死闘は凛然なりて  −第09話 「筋肉」−
 











 俺たちは包囲された――
 謙吾の呟いたセリフに俺も真人も鈴も固まってしまった。

     「…いったい、なんでこんな事になってんだ?」
     「――理樹が戦いを挑んできたんだ。」
     「そりゃぁバトルの事じゃないのか? それで何であいつらに包囲されなきゃならん?」

     「あいつらもバトルの参加者って事さ。俺が理樹にいつでも戦いに来いと言ったんだが…
      どうやら、ルール無用のデスマッチになっちまったらしい。」

     「また余計な事を…」

 俺の答えに、またか…という感じで頭を抱える謙吾。
 と、すぐに立ち直って真人と謙吾が同時に俺に訊いてきた。

     「…で、どうすんだよ?」
     「あいつら、何だかよく分からんが武装しているようだぞ。」

     「それはそうだろ。俺たちのいる男子寮に攻め込もうとしているんだぞ。」
     「…って、オイ! あいつら全部オレたちの敵って事かよっ!?」
     「そ。多分、あいつらは理樹が集めた兵隊ってトコだろう――で、理解したか?
            ――俺+真人+謙吾 VS 理樹と愉快な仲間たち。おーけー?」

 状況が飲み込めないといった感じで真人も謙吾も口を開けたままボケている。
 おまえら、最高に間抜けな表情してるんじゃねーよ…。
 と、そんな中、鈴が不安そうに口を開く。

     「…あたしも危険なのか?」
     「いや、鈴は大丈夫。あいつらのボスは理樹だぜ。あくまで敵となるのは俺に真人に謙吾の3人。」
     「そうか…。りきがやってきたんだな…」

 俺の言葉に何か考え込む鈴。
 ん?そうか…。形の上では、鈴は俺たち悪役に囚われたお姫様って事か。


     「…なるほどな。悪くない設定だ。」


 ――さて、どうするか。
 理樹は俺たちとバトルしてこの世界の秘密、そして現実で何が起こったかを確かめたいのだろう。
 だが理樹が勝てば教えてやるのか? 本当に理樹や鈴は耐える事ができるのか?
 バトルに勝ったとしても――俺たちリトルバスターズのいない現実に勝てるとは限らないのだ。
 むしろ、理樹の強さがリトルバスターズの中で培われたものだと考えると、現実には勝てないかもしれない。

 窓の外に目をやる。
 まるで俺がリトルバスターズでいつも振舞っているように、理樹がリーダーになってみんなを動かしている。

 それは、俺が理樹に望んだ姿に重なってくる。
 それにしてもあの人数…俺だってあそこまでできないだろう。だったら――


     「はは…っ」


 なんの事はない。最初から結論は決まっていたのだ。
 俺はふと鈴を見つめる。


     「…なんだ?」
     「鈴。強く生きろよ?」


 首をかしげる鈴の頭をくしゃっとかき乱す。
 それを触られるのを嫌がる野良猫のように、かぶりを振って俺の手を払いのける。

     「理樹が真ん中で話を始めたぞ。なんか作戦タイムかもしれねーな。」
     「まずいな…恭介、おまえが行ってみなをなだめるしかないだろう。穏便にすませろよ?」

     「――よし、分かった。俺にまかせろっ」

 俺は真人と謙吾に親指を立てると窓際に鈴を連れて歩み寄る。







         :
         :









     「――という話なんだ。相手はあの井ノ原真人に宮沢謙吾、そして棗恭介なんだ。
      手加減はいらない。恭介の企画だから思いっきり暴れて欲しいんだ。」

 おおおーっ!!と手に持った武器を天にかざして色めき立つ生徒たち。
 その数、実に207名…!

