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リトルバスターズ!(2007年8月20日 執筆)
 ※ 【リトルバスターズ!EXのレビューはこちら】





      "ただただ、楽しくて…いつまでもこんな時間が続けばいい。
       それだけを願うようになった。"
(リトルバスターズ公式HPより)





  感想は激しく笑って激しく泣いた。
  くちゃくちゃ爽快で感動的なストーリーです。
  *例によって独断的な考察・レビュー・感想です。ネタバレになるので注意!



      世界の構造
      小毬シナリオ
      美魚シナリオ
      クドリャフカシナリオ
      来ヶ谷シナリオ
      葉留佳シナリオ
      鈴ルート+Refrain
      ベストキャラ
      ベストBGM
      総評

______________________________________________________















■ 世界の構造

 虚構世界の構築と維持には鈴と理樹を除くリトルバスターズの力が必要であり、世界の構築段階では
 鈴と理樹以外のリトルバスターズが意思疎通をして世界を作り上げます。メンバーが虚構世界から
 抜ければ抜けるほど虚構世界の維持が困難になっていきます。
 美魚、来ヶ谷、クド、葉留佳は世界の構築に力を供出しているものの、虚構世界に本人の
 分身を参加させる事はできず、現実とリンクが希薄なNPC(ノープレイヤーキャラクター)
 として現れます。理樹、鈴はNPCではなく現実とリンクした本人が虚構世界に入り込む形で
 参加しており、精神的成長とある程度の記憶を保ったまま繰り返しの世界を生きることができます。
 恭介、真人、謙吾、小毬の4人は現実世界と虚構世界の両方を知った本人として全ての精神的成長、
 記憶を保ったまま世界を繰り返す事ができます。
 

名前 ポジション 説明
恭介 現実世界と虚構世界の両方を知っている、虚構世界を管理する方法を知っている。 バス事故から生還させるために鈴と理樹の成長を願って虚構世界を作り出した。
この世界 を意のままにする事ができる管理者。
最後まであらゆる形で鈴と理樹にミッションを与え続けて強くしようとした。
真人 現実世界と虚構世界の両方を知っている バス事故から生還させるために鈴と理樹の成長を願ってこの世界を作り出した。
基本方針として全部、恭介のやる事に任せて見守る事に徹していた。
謙吾 現実世界と虚構世界の両方を知っている バス事故から生還させるために鈴と理樹の成長を願ってこの世界を作り出した。
しかし、恭介の強引なやり方に反発。"この世界" の居心地のよさに現実と
向き合う事を拒否してこの世界に留まり続けようとした。
小毬 現実世界と虚構世界の両方を知っている この世界が虚構であることを知っているが、葉留佳やクドがNPCである事には気付
いていない。理樹が全てのヒロインを救う過程を見てきており、その時の記憶から
8人の小人の絵本を書く。虚構世界の住人ではななく、恭介や真人たちと同じ存在。
最後のシーンで恭介が見ていたのが青空、鈴と小毬のラストシーンは夕焼けという
部分を考えると、恭介がいなくなった後でも世界を維持できたのは小毬のおかげ。
理樹 現実とリンクした本人 何も知らない人その1。
虚構世界である事に気付いていないが、現実とリンクした本人なので、虚構世界
での体験や精神的成長が現実世界の自分に帰属する。つまり、ヒロインを救えば
救うほど精神的に成長していく。
現実とリンクした本人 何も知らない人その2。理樹と同じ位置付け。
鈴バッドエンドで大人たちに捕まった体験からRefrainでは心に傷を負った状態
を引き継いで登場する。
葉留佳 虚構世界のNPC 現実の葉留佳に虚構世界の体験の効果が帰属するか不明。
この世界の葉留佳は現実の事故の事を覚えていない(恭介にそのように作られた)し、
現実の葉留佳はこの世界の事を知らない。リトルバスターズエンドでは、現実世界で
自己の問題を解決しているが、それが虚構世界での成長が原因か、現実世界でリトル
バスターズにいるうちに意識改革が起きた事が原因か不明。
虚構世界のNPCの体験や成長が現実世界の本人に影響を及ぼすか不明。
美魚 虚構世界のNPC 虚構世界で生きる住人。
虚構世界でこそ美鳥は存在しえた。
クド 虚構世界のNPC 葉留佳と同じで現実のクドとは無関係。
虚構世界にも母親の遺品である部品を持ち込んだために、母親の死んだ現実世界を
思い出す事ができ、NPCなのにこの世界が虚構である事に気付く。
来ヶ谷 虚構世界のNPC 自分が虚構世界に生きる住人であると自力だけで気づいた人。
(来ヶ谷の人間性を理樹が指摘した後に『私は本当に空っぽだったんだよ』と言う)
来ヶ谷ルートでの恋物語は、NPCと理樹の恋物語で、Trueエンドではそれが来ヶ谷本人
と理樹の恋物語に拡大する。
恭介と同様に虚構世界を管理する方法の一部を見つけた。



