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夜明け前より瑠璃色な(2006年4月8日 執筆)



 見どころ: キャラ


   例えるなら 『マッチ棒で組み上げたエッフェル塔』





■ 総評

  シナリオの構成はスゴイが要素のつながりが薄味。
 あとはよく萌える。

 シナリオの構成は『YU-NO』の前半部分と同じ。
 つまり、かなり精巧にシナリオの骨子を組み上げたうえで、個々の
 シナリオに肉付けをしています。
 具体的には各ヒロインルートを小シナリオと見立てて、それらを大きな
 前提、伏線として扱い、最終ルートの大シナリオを組み上げていくという
 構造になっています。描きたいものが明確でないとこの構成は成立しない
 のですが、その点、本作はシナリオにおいて薄味ながらもあやふやな部分
 が少ないので全く問題ありませんでした。
 ただ、本作ではシナリオや演出に問題が無かった代わりに主人公に大きな
 問題があったせいで、いまいち煮えきりません。

 登場人物と世界の関係性という切り口で見ると、本作は世界が主人公
 達に影響を与えるという形ではなく、主人公達が世界を変えていくという
 形の構成です。この形の展開をとる場合、作り手が見せたいものは
 当然、困難に打ち勝つ主人公達の魅力という事になり、そういう点では
 フィーナは言う事なしのヒロインです。しかし問題があるのは主人公。

 二人で困難を乗り越えていくという部分について、その全ての契機を
 フィーナに任せてしまっているので、外観的に主人公は何にもしていません。
 エロシーンで出すだけです。
 結果、主人公からは強さも弱さも見えてこない状態となり、飽くまでフィーナ
 が成長するきっかけを作る人間(材料)でしかありません。
 ストーリー上の立場として重要な位置を占めないのなら、無価値なキャラクタ
 でも問題はありませんが、主人公は事もあろうか心的描写の主体として、
 フィーナと悩みを共有しています。
 主人公のキャラクタを希薄化させるのなら、希薄化した主人公が世界に立ち
 向かうという構成をとるべきではありませんでした。

 シナリオの構造的なところで主人公はどうしようもないキャラクターでしたが、
 その分ヒロインはかなり有機的な性格付けと行動が目立ちます。
 最終ルートではシナリオの全貌、個別ルートでは萌え展開という構成でしたが、
 個別ルートのテーマは恋愛だけに留まる事無く、家族愛、仲間の絆といった
 部分について深く描かれています。

 本作では、恋愛が2人だけの世界として閉鎖するのに対して、その恋愛が及ぼす
 周りへの影響に比重を置いたつくりになっています。
 エロゲーの当該ルートにおいてヒロインが魅力的なのは最低条件ですが、それと
 同等に他のヒロインやキャラについても丁寧にその魅力を表現しており、どの
 キャラも魅力的に映ります。個別ルートでスポットライトが当たった状態の
 ヒロインが舞台で踊るのは当然ですが、他のヒロインがその時何をしているか
 については作り手の裁量です。その点で本作は非常に面白く感じました。



■ シナリオ

  最終ルートと個別シナリオの関係については上述の通りながら、その関係性を
 決定付ける材料がかなり少ないので、最終ルートは個別ルートの登場人物を使った
 別ストーリーにしかなっていません。最終ルート単体で見ると面白かっただけに、
 個別ルートにそれを関連付ける描写がないのが残念。せめて親父の話なんかは
 他のシナリオでも放置せずにアイテムだけでも見せておくべきだったかと…。

  最終ルートではフィーナがイニシアティブをとって展開しているだけに、その
 展開の深みは主人公・達哉のフィーナに対する行動にかかっていたわけですが
 エロシーン以外にさしたる活躍なしです。2人が助け合うというシナリオで展開
 しているのに達哉はなすがままです。

  麻衣シナリオ・菜月シナリオは萌え専用に作られています。
 ストーリー性を最小限に押さえて、用意された状況でのヒロインの感情の動きだけ
 を描いています。

  リースシナリオは最終ルートへの布石という扱いながら、シナリオの扱い自体
 がぞんざい。



■ 演出

  絵的な部分で演出しようという気が無いのか、キレイなものを揃えただけで
 絵の中にストーリーが見て取れません。構造的な部分では仲間の絆というテーマ
 を念頭にみんなが助け合う姿を描いているので素直に感動できました。




■ テキスト

  テキストはいまひとつ。
 行間を読ませる書き方を意識すらしていないようで、複雑な心情も割り切れない
 葛藤も表現の厚みは全く変わらず。よくよく考えると主人公が無機的で空虚なの
 はテキストの一人称が主人公であるからかもしれません。



■ 音楽

  読み手の中の偶像を育てるのがテキストなら、読み手の中の世界を印象付けるのは音楽。
 音楽そのものも状況への適合も言う事なしにいい音楽でした。

 『Happy relation』

  菜月の雰囲気によくマッチしていると感じました。
 曲自体も好きです。




■ ベストキャラ

  どのキャラも魅力的です。
 あのテキストでなぜ魅力的なのか不思議ですが、シナリオとキャラクターの接着面が大きい
 事に起因していると感じました。
 つまり、シナリオ上のイベントの帰結がキャラの魅力によるものなので、プレイヤーの中でシナリオ
 の持つ魅力がキャラにリダイレクトされやすいからです。

 ・フィーナ

  ストーリーの中核にして、キャラ的にもシナリオの構造的にも主人公を尻に敷きつづけたヒロイン。
 なぜ主人公・達哉を選んだのかプレイヤーから見るとかなり謎。本作においては主人公以上に主人公
 らしいヒロイン。本来なら弱さを見せるフィーナの手を、達哉が強さをもってひっぱっていくところ
 なのだが、弱さも自力で解決して達哉を引きずる勢いで月まで行って困難に打ち勝ってしまう。
 古今東西、主人公より目立ったヒロインは多くいたが、主人公の存在意義をエロシーンだけにして
 しまったヒロインは類を見ないです。

 ・朝霧麻衣

  萌え担当。
 もうね、餃子を食べる時の『イタダキマース』がどれだけ(略 
 あんまり長くかくのもあれなので、

















 この字を長い事眺めていると『崩』に見えてきます。



■ まとめ

 最終ルートのような展開で締めくくっていくつもりなら、キャラのアクションに
 起因するイベントについてもトップダウンで考えて作っていくべきだったかと…。
 下手にいい材料を持っていながら、ミスマッチなイベントの置き方をしたので、
 主人公のキャラクタが殺されて、深みがなくなったのが残念。

 但し、キャラの魅力、萌え度は最高。
 よって『けよりな』は萌えゲー認定!

 ところで表題の『夜明け前より瑠璃色な』には、後に続く単語で2通りの意味を
 持たせているようです。





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