 日の沈みかけた日曜日の夕方――
 3年の男子寮の前には、食券によって集められた生徒たちが集結していた。
 それぞれがホウキや角材、バケツなどで思い思いの武装をしている。
 その輪の中心で僕は彼らに事の成行きを説明し、士気を高揚させているところなのだ。

     「今話したグループは僕、直枝理樹についてきて! それから2番目のグループは神北小毬の部隊に!
      残りは三枝葉留佳隊についていって! 作戦はそれぞれの部隊長がこれから――」



     「聞こえるかぁ〜〜!! おまえらぁぁ〜〜!!」






     「!!」


 僕も生徒たちも声のした方向に一斉に振り向く。

 あれは棗恭介だ! 横にいるのは鈴様じゃないか?
 3階の窓から姿をあらわした恭介と鈴に生徒たちはざわめきだす。


     「………」


 ――僕は真っ直ぐに恭介の双眸を見据える。
 いつものように不敵な笑みを浮かべている僕らのリーダー。
 何も喋らずにいるだけなのに…誰もが恭介に視線を奪われ、瞬時にあたりを夕闇と静寂が支配する。

 ミステリアスで何を考えているか分からない。
 だけどその言葉には人に何かを信じさせる魂が篭っていた。
 そんな恭介がこれから僕にいう言葉――



     「棗鈴は預かったぁ〜〜!! 返して欲しいのなら――
           俺たちを倒して力づくで取り返してみろぉぉぉぉっ!!」



     「ぶーッ!?」


 盛大にコケた。


     「俺たちを倒せば――鈴の唇はおまえらのものだぁぁぁ!!
        勇者よ来い!待ってるぜ! ははははーっ!! ふはははは――」



     「な、な…なにさらすんじゃ、ボケー!!」
     「――ふごっ!?」


 窓の向こうで恭介が鈴にハイキックを食らって吹っ飛んでいた。
 そして一時の沈黙の後――


     「うおおおぉぉぉぉぉぉぉっー!!」


 野郎どもの士気がMAXに跳ね上がった!
 ――男子生徒の嬌声が鳴り止まない中、僕は立ち尽くして考える。
 
 これが恭介なりの気遣いか、刹那的に思いついた娯楽なのかは計り知れない。
 だけどこうして顔を出して挑発してくれた以上、遠慮なしにいけるというもの…!
 お祭り騒ぎのような喧騒の中、僕は声を上げて笑い出してしまった。

 ――なんて恭介らしいんだ、と。

 …と、唐突に窓からひょっこりと鈴が顔を出す。




     「――りきッ! このバカどもを絶対に倒せ! いいな、約束だぞ! 約束だからな…っ!」


     「…うん、約束。 約束だね。 いますぐ助けに行くからねっ!!」

















死闘は凛然なりて

−第09話 「筋肉」−

















     「オイ、下に集まってるヤツら。野郎の数がイッキに増えてるぞ。」
     「恭介…おまえというヤツは……」


 床に手をつきガクリとした謙吾。
 俺は暴れる鈴を捕まえて話を始める。


     「まぁ、謙吾。そう落ち込むな――理樹が自分の意志で俺たちに戦いを挑んできたんだ。
      真っ向から迎え撃ってやるのが一番だろ?」
     「そうはいってもな――」

     「理樹はこの世界が何か、そして現実がどうなっているのか、半分気付いている。」

     「!」

     「バス事故の事も、この世界が本当の世界でない事も気付きかけた上でその先を知ろうとしている。」

     「………」

     「この世界の先には何もないのかもしれない。俺や謙吾、真人――それに小毬や西園、三枝、来ヶ谷、
      能美たちのいない世界だ。」

     「………」

     「この先二人が強く生きていけるか分からない。だが、理樹が決意を固めたのなら俺たち
      リトルバスターズのやる事は1つだ。…協力してくれ。二人の、いや――俺たちのために!」


 俺の真剣な目に込められた思いが届いたのだろうか――


     「――ああ。そうだな!」


 謙吾は立ち上がり、そして俺の差し出した手をガッチリと握った。
 口元に笑みを浮かべる謙吾に俺も笑い返す。



     「へっ、違いねぇ!」


 俺と謙吾の握り締めた手の上に、真人も手を重ねた。
 互いに頷きあったところで、小さく謙吾が笑う。
 その声につられるように俺たち3人は声を上げて笑っていた。



     「俺たちリトルバスターズの――ラストミッションだ。理樹と鈴を強くして現実に還そう。」
     「ああ…!」
     「おしっ、やろうぜっ!!」


     「?」


 ポカンとした表情の鈴の傍らで、俺たちは最後のミッションへと心を一つにした。
 そして、俺はいつものように手を前にかざすとお決まりのセリフを口に出した――



         :
         :