 この世界では恭介が世界にリセットをかけることができます。
 基本的に世界にリセットをかける(プレイヤー視点ではルートをクリアしてもう一度最初からやり直す)
 のは、恭介が理樹を見て十分と判断した時です。来ヶ谷ルートのような例外もありますが…。
 
 理樹はその虚構世界で個別のヒロインルートで彼女達の問題を解決していきますが、やがて最後に
 鈴バッドエンドに行き着きます。これは恭介が鈴を成長させようと強引な手段を用いた結果、失敗して
 しまい鈴の心に大きな傷を残して、それは次の世界である『Refrain』まで持ち越されます。
 この結果を見て真人は恭介を黙認し、謙吾は恭介のやり方に反発します。こうしてバラバラになった
 リトルバスターズを理樹がもう一度立て直そうとするのが『Refrain』ルートです。

 世界をある程度管理する権限は恭介が手に入れていますが、その方法や起源は不明。
 この点について恭介が作った虚構世界のNPCである来ヶ谷が独自の虚構世界の構築に成功している事から、
 管理者権限の取得は後天的なものである可能性が強いです。それで恭介と来ヶ谷の行動の共通点を探して
 いるのですが、不明のままです。


 上で書いた虚構世界における登場人物のあり方について他の考え方もできます。
 可能性として、ラストの恭介の発言を根拠に理樹と鈴を除く全員が恭介と同じく現実世界と虚構世界の両方を
 知っている本人であると仮定する事もできますが、その場合、いずれのルートでもヒロインたちは理樹との
 ふれあいの中で精神的成長を果たした上で完全に "演技" を繰り返しているという、とんでもなくシュールな
 前提になります。はるちんも天然に見えてその実、自己の問題全て解決後に佳奈多とのケンカを再現していたら…(泣
 
 これを柔軟に修正する形で、小毬と鈴のラストのシーンの絵本の話を根拠に、当該ヒロインルートクリア後に
 ヒロインがNPCに置き換わると仮定する事もできますが、そもそも虚構世界から本人が出て行く必要がない上、
 (恭介が言うように人が減れば減るほど世界の維持が困難になる)
 小毬の絵本で、『問題を解決して小人が森を出て行く』と話している内容が、『小人=ヒロイン』『森=悩み』
 『出て行く=解決』という暗喩の意味で使われている部分が強く、『虚構世界を出て行く』というニュアンス
 で捉えるには、合理性、論理性が比して薄いように感じられます。
 というのも、自己の問題が解決したから理樹と鈴の問題をほったらかして虚構世界からフェードアウトした、
 というわけではないでしょうし、むしろ理樹と鈴を生き残らせるために他のメンバーが協力したと考えるのが
 自然であるように思えるからです。ゆえに現実世界のヒロインたちの存在自体が虚構世界を支える礎になっており、
 理樹と鈴を助けるという目的において絆(関連性)の強い男キャラ(+小毬)のみが虚構世界にも硬い自我を
 もって存在できたと考えられます。

 また、プレイヤーは2回同じヒロインのルートをクリアした場合、2回目は中身の完全に消えたNPCとの物語という
 これまたシュールな事になってしまうので、ちょっとルートをやり直してみたくなったと思って2度目をプレイしても
 それはヒロイン本人と理樹との物語ではない事になりますw
 さすがにこれはライターの意図ではないはずなので却下ですw


