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ひぐらしのなく頃に  (2006年8月21日 執筆)



 見どころ:


 「嘘だッ!!」




 A4コピー紙30枚ジャスト。本作をプレイするに当たり筆者がとったメモの枚数。
 ちなみに予想は大外れ。(泣
 とにもかくにも、前半はノンフィクション的ホラーで後半はノンストップ的アクション。
 最高の仲間達と共に惨劇に打ち勝て!



■ 作品の位置付け

 作者の解答編に対する捉え方として、 "バックグラウンドを明らかにする事" だけが解答であると
 考えており、推理モノの面白みの本質である "論理的不整合に一定の解答を与える" 事自体に
 ついては放棄しているので、ひぐらしは実際のところ、読み手が考えて答えをだすサスペンスでは
 なく、アクション・ホラーアドベンチャーという位置付けの作品だと思います。
 ただこの点に関して作者が『問題編』『解答編』と、目指している作品像を明確にしてしまっている事、
 『正解率1%』というキャッチフレーズを前面に押し出してしまった事から、プレイヤーがそれを期待して
 結果としてこの作品に釈然としない感触を持ってしまうのが問題といえます。
 作者自身も最初は論理的な構成を目指していたように見えますが、

  @解答編のあり方として、無矛盾と論理的整合を混同しているように見える事
  A推理の前提となる材料に曖昧さを残す事で後の種明かしがどんな形であっても
   矛盾しないように逃げ道を作っている事
  B客観的に確固とした材料であってもその信頼性をあっさりと覆してしまっている事
  C既存の材料の枠外から新材料を持ち込んでそれを確証として使用している事

 という部分を見てみると矛盾が無いだけで、実際のシナリオ構造自体は非論理的であり、この作品の
 面白さは論理性とは別次元のところに求めるべきです。つまり早い段階でプレイヤーがこの作品の面白み
 の訴求点をシフトさせていかなければ、ひぐらしの良さというのは十分に楽しめない構成になっていると言えます。
 
 上記のとおり、ロジックを追う楽しみは余りありませんが、ホラーモノ、アクションモノとしての面白み
 はかなりのものです。前半の得体の知れない恐怖と焦燥感、後半の王道的な展開に痛快なアクションと、
 全体を通してテンポのいい流れでストーリーが進んでおり、前半のストーリーを彩る演出もレベルが高く
 日常に潜む、現実にもあり得ると予感させる恐怖を見事に描き出しています。後半の痛快アクションは
 やりすぎ感があるものの、思わず応援したくなるようなストーリーに手に汗握る展開に目が離せません。
 それだけに論理性を切り捨ててしまっているのはもったいないと思うところですが、それを補って余り
 あるアクション、ホラーなどの要素で二十分に楽しめるゲームだと思います。



■ シナリオ

@ 鬼隠し編(90点)

 『ひぐらし』の良さが最も出ていたシナリオ。圭一視点で見た、訳のわからぬまま何かに巻き込まれて
 真実を知らぬまま幕を閉じるという不気味さ、そして最後の圭一からプレイヤーへのメッセージが
 ひぐらし世界の味を見事に出し切っています。ひぐらしといえばこのシナリオでしょう。


A 綿流し編(75点)

 すっきりした構成になっており、読み手が謎を考える事に意味を持たせる事を成功させたシナリオ。
 つまり、既存の材料を無視して読み手の想像に頼ることなく、既存の材料だけで作者の求める答えに
 辿り着くことが出来る構成になっています。(推理モノであるなら当たり前の事ですが…)
 それが他のシナリオではできていなかったので、本編ではその楽しみも加わり違った意味での面白さ
 を求める事が出来たシナリオだったと思います。


B 崇殺し編(80点)

 問題編プレイ時はこのシナリオが最高に良かったと思いました。というのも綿流し編と違って、既存の
 伏線や具体的描写を確証としたシナリオが非常に描きにくかったからです。解答編が出る前だった事も
 あって、問題である以上答えに辿り付くパスは既存の材料から択一的イメージに捨象可能である、と
 考えていたので解答を知るのがかなり楽しみでした。結果としてその期待は見事に裏切られ、解答の
 ほとんどは新規の材料を基底として組み上げられたものだったので全く無意味でしたが…。
 ただ、シナリオのあり方として崇殺し編の相互補完部分を完全に解答編に頼ってしまう構造になって
 いるので、この時点ではよくも悪くも解答編次第という留保をもらっている状態です。その意味で
 最高に意味不明な展開だったので期待は相当に大きなものでした。そして解答を期待させる事が
 問題編が読み手を楽しませる最大の売りである事を考えると本編は最高のシナリオだったと言えます。


C 暇潰し編(30点)