     「ミッションスタート!」




 バッと手を振りかざして僕は大声で叫ぶ。
 沸き上がる生徒達の喚声。夕空に突き出される無数の拳。そして異様な熱気、熱気、熱気…!
 ほとんど太陽が沈みかけて真っ暗になりそうだというのに、僕らの雰囲気は底抜けに明るい。

 僕は頷き左右にそれぞれ手を振る。

 その合図で小毬さん、葉留佳さんの小隊が別の方向へと散開する。
 それぞれに100人近い武装した生徒たちが隊長の後を追って一斉に駆け出していく。
 この狭い男子寮前に集まった生徒は207人から、恭介の挑発でさらに増えて300人を超える程…!
 それがまるで訓練された軍隊のように隊列を組んで移動しているのだ。


     「さぁ、恭介。最後なんだから思いっきり楽しもうよ。」


 すでに恭介の姿のない3階の窓を見つめながら呟く。

 ――まずは小毬さんが先鋒になって正面から突入。
 一方、葉留佳さんは食堂を制圧後、3年男子寮周辺の施設を抑えて退路を断つ作戦だ。

     『――小毬隊、正面口から突入しました。敵影は見当たらず…オーバー。』

     「了解。小毬さんはそのまま1階フロアの制圧にとりかかって。…オーバー。」

 小型イヤホンを通して逐次、戦況が報告される。
 その報告を聞いて僕は立ち上がり、片手を上げて後列の生徒に合図を送る。



 ――ザザ…

     『はるちん隊、筋肉に遭遇! これから戦闘の予感っ! 場所は食堂前!』

 真人が出てきたのか。
 という事は、寮の中には恭介と謙吾がいることになる…。

     『 目の前に肉発見! 肉発見! 煮る?それとも焼く?』
     「――了解。これから援軍をそっちに向かわせるね。それまで真人を足止めしておいて!」







         :
         :



 








     「――場所は食堂前! 目の前に肉発見! 肉発見! 煮る?それとも焼く?」
     『――了解。これから援軍をそっちに向かわせるね。それまで真人を足止めしておいて!』

 ――ブブ…

     『ニク ニク イエイ イエイw』
     「肉 肉 いえぃ、いえぃ! やっほーっ! 真人くん!」

     「肉じゃ贅肉か筋肉か区別がつかねーだろーがっ!」


 私、三枝葉留佳とその兵隊100人弱。
 それを前にして真人くんが腕を組んで仁王立ちで不敵に笑っている。
 こうも待ち構えられると、はるちん的には、じゃ!とか言って華麗にスルーしたいところだったけど――


     「とりあえず、筋肉は駆除しとかないと――みんなぁ! 戦闘態勢ッ! セミサークルフォーメーション!」
     『スタンバイ レディ―』

 後ろに控える生徒たちは武器をそれぞれの手に構えて半円形の陣形を整える。
 そして私の武器であるインテリジェンスデバイス――ライジングサンもいつでも魔法攻撃OKだ。

     「ほぉ〜、100人ぐらいいるんじゃねーか? さすが理樹だぜ、こんなに集めるなんてな。」
     「ま、わたしの人望って事ですな、ふふん!」
     「いや、それはねーよ」
     『イヤ ソレハネーヨ』

 三枝だもんなぁ、あり得ないよねー、と生徒たちからも声が漏れ聞こえるが気にしない事にする。

     「ふん!そうやっていられるのも今のうちって事ね。多勢に無勢――いくら真人くんでも勝ち目なし、
      て事ですヨ。」

     「舐められたものだな。バトルで大事なのはここさ。おまえたちと違ってオレのここは、いつだって熱く
      火傷しそうなぐらいヒートアップしてるんだぜ。」

 自分の胸を親指で指しながら自信たっぷりに話す真人くん。

     「…筋肉?」
     「へっ、分かってんじゃねーか。」

     「しまった…! 正解だったのかっ! まぁイイヤ――やっておしまいっ!!




 空に掲げたライジングサンを振り下ろす。
 そして、同時に私の背後に控えていた生徒たちが真人くんへと突撃していく…!


     ワアァァァーーー!!


     「わはははっ!来やがれってんだッ!うおおおぉぉっ!!」


 無数の足音が真人くんを取り囲もうとする!
 が、武装した生徒たちの集団に真人くんから突っ込んできた――!


