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ONE 〜輝く季節へ〜  (1999年7月10日 執筆)


 見どころ: シナリオ、舞台演出、BGM



■ どんなゲームか?



 突拍子もない行動をする主人公の高校生とそれを取り巻く女の子たちの甘く切ない
 ラブストーリー・・ではなく 現実世界との関わりが薄くなり、永遠の世界逝きという
 事実上の失踪もしくは神隠しから逃れるためにこの世との縁を深めに、適当に周囲の
 女の子を見繕ってよろしくやってしまうダークゲー。
 プレー後の精神的ダメージは大きく、しばらくの間は、たそがれ三昧。それでも自分の
 存在とは何か、を考えさせて自分とこの世界との関係の絶対性をもののみごとに粉砕
 してくれるいいストーリーです。


■ まずやってみると



 自分がこのゲームを始めようとした頃にはすでに有名なものだったのである程度の感想なんか
 をまわりから耳にしていました。いずれも泣けた、とかブルー入った、とかぐはっ!とか、
 何らかの強い印象があったらしくおおむね好印象でした。
  
 でもって早速プレイ。・・普通に出現頻度順に人物が現われてゆき可も無く不可も無く物語
 が進んでいく。が、途中で気付く事ですが特定の人のルートに物語が入ると極端にそれ以外
 の人との関わりが無くなってゆき、このあたりからダーク系本領発揮ってトコです。
 さぁここからです!周りの人がどんどん自分の事を忘れていきます。家族にまで忘れられて
 今まで自分の部屋のいつもの景色だった机やベッドが粗大ゴミとして家の前に捨てられてい
 ます。友人たちにも「浩平?そんなやつクラスにいたか?」などと元からいなかったかの
 様に忘れ去られていきます。いきなり忘れ去られていくわけではなく徐々に「え〜と、誰だっ
 たっけ?」というように予兆はありました。きずなの薄い人から順にどんどん自分の事を忘れ
 ていきます。ケガか病気で長い間、学校に来れずに登校できる日を心待ちにして、久しぶりに
 学校にきて、以前親しく話していた友人に挨拶するとすでに忘れられていて、その友人が楽し
 そうに他の人と談笑しているのを遠くから眺めているような心象だったでしょう。

 1人・・また1人と自分の事を忘れていき、昔から住んでいた思い入れのある街で自分を覚え
 くれている人は、ほとんどいない。
 自分の存在が希薄になるのを感じながら、道に立ち止まって朱に染まっていく空を眺める・・。

 このゲームはとにかく文章と表現のワザが細かく演出がうまいです。
 シナリオを1プレイすると、1つで3日は群青色の雰囲気に包まれます。




■ テーマ



 世界の共有。
 幻想と現実の違いについて作中で多く触れられています。簡単に言及すると幻想は世界の主体
 が1つで、現実は世界の主体が複数です。ここで言う世界とは世界60億の人口とかではなく
 高校生ならクラスメート、家族、部活の仲間、いつも帰りによる本屋、通学路、見慣れた自室、
 窓から見える景色なんかがそれにあたります。
 たとえば道に迷って全く知らない所に来てしまった場合は世界の限界を超えた事になります。
 あとから、地図で確認して、ああ、いつも窓から見えるあそこが今日迷いこんだ所だったんだ、と
 気付けば、その瞬間から今日迷った所は自分の世界になります。

 幻想では世界の限界を超える事は決してありません。
 自分の認知する範囲での反芻に留まり、自己の意識しない新要素の出現がないからです。
 さきの例で言えば知らない所に迷い込む事がないという事です。これは幻想は客体が入り込む
 事が無い、つまり外的要因が排除されている事を意味します。
 現実では世界の限界なんて確かめるヒマも無く突き破られ続けています。他の主体と世界(幻想)
 を共有するためです。他人と話をするとか、行動を見る、姿を見るという行為も、世界の共有
 です。この世界の共有によって世界の限界を破りつづけ、世界の限界を破りつづける事で
 他者との比較を行い、自己同一性を得ることができます。