 以上のことに加えて、当該ヒロインについてそのシナリオのクリア前後で明確な差異がライターによって示されて
 いない点、または積極的に示そうという構成がシナリオに見られなかった事から、ライターはこの点について重視して
 いなかったと考えられ、この志向性について消極的謙抑的に解釈すれば "演技" をこなしていたのは男キャラを除いて
 小毬だけです。小毬を例外と受け取る事は世界の構造上結構なオーパーツですが、記憶の継承という確固とした根拠が
 ある以上、このように解釈せざるを得ず、小毬ルートを2回クリアしたケースの違和感について、小毬ルートで絡みの
 ある恭介が小毬を操って鬱にした事が前提にならざるを得ません。恭介鬼っす…。

 この虚構世界での在り方について、恭介を始め男キャラが現実世界と虚構世界の人格・記憶の共有が可能だったのは
 リトルバスターズのコアメンバーであるが故の結びつきの強さでしょうか。そこに小毬が入り込めたのは、外観的に
 鈴と仲が一番いいように恭介たちに判断されたからかもしれません。
 これについてはただの想像で根拠なんて全くありませんが…。

 妄想ですが、小毬が恭介たちと同等にヒロインたちの問題を含め虚構世界の鳥瞰をなしえたのはひょっとしたら小毬が
 虚構世界を作り出したからかもしれません。本作で全ての登場人物に共通した『問題の解決による虚構世界からの解放』
 はそのまま、他者の悩みを解決して自己の幸せとなす『幸せスパイラル理論』であり、理樹たちと出会ってそれほど
 時間を重ねたわけでもない彼女が記憶を保持していけた事や、屋上で流れ星を眺めて理樹と会話していた内容などを
 考慮すると、小毬によって虚構世界はもたらされた可能性もあります。
 それを可能にしたアイテムが小毬の奇蹟を起こす髪飾りだと考えると、最後に鈴にその星の髪飾りを渡したのも最後の
 奇蹟を理樹と鈴に託したという意味なのかとも捉えられます。
 つまり、小毬が髪飾りの2つの星のうち、1つを使用して虚構世界を作り出し、もう1つを鈴に託して、それが結果として
 理樹のナルコレプシーを治癒するという奇蹟をもたらしたのではないか。
 小毬の優遇ぶりを考えるとこういうのも妄想としてはありかと思ってしまいますw

 ただ1つ注意点として、ライターのスタンスとしては虚構世界の構造を読み手に解かせることが本懐ではなく、
 飽くまで虚構世界の設定は、ストーリーを読み手に提供する上での一つの道具でしかありません。そのため、
 虚構世界の整合については読み手が気にしているほど、ライターはその点について重視しているわけではない
 事を知っておく必要があるように感じられます。
 それを踏まえた上で、上記のようにいろいろと虚構世界の構造について考えてみました。










■ 小毬シナリオ (57点)

 とりあえず特徴の無いシナリオ。F&Cあたりの量産ゲーにでてきそうな印象…。
 しかし、アイテムの使われ方や理樹と死んだ兄の行動方針を照らし合わせて深く読んでいくと、実はかなり
 綿密に組み上げられているシナリオ
です。

 小毬の兄は、小毬を現実に向かい合わせると壊れると分かっていたので敢えて、小毬が夢へと逃亡
 する道を教え、それが現在の小毬の足枷になっています。ただ、死んだ小毬の兄もこのままでいいと
 思っていたわけではなく、その伝えられなかった言葉を理樹が伝える事になります。
 この流れの中で、小毬の素敵なもの探しへの意識と絵本が重要な意味を持ってきます。
 花を摘んで持って帰ればいつか枯れてしまうように、素敵なもの探しにはその裏側に必ずつらい、そして
 見たくない部分というのが存在しますが、小毬は過去体験からそれらから全て目をそむける事で自己防衛
 を果たしてきました。小毬の兄もその事を危惧していたものの、死んでしまいその言葉は小毬には伝えら
 れることはありませんでした。そして、兄の絵本に話を続ける事で、理樹は死んだ兄が伝えられなかった
 言葉を伝えようとします。