     「オラよっ!!」

 ――ボグッ

     「わああぁっ!?」

 最初に突撃した男子生徒が真人くんの拳を食らって空高く吹き飛んだ。
 そのスキに背後から真人くんの頭めがけて思い切り角材が振り下ろされた!
 しかし、角材は折れてしまい無傷の真人くんはその男子生徒の頭を掴んでそのまま後ろに投げ飛ばす!

     「うぎゃぁぁ〜〜〜!!」

 投げ飛ばされた男子生徒の声が遠ざかっていき、やがてその体は校舎の壁に激突してそのまま落下する。
 人間の体とは思えないほど、ぽーんと軽く飛ばされていったのだ。


     ざわざわ…
                ざわざわ…


 威勢良く突撃していった生徒達の間にも動揺が走る。
 目の前をパンチ一発で人が吹っ飛んでいったのだ。
 次に踏み込んでいけば自分もそうなるのではないか? あんなになって大丈夫なのか?
 そんな怯えから誰もが遠巻きに真人くんを囲んでいるだけになった。


     「どうしたよ? おまえら怖気づいたのか?」
     「心配するなぁーーーっ!! 相手は筋肉バカ1人じゃん! こっちは100人であっちは肉1つ!
      数でかかればいけるわヨ! あんたたちの代わりはいくらでもいるんだから!!



     「………」


 シンと静まり返った。
 そして私の言葉に鼓舞されたのか――生徒たちは互いに頷きあって表情を明るくしていく。
 そうだな! ああ…! 俺たちだもんな! ――口々に呟き合って拳を叩きあう生徒たち。


     「突撃ーっ!! 筋肉を袋にするのですヨ!!」


     ワアァァァーーー!!


 私の合図で再び生徒たちは走り出す!!

 そう――兵士の士気を高めて最高のパフォーマンスを発揮させるのが司令官の仕事。
 部隊の強さは兵士の強さ以上に司令官のカリスマが支配する。
 羊が率いるオオカミの群よりも、オオカミが率いる羊の群の方が確実に強い…!

 だから、私の言葉で心を一つにした彼らの表情にもはや迷いなんてなかった。



     ワアァァァーーー!!



     ワアァァァーーー!!



     ワアァァァーーー!!



 本当に迷いなんてない。
 みんな、武器を捨てて真人くんとは逆方向に走り出したのだから。



     「って逃げ出してンじゃないわよーーーっ!! 逃亡兵には死あるのみッ!!
                 ライジングサンッーーーーーー!!」


     『ヒィ ((((;゜Д゜)))…スターライトブイレカー』



             :
             :










 ――ドゴオォォォォォ!!


     「うわぁ!? いったい何なのさ!?」


 僕のいるここからそう遠くない場所で爆発が起こった。
 あれは――食堂の方向? 葉留佳さんと真人が戦っている方向だ…!


 ――ザザ…


     『――こちらはるちん隊! えーと、全滅しちゃいました…てへっ』
     「葉留佳さん! 今の爆発は…!? そっか。真人、とんでもなく強いんだね…」
     『え? え? ハイ、そうなのですヨ! おかげで私の部隊は一瞬で全滅ですナ。』

 そんな一瞬で100人近くの兵隊が全滅するなんて――!
 葉留佳さんの部隊の生徒たちは、葉留佳さんが魔法を準備する間の護衛――すなわち肝といってもいい。
 それが全滅させられたとなれば、彼女ひとりで真人に勝つのは難しいだろう。

 ――もはや最強の彼女に頼るしかないか!

     「分かった。そろそろ援軍がそっちに到着する頃だよ。がんばって!」



             :
             :











     「うおおりゃぁぁ!!」

     「ひいいぃぃぃぃ!?」


 金髪の男子生徒が真人くんに足を掴まれて、そのままハンマー投げのように振り回されていた。
 そして、そのまま真横に投げ飛ばされた男子生徒は私めがけて飛んでくる…!

     「きゃ…っ」
     『プロテクション』

 ごきっとイヤな音がして男子生徒がバリアに衝突した。
 すぐに追いかけてくる真人くんから私は走って逃げる!

     「うらぁー!! 逃げ回ってばかりでやる気あんのかぁ、三枝ぁぁ!!」
     「アホですかーっ、筋肉ダルマにヤラれるなんてまっぴらですヨッ!!」
     「ちっ、どいつもこいつも歯ごたえがなさ過ぎんぜ――」



     「――少年は歯ごたえが欲しいのか。なら、アゴが砕けるほどの歯ごたえをプレゼントしよう。」



     「あん?誰――」

 ――ドゴッ!!



