■『海ねこ&ムツゴロウ』のゲームレビュー基準■ 【レビューの対象】  (1)物的対象  作品内で提示された情報のみを対象とし、作品外での例えばインタビューなどで  事後的または事前的に提示された情報は含まない。対象はあくまで作品単体とす  る。また一般市場で経済的対価によって入手できる作品のみを対象とする。  フリーのゲームやSSは第三者にレビューを書かれる事を許容しているか不明で  あるが、経済的対価と引き換えに販売されている商品の場合は、レビューは  商品の品質に対する評価として社会通念上許容されていると考えられる。  (2)内容的対象  ライターの構築した世界観やシナリオが完全に明瞭かつ無矛盾である事は基本的  にありえない。読解の深度の限界は情報の信頼性深度に比例し、ライターの明示  した情報の相互関連性が完全である事を前提に事実関係の細部まで読み解く態度  を回避する。飽くまでライターが読み手に提示したい部分についての合理的意思  解釈にとどめるべきである。  またライターが意図して明示した情報であっても、ライターがその情報の前提の  矛盾に気付かない場合もあり、この不完全性を前提に作品内における他の情報と  の相互関連性が不合理となる場合は、解釈材料として取り扱わない。  すなわち…    @ライターが読み手に提示することを予定していた部分であり、    A相互関連性において無矛盾かつ合理的である要素群  この2つの要件が重なり合う限界でレビューの対象とする。  またAの判断基準は情報の信頼性によって決定される。  (3)情報の信頼性基準  情報の信頼性は国語的表現によってのみ決定されるものではなく、作品内の記述  の論理構成の完成度に依拠する。すなわち、ライターの論理構成の完成度を推認  し読み解くべき範囲を確定する。  (信頼性を低下させる要因)  ・作品内で提示された客観的事実や知識についての不知・誤解。   →政治学の分野で知識の誤りが存在した場合、当該作品に登場する政治学の    範疇に属する事実構成または世界構成の整合性は厳密な解釈を避ける。  ・論理構成の飛躍・矛盾、前提に基づかない論理導出等。   →問題点およびその前提となる部分での解釈を避ける。  (信頼性を向上させる要因)  ・意図的にライターが表現上の手法に意味を含ませている。   →その手法に類似する部分においてライターが深く読まれる事を予定している    と推認できる。  (信頼性と無関係な要因)  ・言葉の誤用。   →これはスリップであり、客観的事実としての信頼性に因果関係を持たない。  ・現実とは異なる事物の定義。   →舞台設定の一部をなすものとして評価の対象としない。 【レビューの指針】  作品内で提示されたテーマを描くにあたって、その表現方法が合理的であるかを  現実的実現可能性の範囲で比較評価する。作品全体のテーマが重畳する事や、  個別シナリオごとにテーマが異なることもあるため、原則として総合的な評価  を行う。レビュー方法はトップダウンアプローチで行う。すなわち…    @ライターが提示したテーマ    Aそのテーマを描くために必要な材料が表現されているか    B材料(事実的変化、心的変化)の表現方法が合理的か  この順番で比較評価する。  それぞれ大前提としてテーマに合致しているかまず比較判断し、その上でその  テーマを表現するのに最も適しているか比較判断する。この際、架空の理想論  を比較対象とするのではなく、現実的可能性の範囲で作品内の表現手法が他の  とり得る手段に比して合理的かどうかで比較する。  テーマ自体についての評価は行わない。また作品のテーマと表裏一体性を持つ  ライターの構築した舞台設定や世界観についても評価を行わない。  テーマ自体が原始的に個人の主観基準に依拠する場合は、客観的に比較可能な  範囲でシナリオ構成、論理構成の面から比較評価する。  (解釈の原則)  ライターの意思を基準とする。作品の表示を優先しない。  意思表現物の形成過程でライターの意思の表現内容における信頼性は比例的  に損なわれる。これに付随して論理構造および構造的解釈を優先する。  作品内の一行の記述よりもライターの意思を反映した作品の論理構造の信頼  性の方が比較的に高い。一般にシナリオの製作期間は長期にわたるものであ  り、作品の論理構造は作品内の記述の多数部分から導き出されるものである  のに対して、一部分の記述は論理構造に基づかずに書くことができる。  したがって一部分の記述を硬い事実として解釈を出発させてはならない。  全体の要素の相互関係性を抽出し、論理構造から解釈を始める。これにより  作品内の記述を個別的に解釈した場合に前提部分で矛盾や不合理が生じる  事を回避する。  (具体的手順)  @作品をプレイ  Aライターの合理的意思解釈から作品のテーマを抽出  Bそのテーマを基準に論理構造をトップダウンアプローチで明確にする。  C作品内の矛盾・不合理な部分を明確にし、その部分に関わる要素を解釈対象   から捨象する。  Dこれにより残った部分から論理構造を再構成。  E比較評価。  【例示】   →『シナリオ>キャラ萌え』は個人の主観に完全に依拠するので比較自体    行わない。   →反倫理的テーマであっても、そのテーマを前提に評価を行う。   →推理モノをテーマとして謳いながら、推理材料の提示や解答とそれを導出す    る論理を明示していない場合、評価が低い。   →恋愛モノをテーマとしているが、作品内容的にキャラ萌えだった場合は、    ライターの提示したテーマよりも作品の提示した事実上のテーマを優先し、    キャラ萌えをテーマとした作品として解釈する。