKeyの名作。
 登場人物の読み方を悉く間違えてしまった。『春原』は読めたのに『椋』、『杏』は
 『むく』、『あん』と呼ぶ始末。ひらがなで呼ばれるまで全く気付かず…。
 1度目のプレイの最後になってようやく全体図が判明したので、2度目のプレイで
 改めて深く読み込んでいく事に。結局80時間以上かかっているかもしれない…。
 感動系あったかストーリー。
 この街で変わらないものはない事を深く知らされても、
 それでもあなたはこの街が好きでいられますか。


■ ベストシナリオ

 −ことみシナリオ


    「ことみ。ひらがなみっつでことみ。呼ぶ時はことみちゃん」


 授業時間中、学校の図書室で偶然出会った少女は朋也にそう名乗ります。
 いつもハサミを持ち歩き本のページを切り抜いたり、授業にも出ずにいつも
 図書室でひとり本を読んでいるのに成績は全国でトップ10。
 友達らしい友達もおらず、その不思議な雰囲気をまとった少女を朋也は気にかける
 ようになり、次第に二人は同じ時間を過ごしていくようになります。

 はじめは2人だけで図書室で過ごしていたが、朋也の他の友達も加わっていき、
 たくさんの友達に囲まれて、やがてことみは暖かい時間を共有していきます。
 
 学校で借りたバイオリンで演奏会をした事。
 友達みんなとUFOキャッチャーをした事。
 演劇部の部室に集まってみんなで遊んだ事。

 朋也と二人で本を読んだ事。
 朋也と二人でお弁当を食べた事。
 朋也と二人で初めてデートをした事。

 たくさんの笑顔に囲まれているうちに、ことみからも自然と笑顔がこぼれるようになっていきます。


 そんなある日、バスの横転事故が発生します。
 最初、そのバスに友達の椋が乗っているのではないかと心配するが、当の椋は
 違うバスに乗ってきて無事だと分かり、安心する一同。
 しかし、ことみ一人だけがその場にうずくまり、声を振り絞り泣き叫びます。


        :
        :


    『乗員乗客266名全員絶望。乗客名簿に一ノ瀬夫妻の名。物理学会に衝撃走る。』


 まだ、ことみが小さい頃… 遠い国で起きた飛行機墜落事故。
 ことみの心の中でまだ収める事が出来ないでいる遠い日の出来事。

 著名な学者として活躍していたことみの両親は、論文の発表のためにその飛行機に
 乗り合わせていました。物理学会を一変させると世界から注目されていた研究論文。
 特別講演会の日程はできるかぎり、娘の誕生日には合わせたくなかったはずです。


    「お父さんのうそつきっ! お母さんなんて…お母さんなんてだいっきらい!」


 お父さんとお母さん、それに朋也も一緒に呼んで祝うはずだったことみの誕生日。
 お父さんからもらえる物なら何でもよかったけど、初めてねだった大きなクマのぬいぐるみ。
 その誕生日を控えて、両親は幼いことみ一人を残して行かなければなりませんでした。


    「ことみ。いい子にして待っていなさい。」


 お父さんがことみに残した言葉。
 そしてこれが、ことみの聞いた最期の言葉でした。




        :
        :





    「…いい子にするから…いい子にする、から…わたし、いい子に…するから…。」



 ことみは押し殺すような声で呟き続けます。
 バスの横転事故によって呼び覚まされた悲しい思い出。
 
 わたしがわがままを言ったから、お父さんとお母さんはいなくなったんだ…。
 幼いことみはそう思い込み、ただあやまり続けました。
 それはことみの心の中で今も変わらずに自分を責め続けている思い出。

 翌日、ことみが学校に姿を見せることはありませんでした。


 何か心に引っかかるものを残しながらも、朋也はことみの様子をみるために
 彼女の家を訪れます。そこには見たことのある家。懐かしい時間を思い出させる庭。
 ことみの家を見た朋也は、昔一緒になって遊んだ友達のいない一人の女の子の事を思い出します。

 ぼやける記憶を頼りにたどり着いた部屋。
 そこで朋也はことみの悲しい過去を知る事になります。

 両親の死亡を知らされると同時にたくさんの大人達に海に沈んだ論文の控えについて聞かれた事。
 そんな大人達から両親のいない家を守るために、ハサミを握り締めて家に閉じこもった事。
 その論文のせいで両親は自分の前から消えてしまったと思い、論文の控えを燃やしてしまった事。
 少しでも両親に近づきたくて難しい本を読み続け、両親の事が乗っている本のページを切り集めてきた事。