 最終的にその言葉は小毬に伝わり、絵本には今まで小毬が避け続けた否定的な要素と、それを乗り越えて
 幸せに暮らすという結末が小毬によって付け加えられます。
 シナリオの展開や締めは文句なしなんですが、如何せん表現や心情描写がひどく単調なので心に残りません
 でした。特に兄が小毬へ伝えられなかったメッセージについて存外に軽い扱いになっているせいで、
 読み手の感情移入が十分になされなかったように思えます。
 シナリオの良さは『オーケー』ですが、とにもかくにもアイテムの活用の仕方や演出が悪すぎるので
 非常にもったいないです。
 『見なかった事にしよう!』という程のシナリオではないですが、やっぱり印象に残らないです。



■ 美魚シナリオ (68点)

 良くも悪くも非常によく練りこまれた美しいシナリオ。
 文学的なテーマを匂わせながらもその奥に分析心理学的な構造を隠して作られているあたり、
 シナリオライターの構成力はかなりハイレベルです。ただ、演出なんかはダメダメ。
 表のトリックは若山牧水で裏のトリックはユングのアーキタイプっぽいカンジ。

 若山牧水の和歌である『白鳥は哀しからずや空の青、うみのあをにも染まずただよふ』
 という和歌。『青』と『あを』で別の意味を載せており、これについて本編では理樹の視点から
 ひたすら説明しています。
 『青』とは一人でいる美魚の世界、『あを』とは理樹と一緒にいる世界、その間にある空白は
 現実に存在できない世界です。そして、海の青に染まる存在である魚が美魚であり、どちらの
 "青"にも染まらない存在である白鳥が美鳥を意味しています。

 美魚は牧水の歌を美鳥への贖罪の意味で口にしています。
 つまり、白鳥(美鳥)は、海の青(一人でいる美魚の世界)にもそらのあを(理樹と一緒にいる世界)
 にも染まる(生きる)事ができず哀しくはないだろうか、という意味です。

 一方でユングのアーキタイプの1つである"シャドウ"を意識したような構造にもなっています。
 シャドウ(影)とは、自己同一性の確立で補完的な役割を果たす人格の一側面で、普段は表に
 でない抑圧された顔、隠された顔を意味するアーキタイプ(原型)です。
 表に出ている普段の人格が美魚、それとはほぼ正反対の明るい行動的な人格(影)が美鳥。
 美魚が『カゲナシ』と表現されて、影を持たない人間という設定にされているのは、美魚が昔、
 薬物治療で美鳥(影)を失ってしまった事に由来しています。
 ユングの提唱する人間の人格形成過程では、影の存在は必須であり、これらを含めて多くの
 アーキタイプがバランスを保つ事によって人間の自己同一性は確立されていくとしています。
 従って、本人(美魚)と影(美鳥)が独立した状態では、人格は不完全なものであり、1つ
 の人格として確立を得ないために、美魚も美鳥も影がありません。

 美魚と美鳥はそれぞれの自己像について別の主張を展開しています。
 美魚は他者に影響されない孤独な自己が本当の自我であると主張し、美鳥は他者から認識される
 自己像こそが本当の自我であると主張します。この2人の食い違いはそのまま人格形成過程に
 置き換える事ができますが、最終的に美鳥が美魚の中で生き続けるという結末を見せている事から、
 本当の自我とは、他者に影響されない孤独な自我だけでも、他人が認識するだけの表面的自己像
 でもなく、その2つの共存によって生まれるものである、と結論付けています。

 シナリオの構造はしっかりしており、おおーっと感心させられました。
 ただし、これらのトリックは読み手の感動を喚起させる事とは別次元のものであり、ストーリー
 として感動できるかと言えば、結局あまり感動できませんでした。
 つまり、だからどうした、という印象です。
 感動できなかったのは心情描写をあまりに詩的表現や抽象化された比喩、暗喩に頼りすぎているせいで、
 理樹や美魚の生の感情がまるで伝わってこなかったからでしょうか。こういった詩的、抽象的な表現は
 料理のスパイス程度に散りばめるのであって、決してシナリオの主役に上がらせるものではない
 とも感じました。



■ クドリャフカシナリオ (15点)



