死闘は凛然なりて  −第15話 「何も起こらなかった世界」−
 











     「はぁ……はぁ……」

 ひざの力が抜けて僕は床にへたり込んだ。
 その拍子に腕に抱えたバナナがボトッと落ちていく。

     「はは…信じられないよ。こんな僕でも謙吾に勝ったんだ…。」

 震える両手を見つめながら、自然と笑みが零れてくる。
 きっと勝てない、何をやっても敵わない最強だと思っていた謙吾を倒せたんだ。
 頭で興奮を抑えきれない以上に、身体は興奮しきっていた。

     「理樹くん、おめでとうございます。」
     「よくやったな、少年。」

 小毬さんと来ヶ谷さんが拍手で僕を包んでくれた。

     「本当にバナナで勝ってしまうなんて…!」
     「やー、でもホントにいいバトルだったヨ。あ、一本ちょうだい!」

 目を輝かせて駆け寄ってくるクドに、バナナを頬張る葉留佳さん。
 みんなに囲まれてバナナの中ふと思う。

     (…謙吾は最後まで横に避けなかったんだね。)

 最後の攻撃だって剣道を極めた謙吾なら避けられたはずなんだ。
 それでも謙吾は真正面から僕の攻撃を受けたんだ。
 それも最後は竹刀を捨ててただ両腕を広げてぶつかろうとしただけ――


     「だったら、僕は最後まで謙吾には敵わなかったのかもね――」


     「――それは違うぞ、理樹。」

 足音が僕の背後で止まる。

     「でも本気でやったら僕はあっけなくやられたと思うよ。」
     「まさか。俺も本気だった。そして真正面からぶつかって俺が負けた――それだけさ。」
     「…うん。ありがとう、謙吾。」

 僕は立ち上がって振り返る。
 バナナの皮をいたるところにくっつけたままの謙吾――
 その差し出した手を僕はガッチリと握り返す。

     「リトルバスターズは永遠に不滅だ。」
     「そうだね。何が起こったか分からないけど――僕が守ってみせるよ、絶対にね。」
     「…ああ、そうだな。」

 僕は謙吾の手を力強く握り返す。
 でも――なぜか分からないけど謙吾は寂しげな目をしていた。




















死闘は凛然なりて

−第15話 「何も起こらなかった世界」−












     「さて少年、これで残すのは恭介氏のみとなったわけだが――」
     「ちょっと怖いけど…どんな相手でもやってみるまでは分からないよ。」
     「うむ、それでこそ少年というものだ。」

 静かに頷く来ヶ谷さん。

     「だけど、勝つためには作戦も必要です。謙吾君、恭介さんの弱点とか特徴はないですか?」
     「弱点は…ないな。おい、真人! 恭介の弱点って知らないか?」

 いまだ床の上に転がっている犬の着ぐるみに謙吾が呼びかける。

     「………。」

     「返事がない。…ただのヴェルカのようだな。」
     「っていうか、本当のヴェルカはどこに行ったのですかっ(>ω<)」
     「それでは特徴はどうですか?」
     「特徴は…そうだな。知ってのとおり恭介はこの世界ではほぼ最強だ。おおよそこの世界に
      あるモノは恭介の思い通りになるし、この世界にないモノを生み出す事もできる。
      ただ生み出して使うだけなら俺にもできるし、現段階で理樹にも可能だ。」

 両手を広げて宙に色んな武器を出現させる謙吾。
 謙吾が武器を何もないところから生み出せたように、僕にもそれができるようになっていた。
 最初の頃に比べて僕自身がレベルアップしている証だ。

 それはこの世界がどこかリアルさが欠落していて、まるで夢の中だから無茶できるような――
 そんな感覚に僕が支配されているからかもしれない。
 ゲームみたいにリセットボタンを押せばやり直せるような意識があるから、どんな大胆な事だって
 簡単にこなせてしまう。

