汝は犯人なるや −問題編−
 





     「鈴ちゃ〜ん、このシュークリームはイチゴのヨーグルトソースが売りなんだよ〜」
     「…む。これはおいしい。」
     「でもマーマレードジャムを織り込んだ方もとってもいい風味なんだよ〜?」
     「…! この甘酸っぱさは…!」

 小毬ちゃんと食堂で晩御飯を食べた後のお茶会――
 あたしの部屋は甘いものが一面に敷き詰められてまるでお菓子の家になってしまった。
 いつもより少し早いお茶会とあって、小毬ちゃんと二人だけでシュークリームを頬張っているところだった。
 夕食後30分経ったか経たないかの時間なのに、そこは甘いものは別腹なのだ。
 それにあと1時間もすればこの部屋にクドやみおもやってくるだろう。

     「あはは〜鈴ちゃんのほっぺにヨーグルトソース〜」
     「うにゃっ!?」
     「ふっふっふ〜。クーちゃんとみおちゃんが来たらワッフルも食べようね〜。
      このワッフルはね、フランス産ひまわり蜂蜜を生地に練りこんだ――あれ?」
     「?」

 人差し指を立てて説明を始めた小毬ちゃんは、急にキョロキョロと周りを手探りで探し始めた。

     「あれれ…? おかしいなぁ。どこかに忘れてきたのかな?」
     「どうした?」
     「お昼に買ったワッフル、鈴ちゃんのお部屋に来る時に確かに持ってきたと思ったのに…」
     「ワッフルなら食堂の晩御飯についてきたぞ。」

 うちの食堂ではデザートにゼリーやプリン、カステラなどの甘味がついてくる事があった。
 色んなものが出たけど、だいたい味は特別美味しくもなく不味くもなく…普通という感じだ。
 そして今日の晩御飯についてきたワッフルも実に普通な味だった。

     「ううん、似てるけど私が買ったのはも〜っと味わ〜い深〜い逸品なんだよ〜。」

 腕を目いっぱい広げて説明する小毬ちゃん。
 よほどおいしいワッフルなのだろう。確か晩御飯の時にもお菓子の箱みたいなものを見た気が…

     「そういえば小毬ちゃん、晩御飯の時に持っていた白い箱は?」
     「あ!それだよ!…ということは食堂に忘れてきたんだ。探しに行かないと――」

 どうやらビンゴだったみたいだ。
 部屋を出る小毬ちゃんに連れ立って、私も食堂についていく事にした。


          :
          :



     「………………………( ̄△ ̄)」
     「…………」


 晩御飯の時間も過ぎて人もまばらな食堂――
 小毬ちゃんはテーブルの上に残されたカラの白い箱を見て燃え尽きていた。
 ワッフルの箱はちゃんと残されていたが、肝心の中身のワッフルはドコにも見当たらない。

     「ワッフル…私のワッフル……部屋とワッフルと私〜」
     「わぁっ!? 落ち着け、小毬ちゃん…!」

 カラの白い箱を両手で天井に掲げて右へ左へフラフラと歩き出す小毬ちゃんを全力で捕まえる。

     「うぅ…鈴ちゃ〜んっ! 私のワッフルが…ワッフルの私が…!」
     「大丈夫だっ! ワッフルは決して小毬ちゃんを置いてどこかにいったりしない!」

 肩を激しくゆすって小毬ちゃんを正気に戻す。
 そうだ。箱をそのままにしておけば、そのうちワッフルは歩いて帰ってくる――はずがない…!
 つまり、誰かがワッフルを食べてしまったのだ。

     「消えたワッフル――これは…犯罪のにおいがする。」
     「えぇ〜〜〜!?」
     「小毬ちゃん、落ち着いて聞いて欲しい。ワッフルは勝手に箱を歩いて出ていったりはしない。」
     「…うん。ワッフルは1個ずつ包装されてるからビニールの中で手足が生えても動けないもんね。」
     「だから犯人がいる。嫌がるワッフルを1つずつ噛み潰して飲み込んでしまったヤツが――」
     「ひぃ…っ(ガクガクブルブル)」

 泣き出しそうな小毬ちゃんを眺めながら犯人が誰かを考える。
 食堂でワッフルが出たのに、さらに小毬ちゃんのワッフルに手をつけそうなヤツといえば――

 瞬時に食堂を見渡す。
 まだ犯人は遠くにはいないはず…! いかにもワッフルを食べてしまいそうなヤツを見つければ――

     「ふ〜腹減ったな。やっぱり筋肉ってヤツは消費カロリーがハンパじゃないからよ――」

     「おまえが犯人かーっ!!」

――ドゲシ!!