 何をしたかったのかよく分からないシナリオです。
 自己同一性に悩む部分をメインテーマにしているのか、家族とリトルバスターズのどちらをとるか
 という葛藤をテーマにしたいのか不明です。
 途中のコウモリの話はバックグラウンドにもあっており、物語に馴染んだものでした。
 これをメインテーマにして話を広げていけばいいシナリオになっただろうなぁと想像してますw
 ですがシナリオライター的にメインはラストのシーンにある模様。

 これもリトルバスターズエンドをみないと意味不明な部分が出てきますが、まず現実世界でクドは
 修学旅行に行けなくなる事と、理樹が好きだった事から、母親の安否確認に行きませんでした。
 クドはそれを後悔していると言っている事から現実世界の母親は死亡している可能性が強いです。
 しかし虚構世界では母親は生きている事になっており、クドは現実世界のその時と同じ局面に向き合う
 事になります。ただし、クドは現実世界の修学旅行の事について言及しており、遺品の部品を持った
 状態で虚構世界に登場しており、その部品が母親の遺品である事も認識しているために、母親が
 生存する虚構世界について、その世界が現実ではない事を認識している事になります。

 そんな裏設定があってクドは帰国し、例の鎖でつながれたシーンまで進みます。
 クドは母親の遺品である部品(自責の念、後悔)を理樹に捨ててもらおうとしていましたが、
 それはクド自身が内心で決着をつけなければならないものとしてクドに送り返します。それを手にした
 クドは自己を束縛する自責の念、後悔の鎖にぶつけて砕くという行為によって克服します。
 この描写が成されている世界は精神世界とも恭介の作った虚構世界の話ともとれますが、どちらかは
 明確にされていません。

 個人的に総評として一つ言えるのはシナリオの結論の出し方が最低
 クドの生命の安全よりも母親の安否確認の方が大事だと言って送り飛ばすのはいかがなものか…。
 クドの母親が本当にそんな事を望んでいたのか激しく謎。クドの母親は自己の安否確認よりも、
 娘にはただ普通に生きてくれて、危険な目には遭わせたくなかったのではないか。
 このシナリオライターの中では人間の命はそれ程軽い扱いなのかと小一時間(ry
 この設定でシナリオを作るなら、母親の安否確認に躍起になるクドを理樹がなだめるという展開の
 方が自然な気がします。そこで、かつて両親を失った理樹が恭介たちリトルバスターズに救われた
 ように、今度は理樹が塞ぎこむクドに手を伸ばすという展開。
 どうしても、理樹がクドに安否確認を勧めるという展開にしたいなら、リトルバスターズ全員で
 危険な状態にあるクドの故郷に乗り込むぐらいの超展開やってもいいと思いますw
 どんな形であれ、命の危険があるような場所にクド一人放り込むのはあり得ないです。
 Keyらしからぬ嫌なシナリオでした。

 小ネタですが、クドリャフカという名前は初めて宇宙に行った犬の名前で地球には生きて帰って
 きませんでした。『クドリャフカ』はロシア語で巻き毛を意味するそうです。
 自分は小学校の頃、宇宙で星になった犬として聞いた話なんですが、当時はブルーになりました(TT
 一方、ヴェルカとストレルカも宇宙に行き、初めて地球に生還した犬として知られています。

 この犬たちの話は米ソ対立構造の宇宙開発競争の時代なんですが、本編でクドは何度も『歯車』
 という暗喩を使って、『歯車になる』、『歯車になって欲しい』と物語の中で口にします。
 社会を動かす歯車、という意味で使っているだけとは思うのですが、歯車というのは一般的に
 プロレタリアート(労働階級)のシンボルであり、中国共産党をはじめ、共産主義国家共通の
 象徴として知られています。ソ連国旗は有名な『鎌と鎚』ですが鎌は農民を、鎚は労働者を表しており、
 この鎚と同じ意味で歯車は使われています。日本共産党の党章は歯車と稲穂を組み合わせた形です。
 それで『歯車になって欲しい』というのは、自己の夢を実現する、伴侶として生涯を共に歩んで欲しい、
 という意味ではなく、『お国のためだけに働け〜』的な全体主義、マルクス主義のプロパガンダっぽい
 ものとして捉えられる可能性があるので、クドが理樹に告白するセリフに使っているのに微妙な雰囲気
 を感ぜざるをえませんでしたw