     「まるでこの世界が僕のために存在しているような錯覚をしてしまうよ。」

 手に生み出したバナナの皮を剥きながら、その傲慢な考えに僕は笑ってしまう。
 ――だとしたら、こうして遊んでいる世界は僕が望んだ最高の状況だったはずだから。

     「はははっ! そうだな。この世界がおまえのためにできて、おまえの望む時間だけここにいられたら、
      それはきっと幸せなのかもしれない。もう、ムリに強くならなくてもいいかもしれない…。」

 夢の世界なんだからな、と言って大口を開けて笑う謙吾。

     「やっぱり恭介も僕らと同じように何かを想像して生み出す事はできるんだよね?」
     「ああ、だが恭介のそれは常軌を逸している。現実世界の常識なんてものはこの世界じゃゴミだ。
      常識や先入観だけでなく物理法則も無視している場合があるからな。」
     「物理法則を捻じ曲げるなんて…それは最強だね。火星人がやってきてノートを焼き払ったってのも
      ここじゃ通用するかもしれないね。」

 何かを生み出す事ができるのなら、真人の言い訳を現実にする事もできるかもしれない。
 そう考えるとここはかなり楽しい世界に思えた。

     「こんな楽しい世界なら元に戻った時は名残惜しいだろうね。」



     「――なぁ理樹。こんな世界がずっと続けばいいと思わないか?」



 ふと謙吾が口にした言葉に重みを感じる。
 僕と恭介、真人に謙吾に鈴…それに他のみんなも揃って賑やかな毎日を送るだけ。
 それはきっと誰もが願っていた事だと思う。

     「リトルバスターズが揃ってバカな事やるだけの日々だ。恭介がミッションを出して真人がバカをやって…
      おまえや俺も振り回されてさ…最後に鈴が真人の頭にハイキックを食らわせるんだよ。」

 それは今までのありふれた日常のひとコマ。

     「野球なんてのもいい。能美がフライを受け損ねてボールが頭に直撃したのを三枝が笑ったり…」

 そんな楽しい場面――これからも間違いなく続いていくだろう情景なのだ。

     「西園と神北が新聞紙ブレードでバトルしてるのを後ろから来ヶ谷が一発入れたりさ…」

 なのになぜ――

     「そんな毎日がエブリディなのも悪くないじゃないか、はははっ! 言ってる俺にも意味がよく分からないがな…」

 ――謙吾はそんなに哀しそうな目をしているのだろう。

 誰もが心の中で願っている事。
 そんな事あればいいなぁと思いながら、時間の寂寞に溶けて消え失せてしまいそうな夢。
 惜しんで口にする事はあっても、それがいつか思い出に変わるのなら、そんなに哀しい目をして言うものじゃない。

     「そうだね。謙吾の言う通り、ずっとこんな時間が続けばいいなって思うよ。」



     「――だが、永遠なんてないさ。」




 ――!!

 その言葉に僕の心臓は射抜かれたように跳ね上がる。
 開け放たれた窓――そこにはポケットに手を突っ込み、片手でロープに掴まりながら笑みを浮かべる男子生徒。
 僕らのリーダーにして完全無欠の3年生――

     「恭介!」
     「あんまり遅いからこっちから来てやったぜ。それから見事だった、理樹。」

 いつものように無邪気な表情で笑う恭介。
 ロープにぶら下がったまま反動をつけると窓から廊下へとストンと飛び降りる。
 
     「あとは俺だけだ。ふっふっふ…鈴が欲しいのならこの俺の屍を超えていくがいい!」

     「いやいや、娘は渡さんと怒鳴る頑固親父じゃないんだから。でも恭介――
      僕が勝ったら全部教えてもらうよ。この世界が何なのか、どうして僕らはこんなところにいるのか…全部ね。」

     「もちろんだ。というよりも俺が教えるのではなく、おまえがその眼で確認する事になるがな。
      …どんな事が起きていたって、俺に勝てるような理樹になっているなら、平気に違いないさ。」

