Rewrite (2011年7月15日 執筆)…79点 |
※ 以下、本作のネタバレや重大な情報を含んだ感想・レビューになっているのでご注意ください。 ......................................................................................................................................................................................................................................................... ■ 概要 テーマは環境問題に対する人類の態度への警鐘。 世界設定やトリック・伏線は面白いけど、あまり感動として心に残らないし泣けないという印象の作品です。 個人的な見所は朱音ルートで、その他の個別ルートは若干微妙。全体を通じてプレイ時間が非常に長いですが、 個別シナリオとラストの展開とで関連性はそれほど強くないために、ある程度はスキップ可能。 最後までプレイしなければ作品の中身が見えてこないし、逆に最後だけ見れば作品の全体像も理解できるようになっています。 世界設定の詳細についてはMEMORYに詳しく記載されているので省略。 個別シナリオは月において多重化した現実世界であり、いわば一般的なゲームでの個別ルート分岐構造に本作世界設定から "アウロラの性質"という根拠を与えたもの。多重化構造という点では、いわゆる世界線に近いものかもしれないです。 「Moon」は作品の現実世界とは切り離された次元で本作の生(なま)のテーマを描いた"異世界"(概念上の世界)であり、 その帰属については解釈の射程外。作品の裏側で描いていたテーマを直接的に描写したシナリオであり、読み手に対する 一種の答え合わせのような側面もあります。 テーマの環境問題について、日本では「環境を守ろう、おー!」で済む消極材料の目立たない普遍的なテーマですが、 海外では思想・宗教と並んでかなり政治的にセンシティブなネタ。 環境問題は南北問題における先進国による発展途上国収奪の正当化根拠に利用される事から、エコファシズム・環境十字軍 と批判される問題であり、グリーンニューディールはじめ、このプロパガンダがエコ特需により環境破壊を促進させている 側面もあったりと、作品テーマを描く上で『環境保護主義』の書き分けについて機微が求められる部分。本作ではこの部分 について"人間中心主義的環境保護主義"と"生命中心主義的環境保護主義"を明確に区別して結論を出しています。 ■ 世界設定メモ ・鍵(篝:かがり) 星の化身。環境問題による破滅のシナリオ(キー)を擬人化・象徴化したテーマ的な存在。 終末が表面化するまでは多くの人の目には見えないが、終末に近づくにつれて認識可能な人も増えてくる。 瑚太郎やドルイド、ガーディアンの「目」を持つ者には見える(環境問題へのあるべき態度を理解している)。 また篝の一部を瑚太郎は身体に宿している(人類は地球の一部分である)。 「良い記憶」とは、表では人間の善性の発揮(裏では環境問題に対するあるべき態度)。 これを示す事で人類は救われるらしい。期限までに人類が総体として「良い記憶」を示せなければゲームオーバー。 篝さまが問答無用で人類を叩き潰してくれる。 ヒナギク(デイジー:Daisy World)の丘が概念上の定位置。 『2001年宇宙の旅』では宇宙船ディスカバリー号のコンピュータHALが、故障を理由にシステムを停止させようと した乗組員を自己防衛のために殺害。その際、HALの断末魔の歌として歌われたのが『デイジー・デイジー』。 宇宙船地球号である篝ちゃんが環境破壊から自己保身のために人類を抹消する際にも歌を歌ってくれる。 ・各ルートとテーマ性の関係 3つのグループに分かれており、基本は人間中心主義であるガイアとガーディアンの対極構造。両者ともに前提である 人間中心主義が否定されて、止揚的に生命中心主義であるドルイドが人類の到達点として観念されている。 ポイントオブノーリターンを超えてしまっているので、人間中心主義でも生命中心主義でもすでに手遅れ。 篝ちゃんに懇願しても「話は聞かせてもらった。人類は滅亡する!」で終わる。 そして朱音ルート、静流ルートのいずれも世界破滅後に人間中心主義から生命中心主義へのパラダイムシフトが発生する。 Moonルートでは生命中心主義から人間中心主義へと変遷した人類の歴史と破滅を、個別ルートでは破滅による 人間中心主義から生命中心主義への強制的回帰を、Terraルートでは人類のあるべき未来のキーとして、技術革新と 精神革命によってもたらされる『旅』を暗示している。 【環境保護主義の分類と分岐ルートの世界設定におけるテーマ性】
