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水夏A.S+(2006年12月10日 執筆)



 見どころ: シナリオ




■ 概要

 見どころはシナリオと言うよりもトリックとレリック。
 サーカスにはこういうゲームもあるんだなぁ〜と感心すること小一時間。
 ゲームの種別としては『Cross†Channel』に近いかも…。



■ 第一章 (70点)

 第三章の若林が爬虫類なら第一章の主人公は両生類だと言わんばかりのサンショウウオ
 っぽい癒し系主人公の男をめぐって双子の女の子が…という三角関係モノ。
 三角関係の主役はあくまで恋愛であって姉妹愛じゃない、という部分を感じさせてくれますw
 田舎の夏の小物語という雰囲気の中、過去の記憶を辿る様に現在の物語が進んでいきます。
 描き方と雰囲気の作り方は非常にうまく、終始、ほのぼのとしたとした静謐さが保たれています。
 
 結論としては納得できるシナリオでしたが、書き手が意図していないだろう消化不良の元が
 結構散らばっているので、そのあたりについて結論なり解釈を示しておいて欲しかったところ。
 『絵巻物』『何度もよみがえる』『巫女としてここにいた』など、シナリオ上、超常現象的な意味
 を含むものについては、読み手に一定のルールなり経緯を説明して欲しかったように感じます。
 伊月と小夜の母親が絵巻物を見て興奮している経緯や、『絵巻物』『よみがえり』『神社』の
 相互の関連性など、不明確なままストーリーが進行していったのでシナリオの行く先については
 疑問がないものの、シナリオの来た道については疑問がいっぱいです。

 さて、そのシナリオの行く先は、目の前の巫女さんが伊月と小夜のどちらか、というトリック
 に収束しますが、ストーリー上の主人公の内心の決着とも言えるラストの小夜との再会シーンも
 個人的には見所でした。
 『過去は伊月に、未来は小夜に。』と伊月(シナリオライター)自身がパラフレーズしているように、
 少なくとも伊月は主人公と小夜との未来を願っており、最終的に主人公がシナリオ上、行き着く先
 というのは伊月か小夜か、という二者択一でしょう。ただ、伊月の願いというのはそのまま小夜
 への贖罪という意味合いで描かれてきたので、主人公に向けられた伊月の感情というのは、
 『純粋な愛』と『小夜への贖罪』の2つの側面を包括しています。
 最後に主人公はこの2人に別れを告げるという選択を採るわけですが、ここで名前を告げず
 に小夜と主人公が会話するシーンが一番好きです。

 あと、どうでも良い事ながら、花輪ぐらい一緒に渡せよっ!



■ 第二章 (72点)

 シナリオ云々以前にさやか先輩のキャラクタが強烈過ぎて、いま一つシナリオに目が
 行き難かった章ですw 絶対無さそうですが『子供からカツアゲ』シーン見てみたかったですw
 さやか先輩は強烈で好きですが、主人公のペース乱しまくって主人公のキャラすらも
 変えてしまう美絵も結構好きだったり…。

 さやか先輩の存在感を端に除けておいても、シナリオ自体はそれほど深くはないように
 感じました。一応、主人公と先生の二人の絵描きがさやかというモチーフをどのような
 形で、どういった動機から昇華させていくか、という部分に主眼を置いた構造になっており、
 そこにマジックワードたる "愛情" が登場して物語の結末へと突っ走っていく展開でしょうか。
 先生とさやかを対極的な立場に据えた上で、その間に先生の絵に惹かれている主人公が立ち、
 さやかと同じ時間を過ごす内に、先生とは違った形で "さやか" を昇華させていく。
 でも最終的に主人公も先生もお互い違う形で "さやか" を昇華させて、シナリオでも先生の絵
 が最終的に否定されるという事もなかった点、実はシナリオの向かう方向というのは、結局の
 ところ、先生とさやかの和解(誤解の氷解)でしかないとも感じました。
 いずれにせよ複数主体が相互に影響されて状況を改善して行きハッピーエンドにたどり着く
 という一方向的な内容で、変なギミックやテコ入れがなかった分、静かなサナトリウム恋愛
 モノという印象です。
 初期設定の生々しさの割りに基本的には淡々としたシナリオでした。ただ、その淡々とした
 雰囲気を随所で根底から揺さぶってくれたキャラがさやか先輩だったり…w



■ 第三章 (80点)