 どんなに難しい勉強をしても、どれだけたくさんの本を読んでも、
 ことみは外が怖いと泣きじゃくる小さな子で、大切なモノを燃やして途方にくれる幼い女の子でした。

 再び心を閉ざしてしまったことみ。
 そんな彼女の心を表すかのような荒れ放題の庭。


    "二人が出会い、一緒に遊んだこの思い出の場所を元通りにしよう。"


 ことみの笑顔を取り戻すために朋也は決意します。
 そして3日後。



 ―――かつて両親が生きていた頃の思い出の中の風景。
 彩り豊かな花に飾られた花壇、刈り込まれた芝生に真っ白なテーブルとイス。
 朋也が再び取り戻したあの時の風景。
 そんな思い出の風景の中、初めて出会ったときと同じように朋也とことみは再会します。

 幼い頃、ひとりきりで過ごしていた日々から外に連れ出してくれた朋也。
 あの頃と同じように差し出された朋也の手に、ことみは自分の手を重ねます。


 ことみが再び学校に来るようになって、数日後。
 今日はことみの誕生日。
 友人達はいつか学校でことみが弾いたバイオリンをプレゼントすることにします。
 そんな歓談の中、ことみに届け物があるという用件でことみの後見人が学校を訪れます。

 ことみに渡されたのは1つの古ぼけたカバン。 
 彼女にとって本当に懐かしい、
 ―――あの日、お父さんが旅行に出る時に持っていったカバン。


    「カバンを開けてごらん。」


 "キミのお父さんとお母さんよりも大事なものだ。"
 大人達がそう口々に言っていた論文が入っているのだろうか。
 いろんな感情を閉じ込めた瞳でカバンを見つめて、やがて静かに手を伸ばします。


 中に入っていたのは論文ではなく、 ―――クマのぬいぐるみ。


 飛行機が墜落し助からない事を悟ったことみの両親は、カバンの中にある論文を躊躇なく投げ捨てて、
 かわりにクマのぬいぐるみを詰め込んだのでしょう。
 他の何よりも大切な娘へ誕生日のプレゼントを届けるために。



    世界は美しい。 悲しみと涙に満ちてさえ。
    瞳を開きなさい。 やりたい事をしなさい。
    なりたい者になりなさい。 友達を見つけなさい。
    焦らずにゆっくりと大人になりなさい。

    おみやげ物屋さんでみつけたくまさんです。
    たくさんたくさん探したけどこの子がいちばん大きかったの。
    時間がなくて空港からは送れなかったから。
    かわいいことみ。
    おたんじょうびおめでとう。



 ぬいぐるみと一緒に同封された手紙に綴られた、お父さんとお母さんの最期のことば。
 海に落ちるまでのわずかな時間で書かれたその文字からは、焦りや後悔、遺恨は全くなく
 ただ娘を気遣う優しさだけが感じ取れます。
 そして、幼い頃のことみが燃やしたものは論文の控えではなく、お父さんが取り寄せた
 ぬいぐるみのカタログだった事を知らされます。

 難しい本の中の両親に語りかけなくても、燃やしてしまった論文を書けるようにならなくても、 
 ことみの両親はことみの幸せだけを祈リ続けて、そして今も暖かくことみを見守っている。


    「わたしね、今ね、とってもしあわせなの。
     とっても とっても しあわせで、しあわせで しあわせで、だから、だから…
     だからねっ… お父さん、お母さん… おかえりなさいっ。」


 世界中を旅してついに届けられた誕生日プレゼント。
 涙に頬を濡らしながら、けれども笑顔でぬいぐるみを抱きしめます。



 今日はことみの誕生日。
 いつもそばにいて見守ってくれる両親と、友達たちに囲まれて祝う誕生日。
 お父さんとお母さんからはクマのぬいぐるみ。
 友達たちからはバイオリン。







 シナリオの内容、演出、テキスト、完成度… ほぼ完璧です。
 いなくなった両親に近づきたい一心で、本を読み真正面から過去に向き合う事を避け続けた
 ことみの心情とそれが解放される過程が見事に表現されているように感じました。
 構成上の演出が秀逸であり、その中でも特にアイテムへの意味の乗せ方がシナリオ上、深い意味を
 包括しており、尚且つそれがダイレクトに読み手に伝わるので、直接感情を揺さぶります。