(1)ガイア(人間中心主義・全体主義的エコファシズム) 人間は自然に支配される下位存在であるという前提で、発展ではなく停止・逆行によって人間の生存を考える立場。 人数過多で沈みそうな救命ボートで、みんなでお祈りをするか死んだ後の災害保険金の事を考えているグループ。 朱音、ちはやが所属する。 鍵(環境問題による破滅のシナリオ)を否定的方向に作用させる事で破滅を受け入れる。または鍵を利用する事で 延命を図る事を画策する。本質的には破滅。 (2)ガーディアン(人間中心主義・個人主義) 人間と自然の関係を支配・被支配と捉え、人間が発展により自身の手で環境を制御する事で生存を図る立場。 人数過多で沈みそうな救命ボートで、みんなで必死に水を掻き出しているグループ。 物質主義・功利第一主義の多数派。狩猟系、伐採系、汚染系と基本は環境破壊者としての象徴。 静流・ルチアが所属する。 鍵を破壊する事で延命を図る(場当たり的解決で環境問題を先延ばしにする)。本質的にはやっぱり破滅。 ガーディアンの中でも「目」を持っている者は鍵(環境問題による破滅のシナリオ+あるべき態度)が見えており 破格の待遇あり。基本的に鍵が見えている者は本作のテーマと親和性が高い肯定的存在という扱いらしい。 (3)ドルイド(生命中心主義) 人間と自然を同価値の共同体と捉えて、自然にも人間同様の権利性を認める立場。 一般的イメージのドルイドではなく、環境倫理的意味での人間中心主義の対極概念としての生命中心主義の象徴。 そもそも救命ボートに定員を超えて乗り込まなければよかったと呟くグループ。 現実的打開策も影響力も持たない無力なマイノリティー。 小鳥が該当。鍵(環境問題による破滅のシナリオ)を肯定的方向に作用させる事で根本的問題解決を図る。 人類の発展前であれば方向修正は可能であったが、ポイントオブノーリターンを超えてしまった後では基本的に 無力。手遅れになった正しい道とも言える。 世界設定に属するテーマにおいて小鳥シナリオの持つ機能は、人間中心主義の否定的鏡像を体現する事。 特に小鳥の森での生活について瑚太郎の口から言及される部分でもあり、朱音ルートラストでも一部体現される。 ■ 共通ルート(57点) 最序盤は笑いました。面白かったです。 ただ、同じギャグを繰り返したりネットスラング系・ゲーム系のギャグを多用したり、全体的に引き出しの少ないテキスト が多く、また膨大なテキスト量の割に登場人物のキャラクターを描くようなコンテンツの密度が薄かったので一部において 読み進めるのが苦痛でした。 登場人物のキャラクターが見えていない状態で、本筋の展開とは別枠のイベントが長々と進行したところで、感情移入 のない登場人物の挙動を楽しむのはちょっと難しいです。特にミッション。 あと、マッピーシステムがあるのだからシナリオ展開に関係のないテキストは任意選択イベントという事で、全部ここに放り 込んでおいて欲しかったというのが感想。 ■ 小鳥ルート(63点) 理想の青春を過ごすために対象を選別してオカ研を作り上げた瑚太郎。 孤独から周りを道具として扱い続けた小鳥。 両者共に独りよがりの孤独の檻に囚われていたところを、瑚太郎は吉野に殴られる事でクラスメイト達の善意に気付き、 小鳥はちびもす(ペロ)や両親との別れの際して残された善意から自分が孤独でなかった事に気付かされます。 また、瑚太郎も小鳥も"特別な力"に依存していた状態から独り立ちするというシーケンスについて多少描かれており、 双方独り立ちへのラストの絵へとつながっていますが、イベント不足なのでテーマと言うべきかどうか微妙なところ。 瑚太郎と小鳥と吉野の友情やら恋やらの部分も入ってきますがこちらもイベント不足。テキストは長いのにいずれの テーマについても中途半端でした。またterraルートにおける小鳥の性格のバックグラウンドと、小鳥ルートでの小鳥の性格 の現れ方でも違和感を感じる事が多く、最終的には小鳥は結局なんだったんだ???と思う部分が少なくなかったです。 ただその中でも小鳥の孤独については一番深く描かれていました。 