■ 来ヶ谷シナリオ (45点)




 あまりストーリーのないシナリオ。

 恭介は理樹が来ヶ谷に一度振られた時点(6/20)で、理樹が傷つくだけと判断して虚構世界にリセットをかけた。
 しかし、来ヶ谷と理樹はその先を願ったために、恭介が虚構世界の存在を許した範囲である6/20までを
 繰り返していく事になった。繰り返される6/20の世界は来ヶ谷によって作られた世界であり、この世界で登場する来ヶ谷
 と理樹以外の人間は、恭介も真人も全て来ヶ谷によって作られたNPC。しかし、来ヶ谷は世界を長く保つ事ができず、
 恭介の虚構世界の消滅によって生まれた空白――すなわち雪によって侵食されつづけ、来ヶ谷自身も次々と思い出を
 忘れていってしまう。また、来ヶ谷の虚構世界の拘束力が弱まった事によって、理樹は夢を見るという形でバス事故の
 現実に戻ったり、恭介の虚構世界の『みんな』が話をしているのを現実から聞いたりする。
 最終的に来ヶ谷と理樹は、来ヶ谷の虚構世界が終わってもお互いの想いを忘れないためにメールを打ち、現実世界で
 それは再び思い出される――

 …これで正しいか分からないですが、テキストやCGの整合を考えていくとこうなりました。
 来ヶ谷が『ここは願いが叶う場所』と言っているのは、恭介の虚構世界でも放送室でもなく、恭介の虚構世界が消えた
 後の来ヶ谷の虚構世界の事です。これについて理樹は放送室の電子ピアノと勘違いしてました。
 上図のように恭介の虚構世界と来ヶ谷の虚構世界が併存している部分があり、放送の電子ピアノの音が聞こえている時が
 理樹が来ヶ谷の虚構世界にいる時、それ以外の部分が恭介の虚構世界に理樹がいる時と、ライターは区別して描いている
 ように見受けられました。
 来ヶ谷自身は恭介が世界にリセットをかけて、次の虚構世界に行った後、恭介と同じようなポジションについて、
 自己の作り出した虚構世界を維持しつづけます。しかし、その虚構世界を作り出した段階で、その世界は永くはもたず
 記憶もともに消えてしまうと分かっていました。それゆえ、来ヶ谷は先が無いのに理樹を受け入れた事に自己嫌悪します。

 リトルバスターズエンドでは、前提として理樹は来ヶ谷との1回目エンドも経験し、虚構世界から現実世界にメールを
 送っています。来ヶ谷はそのメールから虚構世界での理樹との恋を思い出す事ができましたが、鈴とくっついている
 様子を感じ取って、理樹に虚構世界の事を訊かれても寂しく笑うだけでした。
 2回目のエンドでは理樹はちゃんと来ヶ谷との恋を思い出す事ができ、来ヶ谷は秋頃になって理樹に告白します。
 わざわざ時期を秋頃にしたのは1学期までしか存在できない虚構世界と現実世界を明示するためでしょう。

 第一印象は描き方がちょっとばかし薄いせいであまり心に残らなかったシナリオ。
 先が無いと分かりながらも理樹を受け入れるまでの心情描写と演出に厚みが欲しかったです。
 リトルバスターズエンドを見ていない一週目はほとんど伏線といったところか。虚構世界のあり方を知った
 上でシナリオを読んでいくと、そこではじめていろいろなことが分かるような仕掛けになっています。

 といっても感動とは別次元の仕掛けなので、来ヶ谷シナリオ単体で泣ける物語、感動できるシナリオかと言うと
 いまひとつという印象です。ただ、世界観に依拠した部分がバカでかいので厳密には来ヶ谷との恋愛が
 メインのシナリオではない気がします。っていうか>来ヶ谷との恋愛はある意味おまけ。

 あとこのキャラ『MOON.』に出てきそう…。シナリオの構造がものすごい『ONE』っぽいですが。


■ 葉留佳シナリオ (35点)