 主人公、浩平は現実から幻想へ近づきつつあります。世界の主体の数がどんどん減っていく
 わけです。(と言っても主体の数が1と2では幻想と現実の違いですが、2と100では
 現実と現実で同じものです)
 そして幻想の住人になることから逃れるために、他の人と繋がりを持ち、主体の数を+1しよう
 と周りの女の子とよろしく始めちゃう訳ですが…。



■ ベストキャラ



− 氷上 シュン

 折原浩平が現実を選べなかった場合のパラレルワールド的存在。とはいえ浩平と
 同じく幻想に生きている目をもった少年。シュンは病気の自分の身体を、浩平は
 死んだ妹と永遠の終わりいう現実を遮断しています。
 作中では浩平とその世界の監視者のようなポジション。浩平の永遠逝きが決定すると
 それから救うべく自分が世界との絆になる事を買って出ます。

 ”僕に残された時間はキミのために、キミのことを思って過ごすよ”

 と、自分が助からないのを前提にしながらも同じ目をもつ浩平を自分と同じ目に合わせない
 ようにします。
 何か知らんがいい奴です。
 そして笑顔がステキ☆



■ ベストシナリオ



− 上月 澪 シナリオ

 しゃべることのできない少女。

 幼い日に会った男の子に手渡されたスケッチブック。
 女の子は男の子にそれを返す事を約束したが、それから男の子は姿を現さなかった。

 何年かの時を経て少年は少女と学校で再会するが、2人ともお互いに気付かなかった。
 だが少女は男の子にスケッチブックを返す約束を忘れていない。

 やがて2人は親密になっていき少年は少女の入っている演劇部に入り彼女の公演の
 手伝いをすることになった。


 こんなカンジで始まったのだったかな・・


 2人は親密になっていくも澪は男の子との約束が足枷になってそれを引きずって生きて
 いました。浩平は澪が古いボロボロのスケッチブックを片時も放さず、そして、
 昔の約束に縛られて前に進むことができずにいる姿に、幼い日の約束に囚われ続ける自分
 を重ねて苛立ちます。

 やがて浩平は世界が自分を忘却していく事が分かり、ここに存在していられるのもあと
 僅かである事を知ります。
 ある時、澪と浩平は公演に必要なものの買出しにいきます。「そこで待ってろ」と言い残し
 浩平は商店街をまわり、買い集めていましたが途中で大雨が降り雨宿りをして、そのまま 
 澪を置き去りにして学校に戻ってしまいます。
 それに気付いた浩平は、いくらそこで待ってろと言っても、この大雨の中をバカ正直に
 待ってる訳は無いと思いながらも雨の中の商店街を走り抜けていきます。
 けれども、澪は大雨の中、そこでずっと浩平を待っていました。約束のスケッチブックを
 濡らさぬように大切に抱えながら・・。
 それを見た浩平は徐々に昔女の子と交わした約束を思い出していきます。

 やがて、幼き日にスケッチブックを渡し約束を交わした女の子が澪である事を、そして澪を
 縛っているものが昔の自分とのくだらない約束である事に気付きます。

 次に会ったとき、澪は浩平の横を他人を見るような目で通り過ぎていきました。
 その時には世界と同じく、澪も浩平を忘却していました。お互いに最愛の人であると信じていた
 浩平は澪に忘れられた事にショックを受け一時期は自暴自棄になります。
 自分に時間が残されていない事を知った浩平は澪を昔の約束から開放して、最後の2人の思い出
 である公演の成果を見て、この世界から消えようとします。

 2人で一緒に練習した時と同じように・・・ それ以上の成果を舞台で出した澪に、浩平は安心して
 何も告げずに公演会場を後にします。

 公演を無事終えた澪は楽屋に戻り、スケッチブックに何か書かれている事に気付きます。

 
        ”さよなうら 澪”