特に終盤の小鳥の感情面については、境遇と向き合う小鳥の弱さが繊細に描写されている部分でしたし、声優さんが いい仕事をしまくり。演出面も良かったです。さすがKey。シナリオが整理されていて簡潔にひとつのテーマを追及して いたなら、この演出も最大限に生きてきたと思いますが完全に宝の持ち腐れという印象。 トリック・伏線に関してはさすが。どちらかというとシナリオの方向性として、人間の物語を描くというよりはトリック や伏線を見せるための道具としてシナリオがくっついているように思えます。 ■ 静流ルート(72点) 静流の自己犠牲による生命的側面での相互依存構造の構築。 瑚太郎の自己犠牲による精神的側面での相互依存構造の構築。 前者(生命)の破壊により後者(精神)を演出するお馴染みのKeyのシナリオ構造。簡潔でキレイな構造です。 ただラストの絵の救済メッセージが抽象的すぎた事でカタルシスにかけた部分や丸投げ感も幾ばくか…。 一番の不満点はテキストに緩急がついていなかった事と文章的な表現力。内心描写については外形的なイベントから 両者の心情を推認させる形をとっているものの、"楽しかった"、"哀しかった"という程度のごく浅い部分の感情 しか読み取れず、イベントに起因した深い部分での心情までは描いていないように思えました。 また、展開のテンポが遅い上に似たような言葉や面白味のない言い回しが繰り返されているのも少し…。 特にterraルートは文章力で読ませるシナリオだったので、相対的にこのルートでは文章力のレベル差が浮き上がって しまった印象が強いです。 ラストの静流の日記については良かったです。ここが静流ルートの見せ場であり、シナリオの価値の8割ぐらい は占めていると思えるほど。ただもう少し…ラストの最大瞬間風速を引き出すための助走として、意味のあるイベント が描かれていれば…とも感じたところ。隔絶された両者をつなぐアイテムとして『アイポット』が良かった分、 深い意味を持つアイテムなのに、CGなどの絵的な表現で重要視されていないのももったいない部分に思えました。 世界設定に属するテーマという視点で観察すれば、ガーディアンルート(人間中心主義・個人主義の行く末)は 鍵による破滅(環境破壊による自滅)を避けられないが、ラストの世界破滅後の静流について悲劇的偶像を匂わせずに 幸福のメッセージを発信する事によってシナリオの結論としてる側面もあります。要は人間中心主義・個人主義に 走った人類も一度破滅を経験して生命中心主義への昇華により幸福が示されるというメタファー。 もちろん、単純に悲劇的な結末では読み手から非難轟轟になる可能性も高かったのでソフトランディングさせる必要性 が高かったからとも言えますが…。 ■ ちはやルート(45点) 瑚太郎の内心の葛藤において対立軸としてミドウが用意されているもののテーマの提起にまで至らず、一方で咲夜 無双が目立ちすぎて、付随的に理想である咲夜を目指す主人公像がテーマになってしまった感が強いシナリオ。 と言うよりも事実上の咲夜シナリオ。咲夜カッコいいよ咲夜。 バトルに次ぐバトルと少年誌的展開で咲夜と瑚太郎の物語がメインになっており、ちはやには精神的クライマックス も物理的クライマックスも少なく咲夜のおまけ程度の扱いか。ちはやの咲夜への依存と独り立ちあたりをテーマに 据えてくると思っていたところそうでもない様子。 咲夜は格好いいものの、バトルシーンでの文章力・表現力がとにかく微妙。画面は動いているけど文章自体に 躍動感はない、しかも展開に山も谷もなくバトルに次ぐバトルで退屈なテキストに次ぐ退屈なテキスト…。 盛り上がるべきラスト手前で一気に白けてスキップしまくりでした。 ■ 朱音ルート(88点) 許されない罪を償う方法とは?死は罪を償う行為となりうるか? 聖女の転写による別人格の移転という逃げ道を一応用意しておきながらも、大量殺人の主犯の立場から贖罪について 真正面から描いています。 一般的な感情論では「犯罪者の気持ちなんて知りたくねーよ」で思考停止して、絶対に首を縦に振れないような難易度 の高いテーマであり、それだけにライターの思考レベルや力量が一定ラインに達していないと、論理破綻を引き起こし たり、中立性を損なった独我論に発展する可能性がありますが、このシナリオは現実的なラインでまとめられています。 