 最後に庭のテーブルを挟んだ両側のイスに、両親からのプレゼントであるクマのぬいぐるみと
 友達からのプレゼントであるバイオリンが一緒に置かれているシーン。
 あの時祝えなかった誕生日の再来であり、自己にかけた呪縛から解放され、幼いことみから抜け出せた
 という意味でのことみの誕生日でもあります。ただ一人で過ごしてきたことみの周りに人が集まっていき、
 こうしてみんなにお祝いされるという絵にはとにかく感動しました。

 絵的に好きなのはぬいぐるみを抱いて涙を流していることみ。
 幼いことみが欲しがった大きなクマのぬいぐるみは、今や彼女にとって小さなぬいぐるみであるぐらいに
 時間は過ぎてしまっていますが、両親の思いが詰まった誕生日プレゼントは彼女にとって非常に大きな
 のでした。その時、ぬいぐるみを抱きしめながら流した涙は、懐かしさや両親への思い、過ぎてしまった
 時間への懐古など、様々な思いからくるものだったはずです。
 それらを全て抱きしめて、さよならと言わずに『おかえりなさい』という場面は最高です。

 唯一、蛇足だと感じた部分は、後見人がお父さんのカバンをことみに渡したシーンで
 『今、君の目の前にあるのが、一ノ瀬夫妻が生涯をかけて完成させた、最高の論文だよ。』
 と言うセリフ。 
 失って取り戻せないもの、両親が大切にしていたものという意味で『論文』を引き合いに出すのは分かり
 ますが、そもそも『論文』は、今も昔もことみ自身を苦しめつづけたアイテムであり、ことみの両親が
 論文を放り出してカバンにぬいぐるみを詰め込んだのは、論文よりも娘の誕生日を優先した表れであって、
 ここで誕生日プレゼントを論文と等価に捉える表現をする事は不適切です。
 書くのなら、『生涯をかけて完成させた論文よりも、大切に思っていたものだよ。』とするべきでした。



■ その他のシナリオ


  −風子シナリオ

  ことみシナリオについで出来のいいシナリオだったであろう風子シナリオ。
 みんなの記憶から忘れ去られながらも、最後に公子に木彫りのヒトデを渡す場面は、今までの風子の苦労や
 思い、その全てが報われる場面であり最高のシーンでした。そして、その思いを遂げて消えていく風子と、
 彼女を思い出したくても思い出せず、歓喜に溢れる結婚式の中で一人泣いていた朋也が非常に印象的です。

  惜しいと感じた部分は "ヒトデ" の使い方。
 風子の思いが結婚式に人を集めた、という形で、文章の上ではヒトデというアイテムを介さずに結婚式までの
 流れを組み上げていますが、ここは字的にも絵的にもヒトデに深い意味を乗せて欲しかったところ。
 ヒトデは "風子の思いが形となったアイテム" という意味を持っているので、ヒトデを手に持った生徒達が
 集まってきた、という絵を明確に描けば、風子の思いが結婚式に生徒達を集めた、とアイテムの持つ意味と
 直接的につなげる事ができたのでもったいないです。特に公子には、風子がたくさんの友達に囲まれる事を
 願っていた、という経緯があるので、風子のヒトデを持った人が集まったという明示的な絵があれば、
 風子のために集まってくれる人がこんなにもいる、という連想もストーリーの中に生み出せます。
 それでも、今まで伝える事ができなかった思いをやっと伝えられた、という風子の感情が前面に押し出される
 描き方をしているので、重みは十分、感動はニ十分です。


  −智代シナリオ

  材料的にはCLANNADの中でも最高のものであったのに、テーマ性に描き方が合っていないせいで
 本来持つべきストーリー性が殺されてしまっています。特に智代の持つバックグラウンドが、シナリオ
 自体に有機的に生きてこないので、朋也、智代の両者に明確な成長図が浮かび上がってきません。


  −春原芽衣シナリオ

  先が読めて臭い展開なのに、何故か泣けるシナリオ。
 春原は感情が表に出るタイプで、芽衣が抱え込むタイプなので、キャラクタの構造関係からして、
 臭いストーリーは自分の感情のツボにはまりますw



■ ベストキャラ


  @ 伊吹風子

  シナリオの良さに加えて、キャラクタがナチュラルに面白すぎるw
 朋也が頭を撫でようとするのを払いのけるところや、お誕生日セットで
 トリップする場面が良すぎますw