 主人公も若林も透子も茜も二宮医師も……どのキャラも全部イヤですw
 だけど水夏の中で一番好きな章なんですw
 でも、おそらくもっとも水夏の雰囲気から外れた章じゃないかと思ったり…。

 "さようなら、透子お姉ちゃん。あなただけを愛しつづけていたんだよ"

 このセリフで今までの構図すべてがひっくり返りましたw
 なんと茜が手に入れたかったのはお兄ちゃんじゃなくて透子お姉ちゃん。
 つまりお兄ちゃんへのラブラブ光線はすべて2人の中を引き裂き、透子を手に入れるため
 の演技。尤も本作で良和と一緒に生活していた茜というのは、茜の演技をしていた透子
 なので実際に "茜" が良和にじゃれ付く姿というのはあまり出てきませんでしたが、
 テキストからは相当、萌えキャラだったようですw

 それで、この "茜がずっと愛していたのは透子" という事実。
 良和が茜を選ばなかった場合、若林と良和の会話の場面が出てきますが、ここで明かされた
 内容と上記の事実を併せて考えていくと実はかなりややこしい事になります。
 まず、茜は血液鑑定を若林に依頼して彼から『血の繋がりが無い』兄妹である事を知らされ、
 これを契機に良和を誘惑します。
 もちろんこれは2人の中を破綻させて透子を手に入れるための茜の策略ですが、実はここに
 若林の思惑が絡んでいて、茜に教えた『血の繋がりが無い』兄妹という血液鑑定結果、
 実は嘘で、本当は良和と茜は同じ父を持った腹違いの兄妹でした。養父と母との不倫で
 生まれたのが良和であり、養父と婚姻関係の母の間にできたのが茜です。
 
 そしてそれだけに終わらず、若林が茜に嘘の血液鑑定結果を教えたのは透子の意志だという事。
 その透子は、茜が好きなのは透子自身だという事には気付いておらず、飽くまで透子は茜と
 良和の仲を裂いて茜を排除するための策略を巡らせていました。

 つまり透子がすべてを手玉に取って一人勝ちしたような印象の "茜を選ばなかった" ルート。
 透子は良和が茜を選ばず明示的に自分を選ばせる事で茜の『完全な排除』を目論んでいました
 が、茜が愛しているのは透子であって実際上、透子の意図した通りに茜を排除できていません。
 しかし、『二度目の岐路』で、透子が良和に奪われるという別の形で偶然に茜は結果として排除
 されました。

 ――透子は良和を独占するために茜の絶対的排除を目的として、茜をけしかけるという賭けに出る。
 ――茜は透子を奪うために透子と良和の仲を裂こうと、良和を誘惑するという賭けに出る。
 お互いがお互いの目的を理解できていない状態でここまで策略を張りまくった結果、相互に脈絡無く
 全てが良和の選択に委ねられている――
 そして最終的に第三章で唯一の選択肢(良和の選択)が上述の決定打となります。

 「お兄ちゃん、あたしを抱いてね。」

 若林と会話した後、自宅へ向かう場面で茜が口にしたこのセリフ…怖すぎですw
 透子扮する茜の誘惑に乗れって事ですが、完全に良和を道具とみなして、その背後にある
 傷ついた透子を切望しているという茜の心の暗部が初めて剥き出しになった瞬間です。
 茜選んだよルートでは良和はどうやら "排除" されたようなので良和の存在自体は本当に
 茜にとってどうでも良かったようです。


 真実の愛とは畸形的―― by 二宮医師

 愛とは2つのものが1つになることである。
 肉体的にも精神的にも人は1つになることができない。
 その理由は互いの悪い部分が見えてしまうからである。(戦争体験に起因)
 したがって、真実の愛が存在するとすれば@お互いの悪い部分が全く見えていないか
 Aお互いに悪い部分が全く "無い" かの二通りである。
 しかし一般的にそのようなものはありえないので、あるとすればそれは畸形的である。
 よって、真実の愛とは畸形的である。

 二宮医師のロジックをまとめるとこんなカンジだと思います。
 例のエンドでは最終的に、透子は茜を主人公だと認識して彼女(彼)を愛し、茜は透子を
 偏愛するシーンで幕を閉じます。
 とりあえず、ここで笑いましたw