 どこかで見たような韓ドラを徹底的に激しくしたような物語です。
 "目的が手段を正当化する"、を地でいったような印象で、クドシナリオに続いて拒絶反応でました(TT
 佳奈多の口からは倫理的に嫌悪せざるを得ないような言い回し、言葉が次々と出て来ては、対する
 葉留佳の口からも罵詈雑言の嵐…。最終的に救われるから、どんな描き方をしても許されるだろう
 というシナリオライターの意図が見え隠れして吐き気がしました。倫理的に超えてはならない一線
 を超えているような気がしてなりません。

 この部分さえ除けば中々の良シナリオです。
 最終的に血液検査をすることなく、姉妹が和解する過程が丁寧に描かれていた点や、単純に姉妹の
 和解の過程だけが重視されるわけではなく、理樹と葉留佳の関係性も深く掘り下げた展開をしている
 ので、全体としてバランスが非常にいいです。ただ、理樹のサポートや言動がえらく安易なのが、
 ところどころでむかついたり…。

 キャラ的に葉留佳が好きだったんでこれにはがっくりきました。



■ 鈴シナリオ+Refrain (105点)

 このシナリオがメインで最大の見せ場で傑作。
 いままでの個別シナリオをがんばってきたのは、このシナリオを見るがためです。
 恭介のいないリトルバスターズで、かつての楽しい日々を取り戻そうと無理に笑って躍起になる謙吾、
 ただ虚構世界の日常を壊さないように、全てを知ってもいつもどおりにすごし、最後に理樹と別れを言う真人、
 全てを理知的に進めながら最後まで目的を見失わずにいたものの、最後に本音をぶちまけて大泣きする恭介――

 あまりに男連中が良すぎて鈴も含めてヒロインたちはどうでもいいとさえ思えてきました。
 虚構世界が終われば自分達は死んでしまい、もう2度と会う事が無いと知り、そんな気持ちを隠して最後に
 理樹、鈴、恭介、真人、謙吾の5人で野球をやっている光景にはひたすら涙です。
 理不尽な事故によって、これから先続くはずの楽しい未来を断たれてしまい、それでも理樹と鈴を生き残らせる
 ために最期にしがみついた思い出の虚構世界さえも去っていく姿に、涙ボロボロです。
 そして最期の別れになると知りながら、虚構世界を去って残酷な現実に向かう決意をした理樹の強さに
 号泣です。

 うおおぉぉぉ…この場面はアニメ化して欲しい…

 ストーリーの締めとしては理樹と鈴以外死亡するエンドの方が重みがあって良さそうですが、
 そこはやっぱり後味の問題で、全員助かった姿をみたいというのが読み手の本音。
 自分はやっぱり最後には全員で笑って欲しいです。

 あと、リトルバスターズと古河ベイカーズで試合やってほしいですw




■ ベストキャラ

 棗恭介

 もう、あまりにもキャラがかっこよすぎます!
 ラストシーンの最期の言葉に心が震えました。
 本当に事故とかは理不尽です。ちくしょおおおぉぉっ!って叫ぶのもマジで共感できます。




■ ベストBGM

 ボーカル曲は『Little Busters!』『遥か彼方』が最高です。
 全てプレイし終わってLittle Busters!を聞くとヤバイです。
 BGMはクラナドやAIRよりも、こっちの曲の方が全体的に好きです。


 @Mission Possible 〜but difficult task〜

   いや、リトバスのテーマって言ったらやっぱこのミッションスタート!でしょ?w

 A魔法のアンサンブル

   お菓子の家に住むメルヘン少女、私服で一緒に街を歩きたくない女の子No1の小毬さんのテーマ。
   きっと毎日がしあわせスパイラルで、自宅の賞味期限は『見なかった事にしようっ』と笑顔で無視。
   そんな彼女の自宅のトイレはファンタのレモン味で流れていくことでしょう。
   見事にキャラの内面や雰囲気を表したような曲です。

 Bシンクロニクル

   世界と自分のズレを浮き彫りにさせるようなシーンに流れるBGM。
   雪をモチーフにしたような雰囲気と、どこからともなく現れる不安感を煽りたてるような
   曲調が印象的です。