  A 芳野祐介

  草野球シナリオのまぬけっぷりがナイス。
 真面目にバカやれて、生き方のカッコいいキャラです。


  B 岡崎直幸

  最後に幼い朋也の手を引いていくシーンは涙モノ。
 全てから解放されて、呼び方が『朋也くん』から『朋也』に変わった時は、
 立派な父親でした。



■ ベストBGM


  @ は〜りぃすたーふぃっしゅ

  風子テーマ。
 キャラの雰囲気が見事に出ている曲だと思います。


  − メグメル

  すべてプレイした後でこの曲の歌詞を考えると、かなり泣けてきます。
 あと曲調が好きです。






■ メインシナリオの構造

 −渚と街の関係性



  本作で渚はただの留年少女としてだけではなく、幼い頃に "この街の願いが叶う場所" で街と同化
 する事で命を救われ、後に形を変えて幸せを失っていく街に同調して生命力を弱める存在としても
 描かれます。これと同じ形式で幻想世界の少女が描かれており、『渚 = 幻想世界の少女』、そして
 『幻想世界の少女 = 街そのもの』という構造を採ってきます。ただ、幻想世界の少女は観念的な存在
 として描かれており、幻想世界の少女がガラクタ人形を「パパ」と呼び、渚シナリオを投影する形で
 幻想世界の物語を展開している事から、CLANNAD世界では、幻想世界の少女という地位(この街そのもの)
 に渚、汐が当てはめられているに過ぎません。
 このような構造から、渚(少女)と朋也(ガラクタ人形)の関係を描く事で渚シナリオは始まります。



    『この学校は、好きですか。わたしはとってもとっても好きです。』

    『でも、何もかも…変わらずにはいられないのです。』

    『それでも、この場所が好きでいられますか。わたしは…』




 "みんなと一緒に何かをするのが夢" という理由で、渚が演劇部を作った事からも分かるように、渚にとって、
 友達に囲まれて過ごす朋也の『世界』は、渚の憧れそのものであり、朋也と初めて出会った日に渚が口にした
 『学校が好き』という言葉は、その時点では渚の思い出や幻想に対する憧れでしかありません。

 その後、渚シナリオでは、渚が朋也の街に対する嫌悪意識を反転させたように、朋也のいる世界に
 踏み出す事で渚自身も『世界』そのものが何かを知る事になります。渚の『幻想世界』が『現実世界』
 に変わっていく瞬間です。
 憧憬の象徴としての『幻想世界』は、渚の心の中で永遠に反芻される不変の存在であり続けますが、
 朋也の暮らす『現実世界』は、常に変化を続け、その変化自体が世界を形作っている本質です。
 留年によって変わってしまった世界に出くわして初めて、渚は『何もかも変わらずにいられない』世界に
 ためらいを感じ、かつて好きであった、または自分の憧憬を変わってしまった現実世界に無理に重ねようと
 して、朋也と渚が初めて出会うシーンで渚は上記の言葉を口にします。 この時点で渚には『幻想世界』
 しか手を差し伸べる存在は無く、その後朋也と共に歩む過程で話す『この街が好き』とは全く意味合い
 が異なるものでした。
 最終的に渚は『それでも、この場所が好きでいられますか。』という問いかけに対して、変化し続ける
 世界を朋也と一緒に歩みつづけ、最後には笑って『この街が好きです。』と答えを出します。
 一方、朋也は渚とは逆に『現実世界』を知った上で街を嫌い続け、渚と出会い、共に歩き出すことで変化する
 世界を受け入れていくようになります。
 


  幻想世界の物語は、渚と朋也の相互干渉の構造をガラクタ人形と少女に投影する形で描かれており、
 『幻想世界』にいる少女をガラクタ人形が『現実世界』へ連れ出そうとする姿は、朋也が渚の手を引いて
 学校の坂を上がる情景そのものです。渚シナリオの朋也は渚の手を引いて『現実世界』に連れ出すことに
 成功しますが、幻想世界の物語では、ガラクタ人形が少女の手を引いて外の世界へ連れ出そうとするものの、
 最後にはガラクタ人形だけが外の世界に還されて、少女は幻想世界に留まりつづけます。『幻想世界』
 に少女が留まりつづける事は端的に幻想から少女が抜け出せない事を意味し、幻想世界の少女という形式で
 街そのものと存在を同じにする渚、汐は、主体としての街そのものに昇華し、結果として命を落とします。