 よく見知った浩平の文字です。

 幼い日に澪にスケッチブックを渡した男の子も「さようなら」を「さよなうら」と書いていました。
 浩平は幼い日の男の子に、ちゃんとスケッチブックが渡った事を澪に知らせる事で、昔の約束から
 澪を解き放とうとしたのです。

 そして澪は浩平の事を、世界が浩平を忘却している事を思い出し、浩平を探して走り出します。

 浩平は澪との思い出の詰まった部室や食堂を見て回り、最期に消えるにふさわしい場所として
 澪と演劇を練習した体育館を選び、そこに腰をおろしこの世界から消えるのを待ちます。
 しかし、そこへ今会ってはならない、そして最も会いたかった少女が姿を現します。
 
 自分がいる事で澪をまた、呪縛してしまう事を恐れた浩平は他人のふりをして澪に話し掛けます。
 そんな浩平への澪の返答は静かな口付けでの告白。

 浩平は澪に自分がもうすぐ消えてしまうことを伝えていません。
 澪は浩平がもうすぐ消えてしまう事に気付いてることを伝えません。
 自宅への帰り道、浩平が最後に澪に言った言葉は、

 
         ”また・・明日な・・”


 浩平は澪に嘘をつきます。
 澪は浩平の嘘を受け入れます。
 
 澪は浩平に明日がないことを知りながらも微笑んで手を振って街の暗闇へ駆け出します。
 以前は暗闇が怖くて浩平に抱きついたまま震えていたのに・・。
 浩平を心配させないようにしていたのかもしれません。
 そんな澪を見送って浩平は最期を迎えるつもりでした。しかし、


 次の瞬間、浩平は後ろから澪を抱きしめていました。


   ”必ず帰ってくる。だからそれまで・・待っていてくれるか?”

 
 2度目の約束。今度は2人とも覚えている約束。
 浩平の嘘を受け入れて演じた笑顔ではなく、心からの本当の笑顔を浮かべる澪。
 そして涙の笑顔で浩平を見送ります。


    一年後・・

 
 食堂での2度目の再会・・。



 
 確かこんなシナリオだったかな、と記憶してます。
 どこかに脚色ついていたり間違っていたりしてるかも・・。
 個人的に澪の公演が終わってから何も言わずに去っていくシーンが好きです。
 若干唸ってしまった点は「実は昔に」のような取っ手付け感が否めなかったところです。

 しかしマジでよかったです、このゲーム。実際のゲームでは演出がすごく効いていて
 音楽がサイコーでした。
 また全てのストーリーの前半で楽しい日常の中でのヒロインの魅力を出して,後半にそんな魅力を
 もったヒロインたちのシリアスな展開の中、彼女たちと主人公が成長していく様を描くという
 2部構成に近い流れが非常にうまいです。
 この他に川名みさきシナリオ、里村茜シナリオが泣けて、長森瑞佳シナリオがヘビーでした。
 このストーリーに限らずONEではお互い過去から抜け出せない者同士が成長していく過程
 を描いたシナリオが多めです。
 にしてもプレイ後はとにかくブルー入ります。Goodエンドでも何故か、ブルー入ります。



■ ベストBGM



− 海鳴り

 一番良かった曲を1つだけ挙げろ!といわれたなら即答します。
 今このHP上で流れている曲です。再現度は少し低め・・。
 焦燥感と悲しさ、それでいて強い意志が感じられる曲だと勝手に思ってます。
 自分はもうすぐ消えるが最愛の人にはこの先、強く生きて欲しい、と思って
 残された短い時間を静かに見つめている、といった雰囲気を感じました。


−  日々のいとまに

 普通に良かった曲です。
 これから寒くなろうとしている季節の真昼時の喧騒といった曲です。


− 雨

 ONEで一番有名な曲かもしれません。
 心に雨が降るシーンでプレイヤーの雰囲気をずーんと落としてくれます。




■ 永遠の世界とゲームの世界観



  評価に関して最も意見の分かれる所です。
 言及しておくべき部分だと思いましたので、簡単に私個人の見解を書きます。
 すなわち、このゲームにおいて世界観は明確なものとしてあるべきか?
 これに関して、自分は明確なものとしてあるべきではないと考えます。