■ 総評

 ラストのシナリオだけでよかったです。
 個別ルートが無駄に長くおまけにあまり感動できない類のものだったので、正直プレイ中は
 打ち切り考えました。男キャラの印象が強かったので、ヒロインが他のキャラに変わっても
 別に問題ないような感じだったのも不満点です。
 ただ、本当にラストは良すぎてそれがすべてを打ち消してくれるような感触でした。
 少年誌的な爽快な展開や分かりやすい感動ストーリーというのが自分のツボにはまったと
 いうのもあります。シナリオ全体の平均値を取れば普通ですが、最大値をとれば傑作という
 作品で、無条件にお勧めできるゲームではないです。個別ルートを簡略化したリメイク版が
 登場すれば本当に無条件にお勧めしたい作品なんですが…うむむ。

 個別ルートに関してはクドシナリオを除いて、後のシナリオは全て演出の仕方が今ひとつな
 印象で非常にもったいないです。Refrainルートが心に響いたのは、シナリオの良さよりも
 キャラの生の感情をダイレクトに読み手に伝える技術があったからだと思います。
 個人的に『泣ける』為にはこの技術が、シナリオの質やトリックよりもはるかに重要な
 ファクターだと考えています。

  今まで感情を押し殺していたヒロインがラストの場面で本心を激しい口調でぶちまける。
  逆に本心をいつも表にしていたヒロインが、ラストでは他者の為にそれを押さえ込む。
  弱かったヒロインが最後にけなげな強さを見せる。
  一番悲しみに暮れているはずのヒロインが最後に笑う。

 などなど、泣けるシナリオというのはそれまでの弱々しさを強さに反転させる、または
 強さを持った人間が最後に弱さを見せてしまうなど、ストーリーの中で作り上げてきた
 キャラクタをラストの盛り場であえて壊してしまう部分にあるように思います。
 この局面でテキストではキャラが感情を激しくぶちまけたり、今までとは違った言動を
 とるようにして、CGでは顔の表情が分かりやすいもの、または絵になるような綺麗な
 ものを出し、音楽では静かで情緒溢れるものに一気に切り替える…といった技術が重要性
 を持ってくるはずです。
 これらのタイミングを完璧に合わせたものがRefrainシナリオであり、極論、細かく組み上げた
 シナリオのロジックや詩的で美しい比喩、暗喩などの修辞などは演出の前に無力と化します。


 美魚シナリオ、小毬シナリオはシナリオ自体はかなりいいシナリオです。
 ですが、『始めにシナリオありき』で作られている感じであって、『始めに感動ありき』
 で作られたRefrainシナリオとで、感動の度合いが乖離してしまっています。
 このあたり、先に『どんな絵(シーン)を読み手に見せたいか』という事から考えて、
 物語を演繹すればもっと泣ける物語になったと勝手に想像してますw

 自分なら、美魚シナリオではラストで美魚が消えるシーンを感動の訴求点と考えて、そこで
 美魚が消えていくCGを1枚出し、消えるまでの美鳥との会話の間、BGMは無音。消える瞬間
 に静かなBGMを流すなどの演出をやりたいです。
 CGの構図は浜辺で背中合わせに手をつないで立つ美魚と美鳥。美魚がこの世界での存在を
 諦めれば美魚が残り、理樹とこの世界に残りたいと決意したなら美鳥が消えるという背景です。
 最終的に美魚は理樹と残る事を選び、笑顔で消えていく美鳥に美魚は泣き崩れます。

 小毬シナリオに関しては、小毬の兄の絵本がもう一冊欲しいところです。
 兄が小毬に伝えられなかった言葉を託したもう一冊の絵本を理樹がじいさんから預かって
 それを読んだ小毬が兄が死んだという現実を受け入れて「さよなら、お兄ちゃん」と言って
 涙で微笑む展開。これなら絵本のかわいらしい絵のCGが欲しいです。
 または、本編のように理樹1人で絵本を書くのではなく、リトルバスターズのメンバーが
 理樹が最初に書いた絵本に続きを書く形でどんどん物語を続けていくという展開。
 恭介や真人、来ヶ谷や鈴も絵本に物語を続けますが、絵本の最後を小毬が書いて完成させる
 という流れです。この場合も絵本のページのCGが欲しいですw





 …と、なんだかんだいってRefrainは最高でした。
 このゲームをやったら心の底から元気が出てきました。










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