 −タイトル画面の少女



  After Story の3週目で奇跡が起きて渚も汐も死なずにすみますが、その奇跡は "光の玉" によって
 もたらされた物でした。作中で光の玉は幸せの象徴としてCLANNAD世界に登場し、出会った幸せの数だけ
 光の玉が貰えます。美佐枝シナリオで光の玉が、"奇跡を起こせる大切な物" と説明されている事から、
 この街に暮らす多くの人々の幸せ(光の玉)によって起こされた奇跡のおかげで、街そのものと存在を
 同じにする渚、汐は死なずに済んだ事になります。この帰結は、渚が街そのものから分離独立できた事に
 よるものか、それとも幻想世界の少女が外の世界に出る事に成功した事によるものか、奇跡が起きた時点
 では不明でしたが、その答えは3週目クリア後のタイトル画面に現れます。
 
  上記の構造を考えるに、タイトル画面の少女は渚や汐ではなく、ガラクタ人形によって外の世界に踏み出す
 事に成功した幻想世界の少女の存在そのものであり、その幻想世界の少女が "主体としての街" そのものの
 アレゴリーとして描かれている事から、光の玉の奇跡(街の住人の幸せ)によって少女は幻想から抜け出せた、
 すなわち、街の住人が幸せになる事で街そのものも幸せになった事を端的に意味しています。 
 ただ『タイトル画面の少女 = 幻想世界の少女 = 街そのもの』という図式が等しく成り立つわけではなく、
 最後のシーンで風子が喋る事と、タイトル画面のBGMの曲名から分かるように、タイトル画面の少女は多義的な
 存在として、CLANNAD世界の帰結を示すシンボルと理解されます。
 内容的に上述の繰り返しですが、タイトル画面の少女はCLANNADの帰結のシンボルであって、そのシンボルには
 渚も汐も幻想世界の少女も街そのものも当てはめる事が可能ですが、シナリオのロジックの整合性を採れば
 タイトル画面の少女は街そのものの象徴としての幻想世界の少女になります。
 それ故、タイトル画面の少女は、木漏れ日の中静かに寝ている姿ではなく、幻想世界の雪の中で倒れたまま
 ガラクタ人形の奇跡によって、幻想世界を抜け出した事に気付かずに眠っている姿に映りました。
 シンボルの在り方については、Airのラストの少年と少女の意味するシュールさに比べて、はるかに良心的で
 暖かみがあるので構造自体は難解ながらも、結論的にすんなりしたものがあります。



■ まとめ

  朋也自身が抱える問題は渚と出会って一緒に過ごす事で八割方解決しており、あとは渚のために自分がどうあるべきか
 という部分について深く表現されています。出産、渚の死亡、汐との旅行、汐の死亡… その全てに立ち向かって
 くじけて、それでもこの街を嫌う事が出来ない朋也。
 街の住人1人が幸せを見つけるたびに手に入る光の玉。その光の玉が、街そのものと同化した渚を救うという構図は
 この街の住人みんなの幸せが、この街を救う事を明確に指し示してくれます。幻想世界で獣が少女とガラクタ人形の
 旅を助けてくれたように、この街の住人1人1人の幸せが渚を、そして朋也をも救ってくれました。

 『MOON.』、『ONE』、『KANON』、『AIR』と出してきているだけに、完成度、演出もそれに準ずる素晴らしい
 作品でした。総体的な雰囲気と幻想世界の扱いが『ONE』にそっくりですが、CLANNADには今までの作品どれとも
 違った独特の面白さがあります。
 メインシナリオの内部構造はかなり論理的であり、現実世界と幻想世界の整合に光の玉とタイトル画面の少女を
 使って、シナリオ上の免罪符となりかねない奇跡に明確な根拠を示して尚且つ、幻想世界を孤立させずに1つの
 主体として最後には確固とした帰結を与えているのは好感が持てます。バックグラウンド自体も、既存の概念に
 設定の深みを頼る事無く、1つの完成された世界を創りあげ、それを元に色々な物語を見せてくるので全てが
 新鮮に心に届きます。これらのしっかりした前提に基づいて、最高のシナリオを至上の演出方法で見せてくるので、
 本当に言う事なしのデキです。
 
 プレイすれば必ず心に暖かいものを残してくれます。





 この街と住人に幸あれ!




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