[Home]  [about]  [Game]  [SS]  [blog]  [link
智代アフター(2007年9月9日 執筆)



 見どころ: シナリオ

 実に静かで淡々としたCLANNAD智代との後日談。
 後日談というにはいささか展開激しすぎですが…。orz




■ シナリオ

 とも に関わる智代の葛藤が前半のシナリオで、記憶喪失を繰り返す朋也を支える智代の内心にスポット
 ライトを当てたのが後半のシナリオです。前半のシナリオではともの幸せについて朋也と智代を対立させる
 構図によって智代の心の弱さを浮き彫りにし、それを彼女が克服する過程が描かれています。
 一方、後半のシナリオでは前半のシナリオで訴えてきたテーマに対応させる形で、ある種の弱さを克服した
 智代が内心の決着を吐露していくという流れです。

 前半の "ともシナリオ" は感動的な物語です。
 限られてしまった母親と過ごせる時間を大切にした方がいいと考えて、学校を作り出す朋也と、これ以上
 幼いともを悲しみに沈めるべきではないとして家族に迎え入れようとする智代。最後には智代も とも を
 母親の元に帰す事になります。智代の心の痛みも朋也の考え方も理解はできます。

 ただ、母親の先が長くない事から、ともは近い将来家族を失い独りになるのに、その事について母親も
 朋也も言及していないのはさすがに安易な感じがします。この点、智代は家族を失う悲しみだけではなく、
 家族を失った後の事まで考えている分、理は智代にあるように思えます。母親とともの再会シーンで
 わざわざ朋也がともに二者択一を迫るようなやりかたをせずとも、母親が死んだ後の事も考えて一緒に
 ともを見守っていけばいいのではないでしょうか。そもそもともにとって大事なのは母親との生活だけ
 ではなく、仲良く遊んでいた園児とその父親の描写がでているように、保育園での生活もかけがえのない
 もののはずです。朋也のロジックではそれらを考慮せず、ただ悲しみを乗り越えなければならない、
 親子だから一緒に暮らすべきだ、と主張しているだけで中身があまりないような印象さえ受けます。
 母親の死後のとものことを考えれば、智代の言うように悲しみを乗り越えられる家族や仲間の存在は
 重要なファクターのはずです。いつ死ぬかわからないのなら母親としては、娘の将来や環境を考慮して
 自分と智代との間を交互に住まわせるなり積極的な交流を持つべきとも思います。

 しかし、シナリオの構造的に朋也のロジックは到達点として扱われています。
 朋也はともに母親の思い出と死を経験させた上で、それを『人生の宝物』にしてこれから先、生きていって
 ほしいと願い、このテーマは後半シナリオで朋也の不幸を乗り越えて、朋也との思い出を『人生の宝物』に
 私は生きていくんだと決意している智代につながっていきます。
 つまり、前半シナリオで智代は とも との共同生活、内心の葛藤を通じて朋也の考え方に到達し、それゆえ
 後半シナリオでは、智代はその部分の弱さを克服した人間像が描かれていた事になります。
 シナリオライターが読み手に送りたかったメッセージ自体は前半のシナリオだけで伝わっている事になります。

 そのため後半シナリオでは伝えるべきテーマがトートロジーになってしまい、後半シナリオの存在意義が曖昧
 になっている印象が否めません。前半シナリオで智代は成長を果たしたはずですが、再びそれが朋也の
 不幸を媒介する形でためされているのは、目的として、@果たして朋也の考え方が正しかったのか読み手に
 再検証させる、Aとも の身に起きた不幸を智代にも経験させてそれでもなお智代が考え方を変える事が
 なかった事を読み手に見せたい、という2つが考えられます。
 しかし、@の目的では朋也の不幸の後日談にウェイトが置かれていない点、Aの目的であっても智代が
 朋也の記憶喪失の3年間が描かれていない点から、いずれの場合でも中途半端な印象です。
 結局のところ、後半シナリオはテーマ性の在り方をかえない場合、描写不足に尽きるのではないかと感じました。
 テーマ性の重複に加えて、ラストの後味の悪さがどうにもシナリオを納得しがたいものにしてしまった感じです。

 智代が『森のくまさん』の名前でネットで誰かの相談に乗っている形態をとりながら、自分と朋也の
 過去体験を語っていくと言う形式で進んでいますが、朋也の生死自体については明言されていません。
 過去体験について『人生の宝物』と言及するなど、思い出を過去視する立場に立っている事や、朋也との
 未来の存在について否定的な言動をとっている事から、死んでいそうな雰囲気ではありますが、生死に
 ついて曖昧にされいるのは、シナリオライター的に明確なバッドエンドを避ける目的があるように感じた
 ので考えるべき部分ではなさそうです。朋也の不幸は、とも の状況を智代に再現させる道具でしかなく、
 シナリオライターが読み手に見せたいのは、当該状況下での智代の強さや内心の動きでしょう。

 その意味で心情描写は見事の一言に尽きます。
 やはりこのシナリオライターのよさというのは、人間の感情を巧みに表現するところや、読み手の感情を
 計画的に動かしてしまうところでしょうw



■ ベストキャラ

 ・岡崎直幸

  家を掃除している描写のところで泣かされました。
  CLANNAD本編でも直幸には泣かされた気がします。


■ ベストBGM

 静かで落ち着きの感じられる曲調は智代アフターの雰囲気を見事に作り出しています。
 ボーカル曲で印象に残ったのはあまりないですが、BGMでは『hope』『morning glow』が好きです。


■ 総評

 前半のともシナリオだけでよくて、後半のアフターは蛇足だった気がします。
 ともシナリオを前半で描いたなら、後半は母親の死後、智代、朋也、ともが家族として一緒に悲しみを
 乗り越えていく過程にウェイトをおいて、最後にともが笑顔を取り戻すぐらいの絵を入れるだけでよかった
 ように個人的に想像してます。ともシナリオとアフターとではテーマ性を継承させているものの、展開自体が
 読み手から見て斜め上で、おまけに鬱臭がするので、受け入れ難さが目立ったように思えます。
 シナリオライターが伝えたいテーマ性は伝わっているはずですが、そのテーマ性がどうにも表に出すぎて
 暴走した感じがあるのでバランスを欠いた印象を持ちました。
 朋也の『人生の宝物』になるという考え方が、そのままテーマになっているので、その考え方が最終的にともを
 幸せにしたのか、という部分についてもう少し掘り下げて表現して欲しかったです。読み手から見ても智代の
 内心の動きや成長よりも、ともがどうなるかの方が気になるようなストーリーの動かし方だったので、
 それを主軸にした物語運びにすれば、全体としてバランスがとれたような気がします。

 でも、全体の雰囲気の作り方やシナリオ前半の流れがすごい好きです。






【戻る】


inserted by FC2 system