     「ンぎゃあ!?」

 あたしの華麗な飛び蹴りが筋肉バカの頭にクリーンヒットする音が食堂に響き渡った。













汝は犯人なるや
−問題編−







     「…というワケだ。ワッフルを食べてしまった犯人を探したい。」
     「ふむ。そんな事なら聞いて廻ればすぐに分かるだろう。」
     「俺が蹴られた意味は何だったんだ…」

 リトルバスターズ全員食堂に集合。
 文庫本を片手に持った恭介、剣道着の謙吾、頭をさすっている真人、ぼーっとしている理樹、腕を組んでいる来ヶ谷、
 なぜか息を切らした葉留佳、何事かとオロオロとしているクド、いつもどおりのみお――
 あたしがメールを送信して5分とかからず食堂にはいつもの顔ぶれが揃っていた。

 あたしの説明が一段落したところで、理樹が静かに口を開く。

     「それで鈴、そのワッフルの特徴ってどんな感じかな?」
     「そいや、夕食にもワッフル出てきたネ?」
     「いや、今日の晩御飯に出てきたのとは少し違う包装をしてる。特徴は、えーと――」
     「子供のイラストが入ったビニールの包装で、ブルーベリーとメープルと宇治抹茶味の3種類が2つずつあるの。」

 あたしの言葉に続けて小毬ちゃんがワッフルの特徴をみんなに説明する。

     「その合計6つのワッフルがこの白い箱に入っていたはずだ。」

     「………」
     「………(汗)」
     「………うぅ…」

 そこで言葉を切って周りを見渡す。
 少しでも手がかりがあれば、なんとか犯人を突き止める事ができるだろう。
 が、誰も喋ろうとはしなかった。


     「――聞いたわ。その白い箱に入っていたワッフルを食べた犯人なら知ってるわよ。」


 ――!

 そんな静寂の中、凛とした声が響いた。
 みんな一瞬にして声の主――二木佳奈多へと視線を送った。

     「うひゃぁ!? おおお姉ちゃん!」
     「まったく…葉留佳ったら急にどこに行くのかと思ったら――」
     「やはは。急ぎの召集だったのですヨ…。」
     「まぁ、いいわよ。ちゃんと後で掃除手伝ってもらうんだから。」

 葉留佳の襟首を掴んで逃げられないようにする佳奈多。
 すぐさま、あたしは佳奈多のさっきの言葉の意味を問いただす。

     「か、佳奈多! それは本当か!?」
     「ええ、ちょうど3人でその白い箱のワッフルを食べている現場を目撃したのだから。」
     「うぅ…やっぱり私のワッフルは食べられていたぁ〜」

 へなへな〜となる小毬ちゃん。その横であたしは衝撃を受けていた。
 犯人は複数で3人でワッフルを食べていたのだ…!

     「教えてくれっ! 今からそいつらを探し出してくちゃくちゃにしに行く!」
     「くちゃくちゃ…はともかく、探し出す必要なんてないわ――その犯人は今、3人ともこの場にいるのだから。」
     「何ィ!?」

     「……ッ!」
     「〜〜〜っ!!」
     「………(汗)」

 それはつまり…ここにいるリトルバスターズの中の3人が犯人ということか!?
 だとしたら、恭介、真人、謙吾のバカ3人か…!?

     「で、その犯人なんだけど男子と女子、合わせて3名。名前は――」

     「そのカミングアウト、ちょーと待ったぁ!!」
     「きゃっ!?――むぐぐ…」

 いきなり恭介は佳奈多に背後から近づいて手でその口を覆ってしまった!