 私の背後からタッタッと軽快な足音が何度か聞こえたと思ったら、多少の間を置いて衝撃音があたりに響く。
 仰向けに倒れた真人くん。その傍らに音もなく立っていたのは黒い髪の凛とした佇まいの女生徒――


     「姉御っ!!」

     「葉留佳君。理樹君からの指示に従って応援に来たぞ――
      さぁ、立ちたまえ真人少年。どんな名優でも寝ているだけでは観客から拍手は期待できんぞ。」


 ニヤリと笑う姉御――
 あの真人くんを、こうもあっさりと倒してしまうあたり、やはり只者じゃなかった。
 違う、それだけじゃない…!


     「今の私はクドリャフカ君の吸血鬼――夜に戦う相手としては最大級に不利だと覚悟するといい。」


 ただでさえ強い姉御が、吸血鬼化してしかも夜だというのだ!
 もはや敵なんていない――この世界で最強のキャラじゃん…!


     「来ヶ谷…か。やってくれるじゃねーか。今の蹴りは鈴虫の涙ぐらいは効いたぜ…!」


 何事もなかったかのように立ち上がって拳をゴキッと鳴らす真人くん。
 と、いきなり大ぶりにパンチを繰り出してきた――!

     「そらよ…っ!」
     「ふ。」


 ――ボカッ!!

 パンチが届く前に、真人くんの横っ面を姉御の靴の裏が完全に捉えていた。
 華麗な回し蹴りに真人くんの体は空中で横にスピンしながら再び地面に倒れた。
 が、すぐに回復したようでゆらりと立ち上がって拳を構える真人くん。

     「へっ! やっと骨のある――」

 ――ガスッ!!

 姉御の容赦のない裏拳を食らって地面を転がっていく真人くん。
 が、やっぱりすぐに立ち上がって再び掴みかかろうとする。

     「やっと骨――」

 ――ドコッ!!

 今度はアッパーカットが真人くんのアゴを捉える。
 空中で縦に3回転して顔から地面に墜落した。

     「骨――」

 ――バシッ!!

 姉御のヤクザキックで真人くんの体がノーバンで食堂の外壁に激突する。


 「うおおぉぉ! こんだけ蹴られて殴られたら骨が折れるわぁぁっ!!」


     「ふむ…思ったよりもタフだな。」

 頭を抱えて叫んでいる真人くんを見て姉御が一人頷く。
 ――これはもはやバトルにすらなっていないというレベルだ。

 真人くんが蹴られて、真人くんが殴られて、真人くんが転がって、真人くんがやられる。
 対戦相手同士というよりは、被害者と加害者という表現が似合いそうだった。

 三度、四度と真人くんは姉御に向かっていくけど、まるで攻撃は当たらないし一方的にやられているだけだ。


 ――ズサァーッ!


     「ちぃ! 来ヶ谷相手にゃちとキビシイな…」
     「そろそろ降参する、というのが私の読みだが…どうだ?」
     「なに言ってやがる? これから本気(マジ)が始まるんだぜ?――筋肉革命さ。」
     「なんだ、それは?」

 ふっ、と笑って真人くんは立ち上がると学ランについた埃を払う。



     「熱き漢の筋肉が世界を覆い尽くす…!」



                           「――筋肉の筋肉による筋肉のための筋肉。」



 ――!?


     「ちょっ…姉御ッ!」
     「ああ…。なんだ、コレは?」


 姉御の正面には真人くんがいた。
 が、しかし――姉御の右方向にも真人くんがいるのだ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 どこからどう見てもそれは真人くん。2人の特徴は全く同じといってもいい。
 そして、今聞こえた2つの声は全く同じ真人くんの声――!!


     「真人くんが2人いる…??」
     「これは――正直言って気持ち悪いな。」


 姉御は腕を組んでイヤそうな表情を浮かべる。
 それとは対照的に真人くんは2人とも生き生きとした顔でやる気まんまんだった。


     「さぁ、バトル――」


                             「再開だぜっ!!」


 うおおおぉぉ!と全く同じ叫び声が2人から鳴り響く。
 私の目の前を2人の真人くんが姉御に突進していった…!
















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