  おそらくはこのゲームをプレイした方の殆どが、世界観を明確につかめなかった
 のではないかと思います。ただその世界観に対する主人公や周りの人間の姿勢から、
 言いようのない不安を嫌ほど受け取ることはできたと思います。この不安はどこから
 もたらされるのか・・

  「概念上にしか存在できないものを根拠に、現実の中に結論を導く」という随分強引な方法
 (論理的な誤り)によって、この不安を実現していると考えています。すなわち、現実にありえない
 仮定を前提としているために、常識的な密度を持つべき不安が滑稽なまでに濃密な不安として
 プレイヤーにのしかかってきているのです。ちょっとやそっと人から忘れられても、別に現実世界
 から急に消えたりしないぜぃ、と一笑するところで、実は消えちゃうんですよと、そんなの
 ありえねぇーっ、的な前提の基に組み立てられた世界観であるために、論理的な整合性は
 求めるべくもないのです。むしろ求めてしまっては面白くないどころか不安の効果そのもの
 を失ってしまいかねません。

  また「原因と結果が逆転している」ために"永遠の世界"を論理的に捉えることが不可能に
 なっています。「人との絆が希薄化するならば永遠の世界逝きである」が「永遠の世界逝き
 であるので人との絆が希薄化していく」となり、ストーリー後半では人とのつながりを求めている
 にもかかわらず永遠の世界逝きを前提に、人との絆の希薄化が着々と進行しています。
 永遠の世界は動かないものであり主人公がそれに近づくという構図が、いつのまにか、遠ざかる
 主人公を永遠の世界が追っかけているという構図にすりかわっているのです。よくよく考えてみると
 これはかなりの恐怖です。これにより、"死"とは性質の異なる恐怖、言うなれば明示し得ない恐怖を
 内在した圧迫感がプレイヤーに襲い掛かるのです。

  以上のように、整合性のない概念として"永遠の世界"が機能する事ではじめて、この言いようのない
 不安を実現することができたのだと思います。ゆえに一定に定められない、場合によっては矛盾を
 はらむこのゲームの世界観は否定的な意味での欠陥ではなく、ゲーム構成で重大な役割を担う不可欠
 な構造であると考えます。



■ 最後に



  この物語は瑞佳以外のエンドでは、浩平は現実と向き合う事無く終わり
 唯一、瑞佳エンドで自分の過去に決着をつけます。ホントの意味で主人公が
 他でもない自分を救うのは、瑞佳エンドのみということになります。
 私は瑞佳シナリオを最後にやったので、それまではそのままでいいのかよって
 カンジで(相手の女の子の幸せ=主人公の幸せ)という等式を見てきましたが、
 最後に瑞佳シナリオで(相手の女の子の幸せ+主人公の幸せ)となってほっと
 しました。

  "ONE"はシナリオがいいだけのゲームではなく、見せ方、つまりは演出に
 よって彩られる雰囲気が印象的なゲームだと思いました。ゆえに、このゲーム
 を高く評価するポイントは、ただ単純に感動したからです。それこそ世界観や
 ストーリーの精度に細かな議論を重ねて満足することにゲームの深みを見出す
 事は楽しいと思いますが、結局なぜ印象に残っているかと問われたならば、
 感動したからと答えます。これは肯定的な評価を下す人間にとっての最小公倍数的
 な評価点でしかありませんが、個人としても最も印象的な評価部分でもありました。
 機微を凝らした設定や伏線の置き方によりゲームが構成されているにしても、その個別の
 部分よりも全体としての成り立ちに感銘を受けました。
  例えるのなら、すばらしい手品のショーを見たときには得意げに仕掛けの解釈を話すよりは
 まず立ち上がって、そのすばらしい時間と技術に惜しみない拍手を送るべきだという気分に
 させてくれるゲームでした。



 以上
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