 『あなたはこの物語を拒否する権利があります』というシナリオ紹介文言で相当嫌な予感がしました。
 というのも暇潰し編は梨花がメインキャストを張っており、拒否する権利があるとしたなら他編の
 解答のトリックに拒否可能な梨花を絡ませる必要も意味もない事を作者が許容する事になり、ひいては
 読み手に与えられた推察の枠組みを、場合によっては作者の都合で変えてしまえる事を明言したに等しい
 意味を持つからです。つまり、『なんでもありにしますよ』と宣言したのと同等の意味を持ちます。
 もし、この文言がなく世界のメタ的視点に立つ梨花を許容するに留まれば絶対的視点を許しただけに過ぎず、
 シナリオ上、大した問題はありませんが、暇潰し編自体の存在を拒否できるとなれば、暇潰し編の世界に
 他編の世界との分離独立を認める事になり、暇潰し編の持つ材料を都合のいい確証として機能することを
 許す事になり、シナリオ上なんでもありになってしまいます。


D 目明し編(55点)

 唯一論理的な展開を見せて来たシナリオ。ただ作者はトリックを用意してそれをストーリーに馴染ませる
 事に失敗しているので結局、悲劇というよりはただの狂気になってしまっている感があります。本当の
 意味での "解答編" ではあるものの、描き方のほとんどを嫌悪感を喚起させる文章に頼っている事に加えて、
 詩音の内心の経緯、狂気の由来が単純に悟史から直接演繹されているので、全体としてみた時に詩音の内心
 の動きが読み手から見て変化なしと感じてしまいます。この中で沙都子と詩音の対比として、『待ち続けた人』
 と『諦めた人』という対照構造を構築していたので、これを軸にした展開を期待したいところでした。
 一番欲しかったのは、沙都子の信念と詩音の狂気を対照的に描く事によって、詩音の狂気を悲劇に昇華させる
 ような描写。最後の最後でしか沙都子と詩音の対比をを表に出してきていないので、話の中盤は単なる詩音
 の狂気にしか見えず、沙都子の死以外についてはストーリー上の解決を完全に放棄している(狂気を演出する
 駒としてのみ使われている)ので、ストーリーの密度が少し低めです。ただ作者が担保しなければならない
 詩音の心情描写の経緯と理由付けを『難易度は高め』とシナリオ紹介文で書いてしまい、解答の用意を放棄
 してしまうのを正当化している部分には、都合のよさを感ぜずにはいられないところ。


E 罪滅し編(75点)

 このシナリオから論理性を捨てて完全にアクション主体の面白みを追求しています。ただレナの心理描写が
 非常にうまく、目明し編と違って圭一という比較対象をしっかりとシナリオの中核に据えているので、何が
 したいか分かりやすく解答編の中では完成度の高いシナリオでした。レナの暴走を圭一の意識と照らし合わせて
 その齟齬の解決を図る過程が丁寧に表現されているので、読み手から見てもどういう感情でどういうアクション
 をとろうとしているのか理解しやすく、感情移入が非常に容易です。特にレナの暴走の滑稽さだけを浮き彫りに
 しようとする手法が見事で、そこに作者の意図が見え隠れしており、そこに気付かされた読み手としてもニヤリ
 としてしまう部分が多く楽しめました。


F 皆殺し編(90点)

 解答編ではこのシナリオが最もバランスがあって自然だったように思えます。罪滅し編、祭囃し編の超展開
 もなく、目明し編のようなキャラクタの内的ストーリー破綻といった破滅要素もなく、実に完成度の高い構造
 と演出になっています。"仲間を信じる" というテーマに焦点を絞って、沙都子を救うために全員が一体と
 なって力を合わせるというストーリーを展開しているので読み手にとって分かりやすいシナリオです。
 最後に『信じなかった人がいる』とレナが言って『ねぇ、あなた』と言う言葉。一瞬プレイヤーに向けられた
 ものだと思いドキリとさせられました。


G 祭囃し編(60点)

 前半はバックグラウンドの種明かし。
 バックグラウンドを明かしただけで謎が解けたわけではないのですが、欠片紡ぎという表現手法が断片的な
 見せ方を許しているので、作者が見せておきたい材料は全て含まれていたように思われます。
 鷹野への羽入の宣戦布告はしびれましたw
 後半はアクション以上にギャグに走ったシナリオ。論理の次に作者が放棄したものはバランスでした。
 ここではキャラの能力の射程を無限大に拡大してしまったのでストーリーの現実性は完全に立ち消えました。
 ひぐらしの解答編としてみると失笑モノですが、その名の通り『祭囃し編』と捉えるとまさに最高のシナリオですw
 このシナリオに関しては明確に否定派、肯定派が分かれる部分だと思いますが自分は当然肯定派。
 気になるのは後書きの作者の意図。このシナリオでは作者が具体的な形で解答を提示した上で『正解』という
 言葉を使っているものの、解決方法が択一的選択手段になっていない事、そもそも明確な問題提起がなされて
 いないので作者の裁量で問題自体を改竄できる事、からロジックの底の浅さが見えてしまっています。
 緊急マニュアルの存在に頼ることなく問題を解決する方法はいくらでもあるので、作者の出した解答に限って
 正解と断定する事は出来ず、その逃げ道として作者より良いシナリオが描ければそれが正解、というニュアンス
 の後書きを入れているのは如何なものかと…。
 それにしても終戦記念日近くの発表で『盧溝橋』はマズイ…。