 恭介の笑顔はいつもと同じように見えてどこか寂しげにも見えた。
 軽口を叩きながらも目の前の僕ではなく、どこか遠くの未来を見つめるような目をしている。
 僕はその目を少し前に見ていた――恭介も謙吾も同じ目をしていたのだ。
 諦観を隠せずにいるような、期待を殺せずにいるような、はっきりとしない思惑を秘めた目――

 遅疑逡巡としていてもこの胸の不安や何度も見ている悪夢の正体はつかめないだろう。
 だけど…僕は恭介の少し違った雰囲気から何か嫌なものを感じ取っていた。
 いつだって先回りして完璧になんでもこなしている恭介が不安を隠せないでいるのだ――

 と、今まで黙って腕を組んでいた謙吾が口を開く。

     「おまえは…理樹がバトルでおまえに勝ったら、すべて終わらせるつもりなんだな…
      違う――例え勝てなくても終わらせるのだな…」

     「………」

 謙吾は唇をかみ締め、拳に力を込める。
 恭介はただ、そんな謙吾の目をじっと見据えるだけだった。
 恭介が口を開くまでも無く…その視線は謙吾の問いかけを肯定するものだ――
 やがてその突き刺さる視線に屈するように謙吾は俯く。



     「………………イヤだ。」


     「………」



 ――ただ一言呟く。
 俯いた謙吾の顔からその表情は読み取れない。

     「謙吾。俺たちは理樹を強くしてこの世界から送り出してやろうと決めただろ?」
     「俺は――」
     「ん?」

     「俺はこの世界で理樹たちと一緒にいたい。おまえたちと他愛ない日常を過ごせたらいいんだ…。
      ――恭介、考え直せ。このままここにいれば誰も傷つかないし、幸せでいられる。」

     「………」

     「理樹や鈴がこのまま現実に向き合ったとしても押しつぶされるだけだ。いくらこの世界で…
      強くなったとしても、到底、現実を乗り越えられる強さには及ばない…!」

     「………」

     「だから…! この何も起こらなかった世界なら…っ!! 俺たちリトルバスターズは…っ……
      理樹も鈴もみんな…っ…何も知らずに……生きて…いられる……ッ……!!」

 嗚咽を漏らしながら床に両手をつく謙吾。
 この学園で最強と謳われ、向かうところ敵無しと言われた謙吾が泣いていた。

 僕には何をそんなに悲しんでいるのか分からない――
 何を恐れているのか、何を守ろうとしているのか、そして何から逃げようとしているのか。
 だが恭介はそんな様子を無機質な表情で見つめているだけだった。

     「マスク・ザ・斎藤が出てきた時点で理樹は十分に強くなった。後は送り出すだけで俺たちの
      ラストミッションは終わりだ。――そこをどけ、謙吾。もう楽しんだだろ?」

 恭介は一歩踏み出す。

     「……させん。」

 竹刀を手に持ち恭介の喉元に突きつける。
 二人の間にある空間が焼き切れてしまいそうな程、互いの双眸が交差する。
 謙吾の眼は熱く何かを怖れるように…そして恭介の目はひたすら冷たいままだった。

     「ちょっと…二人ともどうしたってのさ!?」

 うろたえる僕の声は二人に届かない。
 来ヶ谷さんも小毬さんも葉留佳さんもみんな、時間が止まってしまったように微動だにしない。
 気付くと僕は謙吾の肩を掴んでまくしたてていた。

     「謙吾も恭介も話が見えないよ!なんなのさ!? 何も起こらなかった世界って何?
      生きていられるって何だよ!? 二人とも何の話をしているの分からないよ!」




     「理樹――おまえは弱いままでもいい。」




     「――え?」

 肩に乗せた手をゆっくりと振り払うと謙吾は毅然とした表情で恭介を睨み返す。

     「この世界を終わらせたいのなら…この俺を倒してからやってみろ!!」
     「………バカが。」

 口の端をゆがめて呟くと、恭介は突きつけられた竹刀を右足で蹴り上げる。
 そして右足を謙吾の足元に踏み込むと、身体を回転させて回し蹴りを謙吾の顔面に叩き込む…!