「人を殺した者はどうやって罪を償うべきか」という問題の投げかけは「環境破壊で元に戻せなくなった地球に対して 人類はどうやって罪を償うべきか」というテーマのアレゴリとして機能し、「死んで罪を償え=ガイアのドグマ」、 「生きて善行で相殺した後、人々の前から消える=シナリオの結論」という対比構造を基本にして、"犯罪者"である 朱音と同じ立場に自ら降りて行った瑚太郎(一般人)の視点で贖罪の方法を模索しています。 その過程でマーテルバッシングなど、"正義"の所在について読み手にそのありかを問いかけるシーケンスもあり、 塞ぎ込んでしまった"弱者としての加害者"である朱音のリアルな描写等、両面的な比較も丁寧で深いです。 最終的には上述のシナリオの結論が明示されるものの、その前提として瑚太郎自身も犯罪者である朱音とは別の形で 迷惑をかけている人間であり、シナリオ上両者が同列に近い形で評価されてラストの共に笑い合って麦畑を歩いて 去る絵が提示されているのは、本作のテーマ絡みでも恋愛的シナリオの結論にとどまらない部分に感じられます。 このシナリオは文句なしにスゴイです。シナリオ構造も段落立っていて論理的。 バトルシーンの文章力は圧巻。このライターのバトルシーンのおかげで他のバトルシーンが微妙なものに見えてしまう 弊害は仕方ないです。気になった点は、朱音ルートに突入した途端、作品の空気も登場人物のキャラクターも代わって しまった事。まるで別人格が乗り移ったような錯覚すら覚えるレベルでした。 あとは言葉の使い方が若干古臭くて時代に合っていない印象も。 ■ ルチアルート(52点) なんかイキナリ違うゲームが始まった(笑) 突然登場人物の中身が別物になるし、急に話は安っぽくなるし、さらに展開はワケが分からない。 その反面、他の4つのシナリオで魂のない人形みたいだった登場人物が一気に熱を帯びて動き出した感じもしました。 ヒロイン間の横の交流があるのも、それを前提とした仲間意識の醸成が描かれているのもこのシナリオだけなので、 相対的に登場人物が一番魅力的です。特に共通ルートで仲間だなんだと言ってる割には対象を選別しまくりだった 薄っぺらい主人公がここでは最も感情を持った人間らしかったです。(すでに別の作品の主人公とも言えそうですが…。) 静流とともにガーディアンサイド(人間中心主義・個人主義)でありながら、『薬』と『毒』という対照的描写が用意 されているものの、深く利用した形跡は見当たらず。 ■ Moonルート(78点) 本当の地球の姿とは―― 人類と地球の関係性という生のテーマを、瑚太郎と篝を配役に時系列順に体現する章。競争淘汰による人類の発生(瑚太郎の斬殺)、 自然との調和(友愛数、ダンス等)、高度な知性の獲得(瑚太郎による篝の研究の読解)、地球環境の破壊(篝の負傷)…。 篝(地球)にとって最初は取るに足らなかった存在である瑚太郎(人類)が地球環境の中で影響力を増していき、 やがて現代の環境破壊をもたらすに至る過程を描いています。瑚太郎(人類)は素人的なミスで魔物(環境破壊を省みぬ利己的姿勢) を見逃して篝を傷つけてしまったり、そんな魔物に親しみを感じたりするなど、極めて端的に人類のネガティブな所業を表現。 そして、少女5人(様々な信条・派閥の人類)が協力する事で、環境破壊を食い止めようとするも敢え無く破滅。 「大侵攻」の戦闘で小鳥(ドルイド)が魔物に殺される事無く早々に退場したり、序盤に質の悪い偽咲夜(偽の樹木)が登場して後に 本物の最強咲夜(本物の樹木)が切り札的に登場している点に、ものすごくライターの皮肉を感じるのは気のせいとして…。 最後に地球と月の「誰も知らない真実」が明かされます。 全年齢対象の作品なので、18歳未満の読み手にも理解できる構造・表現・文章でなければならず、どれだけ書き手が読み手に 対して簡潔に分かりやすくテーマを伝える事ができるかという部分に個人的には一番注視していたところ。 20%の人間がミスリーディングしてしまう文章は低品質と言われますが、シナリオについても物語の本質部分について40%程度の 読み手が読解や理解に困るような場合は、独りよがりのシナリオという評価は免れないと思います。 この点、Moonルートはギリギリのラインという印象でした。 問題として、文章以外では世界設定が明示されていないため、読み手が文章を明確に頭の中でイメージに変換できていないと、 地球や月の関係性がよく分からないままクライマックスに突入してしまう事。次にラストの絵が持つ意味はこの世界設定の根幹 について理解していなければ意味が分からなくなる事。 全年齢対象であるなら、このあたりにも読み手の負担を減らす絵的な工夫があっても良かったのではないかと感じます。 ■ Terraルート(75点) 一度枯渇し、少しだけ回復した地球へのテラフォーミング―― 瑚太郎の過去や背景等、種明かしに相当するルート。作品の統合性を無視してシナリオライターがスタンドプレーに走っている 印象が強いルートでしたが、読み物としては面白い。引き込まれました。ただアドベンチャーゲームとしてCGや演出と連動した シナリオを描く気が無いのか、まるで小説を読むような面白さだった事と、登場人物のキャラクター(内的人格)を無視して 別の物語として勝手に展開している次元のお話だったので、あーそうなんだー、としか言えない部分です。 個人的には過去編については作品の中で重要度の低いシナリオ。 ただやはり細かい描写で伏線回収は丁寧にしっかりこなしています。このあたりの伏線やトリックを重視する読み手にとっては 一番おもしろかったシナリオだと思います。 さて、最終的に瑚太郎が起こしたアクションについて――ガイアが隠し持っていた魔物の技術を公表する事により、世界の 価値観を変えようという試み。魔物の技術は生命を消費する事により聖域であった生命の資源化をもたらすものであり、端的に 人類が消費者ではなく消費される資源としての価値も備える事で、結果的には消費者としての人類のダウンサイジングが 引き起こされる…。象徴的には、人間中心主義を前提としての環境保護主義(ガイア)と資本主義(ガーディアン)の折衷点が そのまま生命中心主義(ドルイド)へのパラダイムシフトへの第一歩になると言ったところか。 篝ちゃんをぶっさしてロスタイムを頂いたはいいものの、再び篝ちゃんが地上でお散歩を始める前に、地球の供給資源量の 枠内に人類を収めるか、溢れた人類が違う星へと『旅』に出るか…。その結末についてはラストを参照の事。 ■ シナリオ総合 朱音ルート、ルチアルート以外に言える事ですが、登場人物のキャラクター(内的な人格)がシナリオを描くための道具 として使い捨てられている印象がものすごく強いです。登場人物が動いて物語を創るのではなく、先にライターの書きたい シナリオがあって、そこに人形があてはめられているような不快感や違和感がありました。 主人公についても生命に対する価値観がバラバラで一方では殺人に逡巡しているも、一方では説明なしにあっさり殺したり、 仲間だ青春だ言っている割には、仲間同士の横のつながりがしっかり描かれていたのはルチアルートのみ。 プロローグで主人公が本当の友達がいる青春をやり直したいと主張していたのは、何だったのだろうか?? 世界設定のテーマは明確である一方で、主人公を中心とした物語のテーマについては最後までよく分かりませんでした。 あと、テキスト量の多さ、時間の長さがちょっとひどかったです。 どんなにおいしいフルコースの料理でも、シェフが客に食べさせたいからと言って一度に食べきれない量を山盛りにしても それだけで客の方は吐き気がしてしまいます。客が望むのはシェフが厳選した料理を適量。また食べに来たいと思える程度に 少な目の量が理想だと思います。 複数ライターという事でルートによって差が出るのは仕方がないところですが、差が出る事によって作品全体から作られる 雰囲気を壊してしまっているので、シナリオが成功していても"作品としては失敗"という印象が拭えないです。 8Pチーズは味わい深いですが、それが正月のおせちの中に入っていた時の残念感と同様、シナリオライターが自己のカラーを 発揮できる舞台に立たせてもらえなかったのが一番の問題だと思いますし、むしろ一番力量に恵まれていないライターが 世界設定などの基本を考えて、力量のあるライターがそれに合わせるようにした方が全体的な統合性が保たれて、結果として いい作品になったと思います。一番力量あるライターが"英雄"になって根幹部分を作ってしまい、他のライターがそれに 合わせる"兵士"という役割分担では、チームとしての総合力は望むべくもないですし…。 ■ BGM 全体的に耳に残りにくい感触でした。 このテーマは誰々だ!というような、キャラクターの一部たりうる曲がイメージできないのが大きかった…。 一番耳に残っているのが『旅』、次点で『ヒナギク』。 ■ キャラクター 瑚太郎については言うまでもなく省略。 脇役は江坂さん、咲夜といいキャラが揃いまくり。ヒロインたちが霞んで見えます(笑)。 ルチアルートのヒロインは生き生きしていますが、他は微妙に死んでいる感じが…。 物語の深い部分を抜きにすれば、小鳥や静流がいい味を出していました。メイド静流の笑顔は素晴らしい。 以上 |