■ ベストキャラ

 @ 竜宮レナ

  思い込み度も危険度も詩音を上回るひぐらしのキャンペーンガール的存在。
 問題編、解答編と圭一もプレイヤーも縮み上がらせて、罪滅し編ではアホッ子全開ながらも
 狂気の立役者として大活躍。そんな事より鬼隠し編の「嘘だッ!!」が怖すぎです。

 A 園崎魅音

  本作で最も哀れだった人。鯛の刺身食べたさに園崎家当主となってしまいシナリオによっては
 詩音に恨まれ、ある時は園崎家当主として警察に散々探られ、またある時は圭一の無神経さに
 傷つけられ…と、シナリオの扱いにおいても詩音との関係でキャラ的立ち位置も実に不遇。



■ ベストBGM

 @ you

  詩音が悟史を待っているときのテーマ曲…っぽい。
 自分の中では解答編の雰囲気はこの曲そのものです。

 A 古 −いにしえ−

  主に謎を考えさせる時のBGM。
 何が言いかと訊かれると答えられませんが、何となく馴染みがある曲です。


■ 評価

 上述の通りホラー、アクションモノとしての出来は秀逸であり、最終的に描きたいテーマにもマッチ
 しており、ひぐらしは非常に面白い作品です。そしてこの作品が作者の伝えたい事を媒介している、
 つまり、ひぐらし世界を通して読み手に作者の考えや美学を映し出しているはずですが、後書きと
 シナリオ紹介文を見るとどうにも頭から疑問符が抜けない部分があります。

 基本的にひぐらし世界を通じて読み手が受け取ったメッセージが客観的に見たときの "伝えたい事"
 にあたるはずですが、後書きの内容はそのメッセージの全体像を的確に捉えたものではない、シナリオ
 紹介文が作品の持つ構造自体をうまく把握したものではないように感じられるので、ゲーム外の部分
 で理解しきれないところが残ります。つまり、作品のレベルに後書きやシナリオ紹介文のレベルが追い
 ついていないような印象を受けます。後書きの内容が作者の本当に言いたい内容なのか、それとも後書き
 で書かれたテキストが作者の意識をうまく反映できなかったものなのか、掴みかねる部分ですが結果的に
 蛇足だったように思います。
 シナリオ紹介文に関しては問題編で作者が予定した訴求点がそのまま現れたものと見ることが出来ますが、
 そもそも本作は推理モノとして機能していない上に推理モノである事を匂わせる表現を押し出しているので
 読み手の混乱を誘ってしまいます。ついでに、祭囃し編のシナリオ紹介文では『あなたの用意した解と
 私の用意した解の一騎討ち』と書いていることに加え、祭囃し編の後書きで『お届けした物語より素晴ら
 しい解(世界)を描けたとお感じになられた方は、一騎討ちに勝ったと思っていただいてよろしい』とある
 あたり、当初読み手に論理的解答を求めておきながらその実、作者側が解答の提示を放棄しているしたたか
 さには半畳を入れたくなる次第。
 尤もひぐらしの解答の予測自体、解答が新材料に依拠している事、推察材料が提示されていない事、から
 論理的推量の範疇を超えているので、舞台設定だけを予告された新作ゲームのシナリオを想像するのと同じ
 レベルの作業と言えるものですが…。

 このあたりは単純に作者がそこまで深く考えていなかった、バックグラウンドさえ明かせば解答足りえる
 と誤解していた事が原因のように見ますが、作品の持つテーマ性自体は一貫しているのでこの視点から
 ひぐらしを捉えた場合、演出、展開の面において右に出るものがいないぐらいの秀逸さです。
 その意味で本作の作者は、『キャラを媒介して感情に訴えかけるメッセージを送る』能力がずば抜けて高く、
 『論理的な結論を発信する』センスは普通の方のように見えます。

 なので最初から推理モノの側面を切り捨てて、ホラー、アクションモノに絞って展開していけば、特に
 問題となる部分も無く、1つの完結した物語に仕上げる事が出来たと思います。ただ、『正答率1%』
 などのキャッチーなフレーズ等、話題性を集めるために本作の推理的側面の偽装が一役買ったという経緯が
 あるので、一概にホラー、アクションモノとしてひぐらしが完結する事が最良とは言えないのが難しいところ
 です。ただ気になるのは作者は果たしてそのあたりの事にどれくらい気付いているのか疑問だという部分…。
 とはいえ作品が作者の延長線ではなく一人歩きする事で1つの作品像が作り上げられる事を考えるに、
 作者の意志と作品の客観的評価は別物なので、作者との対話の道具としての "ひぐらし" ではなく、
 作品単体としての "ひぐらし" としての評価はすばらしいものだと思います。

 次回作には期待したいところです。



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