 さて、透子は茜に自己の主人公に対する内的偶像を投影することで "悪い部分" を
 完全に捨象し、完璧な偶像に囚われた透子から茜は肯定的アクションしか受け取らずに
 済みます。まさに『この二人はお互いが見えているのだろうか?』という状態であり、
 言うなれば相互に相手の偶像だけを見ることで、お互いの悪い部分が全く見えていない
 状態を作り出しています。

 片一方は自分の描いた理想の彼氏の夢を見続ける。
 もう片方は夢を見続けているだけのパートナーを人形のように愛玩し続ける。
 相互に相手の本質部分を理解する事を放棄しています。

 この状態を茜サイドから再構成して、かつ二宮医師がこの状態をもって真実の愛と認める
 のならば、エロゲーの萌えキャラを本気で愛するオタクは "真実の愛" を掴んだという事に
 なりますw それが "畸形的" かどうかは置いておいて…(汗


■ 第四章 (55点)

 初めて会った名無しの少女にイベントを通じて、主人公が彼女に心惹かれる様子が
 丁寧に描かれています。良くも悪くもそれだけです。

 ただ、名無しの少女のもつバックグラウンドがそのままシナリオ構造に演繹されたような
 悪い意味でのストレートさが個人的に鼻についたというか、描くべきものがあるのに、
 それを周回する形でエンディングを迎えてしまったシナリオ的な浅さが目立ってしまって
 少し残念でした。
 名無しの少女が死神であると判明してからは、主人公の妹 "ちとせ" と名無しの少女を
 天秤にかけたような展開を匂わせますが、それが最終ラインまで突詰められる事無く、
 メデスによって救われるという結末で、結局、主人公と名無しの少女は何を見て何を感じて
 関係を変えていったのかという根本部分が、葛藤なり問題なりに落とし込まれることなく
 あやふやなままシナリオが進んだ印象を受けます。
 加えて第一章にも言える事ですが、超常現象的な存在についてはトリックで隠す場合を除いて
 予期せぬ誤解を生まない範囲でルールを明示化しておくべきだったかと…。

 個人的にはちとせを死なせて置いて、それでも尚あなたは名無しの少女を愛せますか、
 という、テーマとして実にシビアな領域に大胆に踏み込んで欲しかったり…。



■ ベストキャラ


 @白河さやか

 こういう人といたら絶対に退屈はしないだろうなーという不思議な魅力をもったキャラ。
 拡散型思考の人間というよりは、乱数的集中思考とでもいうべき、突発さがステキですw
 目的手段の尺度では、目的に乱数的であって手段に集中的(合理的)な人。
 普通は手段に集中的なら前提となる目的についても集中的なはずなんですが…
 自分もこの類なんで何故そうなるのかよく分かりますけど。
 一方、蒼二は目的手段の双方において集中的な人間です。


 A若林美絵

 水夏の中においてもっともマトモに女の子してヒロインしてたキャラ。
 本当にマトモってすばらしい。



■ ベストBGM

 特に好きな音楽があったわけじゃないですが、D.C.Uの白河ななかのテーマ曲、
 白河さやかのテーマ曲が元ネタだったのかー!と驚きましたw




■ 総評

 作品全体的に "描きたいテーマの為にトリックやレリックを駆使する" というのではなく、
  "トリックやレリックを読ませる" 事自体に作品のテーマを追求しているような感触が
 あります。書き手の技術力の高さに目を見張るものがありながら、作品の感情性やメッセージ
 がストーリーから欠落してしまっているので、最終的に心に残りにくいゲームだと思いました。
 これはちょうど、感情に訴えかける演劇(感動系)ではなく、観衆をあっと驚かせる手品(感嘆系)
 を見ているような感じでしょうか。どちらが良い悪いの問題ではなく、作品の訴求点が異なる
 というだけの話なので、このゲームの構造そのものを比較対象に捕まえてどうこう言えるもの
 ではないですけど…。
 ただ、"壮大な一発ネタ" だけに留まらないストーリーの核が欲しかったというのが素直な
 感想です。個別の章立てでトリックを駆使してレリックに注力するならいいのですが、最終的に
 それらが読み手の心に何も生み出さない点では、『びっくり箱』でしかないような感じです。
 各章に意味を与えて核となるストーリーを生み出すという役割を第四章に期待していたのですが
 それらに一本串を通すことなく、他の章と同じく個別の物語になってしまっていたのは、かなり
 痛い部分でした。

 ただし、面白いかつまらないかと訊かれたなら間違いなく "面白い" ゲームです。








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