     「グッ…!!」
     「望みどおりにしてやる。立てよ、謙吾。」

     「うわああああぁぁぁぁっ!!」

 口から血を流し、竹刀を握り締めて恭介に向かって走り出す。
 破れかぶれに竹刀を振り回す謙吾を、悉く恭介は避けていき謙吾の腹に蹴りを叩き込んだ。

     「ング…ッ…!!」

 蹴り倒された謙吾の体が床を滑っていく。

     「バカでも冷静でもない今のおまえなんて興ざめなんだよ…ッ!」
     「………ッ」

 謙吾はゆらりと立ち上がって、いつものように竹刀を丁寧に構えなおす。
 そしてジリジリとすり足で恭介に音も無く疾く駆け寄る…!

     「!」
     「せいッ!!」

 ――ガン! ゴン! ガスッ!

 視認できない程の剣捌き――
 上から横から…恭介の身体を存分に叩き崩そうと嵐のように打ちまくる…!
 恭介は竹刀を手や足でひたすら防御するしかなかった。

 すごい…!
 あの恭介が防戦一方なのだ。とても先刻僕が戦った相手とは思えないような鬼神じみた攻撃!
 鞭のようにしなる竹刀が恭介の腕に足に絡みつき竹の破裂音を廊下に響かせている。

     「そう何度も殴られていい顔じゃねーよッ!そらっ!」
     「…ッ!!」

 恭介は謙吾の竹刀を食らいながらも、手にモップを生み出すと大きく振り回して謙吾に叩きつける!

 ――ガッ!

 竹刀でそれを受け止める謙吾。
 流れるような動作で間髪いれず反撃に出ようと竹刀をくるりと回転させて目の前の敵に向けて突く…!

     「!」

 だが、そこに恭介はいない!
 そこだけじゃない――どこにも恭介が見当たらない…!?

     「――ここさ。」

 ――シュッ ビシッ!

     「――ッ!?」

 突如足元に涌いて出たように姿を現した恭介。 
 風を切るような音と供に繰り出された足払いを避けることもできず、背中から床にもんどりうつ。
 だが、謙吾もただ倒れるのをよしとせず、その不安定な姿勢からも容赦の無い竹刀の一撃を恭介の
 背中に打ち込もうとする…!

 ――バシュッ

     「避けた……っ!? 恭介…ッ!!」
     「派手に行こうぜ…!」

 飛び上がる恭介を謙吾は睨みつけながら後方へと飛び退く。
 スローモーションのように二人の距離が離れていく中、恭介が新たな武器を生み出す!
 決して人に向けてはいけない――いや、向けるべきではない大きさの打ち上げ花火に点火する。
 バカな…! 多少距離を開けたとはいえこの距離で花火を打ち下ろすなど正気の沙汰じゃない――


     「おおぉぉぉぉぉっ!! 古式…俺に力を貸してくれ…!」


 両手を広げ目を閉じる謙吾。
 その背後に現れたのは透き通るような眼帯の少女の影――
 謙吾を背中から抱きしめるようにして光の粒になって消えていく…
 そして謙吾の手に残されたのは一張の和弓――

 恭介の打ち上げ花火の発射口が下方の謙吾にセットされる。
 対する謙吾は弓を上方にいる恭介へと構えて竹刀をつがえキリキリと限界まで引き絞る…!

 二人の視線が交わると同時に打ち上げ花火は火を噴き、謙吾は指から竹刀を解き放つ…!

     「とっとといけーーーッ!!」
     「茶番だぁぁぁぁ!!」

 ――ドゴォォォン!!

 ――衝突する竹刀と火薬球。そして耳を劈(つんざ)くような爆音。
 黒煙と崩れた壁の土煙にあたり一面覆われ二人がどこに立っているかも分からない。
 やがて煙が晴れてくると、そこにはいつもどおり不敵な笑みを浮かべて立っている恭介、
 そして肩で息をしながら突きたてた竹刀に身体を預ける謙吾。
 どちらのダメージが大きいかは火を見るより明らかだった。

     「さすがだな――だが…コールドゲームだ。」
     「!」

 恭介の右手が天井にかかげられる。
 ――刹那廊下の照明を遮るように出現したのは無数のハンコ…!?

 ちょっと待って…。
 ハンコは最高でも最大攻撃回数は二桁はいかない代物のはず。
 なのにこの天井を覆わんばかりの斎藤さんのハンコはいったい――


     「理樹。武器には使い込むほど攻撃回数の上限が上がっていくものもある。」
     「――え?」


 ポケットに手を突っ込み謙吾に背を向けて話し始める恭介。
 膝をついていた謙吾は再び立ち上がると恭介に向かって突撃してくる…!

     「おおおおおぉぉぉぉー!!」
     「たとえば武器の数が増える事によって攻撃回数が増えるもの――」

 パチンと指を鳴らす恭介。
 その合図と同時に無数の斎藤さんのハンコが謙吾へと真っ直ぐ飛んでいく!
 顔に身体に斎藤の印をつけられながらも謙吾はそれらハンコを目にも止まらぬ速さでなぎ払い打ち落としていく。

     「負けて…たまるかああぁぁー!!」
     「次に武器自体の性能が上昇するもの――」

 恭介はスーパーボールを横の壁に叩きつける。
 それは跳ね返り謙吾の身体を吹き飛ばし、背後の壁に跳ね返ると逆方向から謙吾の身体にめり込む。
 ヘタな操り人形のごとく空中で踊らされ、不自然な姿勢でゴム球1個に蹂躙されつづける。

     「ぐああっ!!」
     「そして、武器そのものが意思を持つもの――」

 どこからともなく取り出したパッケージの封を開けて、ものの3秒でステゴサウルスの模型を組み立てる。
 恭介が模型を手放すとステゴサウルスは徐々に大きくなり2m程にまで成長した。
 するとその不気味な恐竜の骨組みは唸り声を上げて謙吾へと四肢を駆り突撃していく…!

 謙吾はヨロヨロと立ち上がり、竹刀を構えるとステゴサウルスの模型に竹刀をぶつけまくる!
 三度、四度と竹刀を叩きつけるごとに骨のパーツが弾け飛び、やがて足を刈られ支点を失い瓦礫と化した。

     「恭介ぇぇぇぇッ!!」
     「最後に――武器から学び、使い手自身が成長する事で不可能は無くなる。」

 恭介の背後には必死の形相で竹刀を両手に疾走してくる謙吾の姿――!
 ふっと恭介が首を下にさげたと思った瞬間、まるで瞬間移動するように謙吾の間合いの内に入った。

 ――ドスッ

 謙吾の竹刀が恭介の顔面を捉える前に、恭介の右ヒザが謙吾の鳩尾を打ち抜いていた。
 ネジが止まったブリキ人形のように謙吾は崩れ落ちていく。

     「…恭…介……おまえだって…本当は……」
     「だから、おまえはずっとガキのままなんだよ…」

 ――バタン

 床に突っ伏したまま動かなくなった謙吾を一瞥する恭介。
 そんな様子を見て、僕はただ何もできずにそこにいる事しかできないでいた。

 何があって、何が起こって、なぜ二人が戦い始めたのかも分からない。
 僕の知らないところで何かが勝手に決められて、時限を迎えようとしている。

     「恭介、何が…起こったの?」

 振り絞るように声を出す。
 いろんな想いがない交ぜになりながら出せた言葉はそれだけだった。
 そんな僕に恭介は振り返って口を開く。



     「理樹――おまえは強く生きろ。」









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