     「悪いがそいつはミッションにさせてもらう。」
     「えーーっ!?」
     「出たよ、恭介の唐突なミッション。」
     「意味が分からんぞ、きょーすけ!」

 目をまん丸にする小毬ちゃんとまたか、というような表情の理樹。その横であたしも噛み付く。
 しかし、そんな周りの空気はお構いなしに恭介は言葉を続ける。

     「二木は今、この中にワッフルを食べた犯人が3人いると言った。だな?」
     「むーっ!む〜〜っ!(怒)」
     「そこで俺たちはその3人の犯人を探し出すゲームをしようと思う。」
     「ふむ。その犯人を当てた人が勝ちというワケか、恭介氏。」

     「いや、来ヶ谷の言う方法でもいいが少しルールを変えてみよう。そうだな…
      匿名の投票によって犯人と思ったヤツの名前をメールで二木に送るんだ。それで投票数が
      一番多かったヤツが順次脱落していく。そうやって最後まで残ったのが犯人の1人だったら、
      犯人たち3人の勝ち。無実のヤツが残っていたら他の無実のヤツ7人の勝ちだ。」
     「むぐーっ!(怒)」

     「なるほど。犯人グループ無実グループが投票によってお互いを排除しあうのだな?」
     「ああ、犯人グループの3人はお互いを知っており他の無実グループの人間7人を投票で排除する。
      一方、無実グループの7人は誰が犯人か分からないので推理して犯人と思しき人間を投票で弾いていく。
      10人で話し合って情報を出し合ったあと、誰が犯人か1人を投票するんだ。」
     「犯人グループは自分達が犯人でないように話を運んでいったりするわけか。」
     「そのとおり。それから犯人かどうかは二木が知っているワケだが、脱落者が本当に犯人だったかは隠しておく。
      飽くまで最後に残った人間が犯人か無実か、または途中で犯人全員が脱落させられたかを知らせるだけだ。」
     「んむぐぐーっ!(激怒)」
     「早ければ3回の投票で、犯人3人を始末する事も可能か。面白そうだ。それならもう少しルールをつめて――」

 そうして恭介と来ヶ谷によって犯人探しゲームのルールがつくられていった――


          :
          :




 「さて…ルールはこんなところかしら。あら棗先輩、どうしたのかしらね。」
 「ふ…二木…男の急所を蹴るのはどうかと思うぞ…。」



 【ルール】
 ・10分間全員で話し合う時間が与えられて、脱落させたい人の名前をメールで二木に送る。
 ・二木はそのメールの集計結果を全員に伝え、票数が一番多い人が脱落する。だが脱落したのが犯人かどうかは隠しておく。
 ・得票数が同じ場合はジャンケンによって脱落者を決める。
 ・最後に残ったのが犯人だったら犯人グループの勝ち、無実の人が残っていたら無実グループの勝ち。
 ・負けたグループは小毬にワッフルを買ってくる事。



     「どっちのチームが勝っても負けても、とりあえず小毬さんにはワッフルが帰ってくるのです。」
     「だが犯人グループが負けても食べた分を払うだけで済むが、無実のグループが負けるとまる損だな。」
     「ですが、犯人グループは3人で無実グループは7人なので、数的には無実グループの方が有利です。」

 あたしの横でクドと謙吾、それにみおがルールのまとめられたルーズリーフを見つめながら唸っていた。

     「けどよー。無実グループが負けたら小毬もワッフル代負担するのかよ?」
     「そうだな…。だがな真人、ひょっとしたら小毬が犯人かもしれないんだぜ?」
     「ええぇーっ!!?」
     「あるか、ボケェーッ!!」

 ハイキックを恭介の横っ面に叩き込もうとするが、あっさりと避けられてしまう。

     「落ち着いて考えてみろ、鈴。もしかしたら小毬がボケて『ワッフルだ〜☆』とか言いながら、晩飯の最中に
      無意識に白いご飯にのせて食ってしまった可能性だってある。」
     「そんなワケ――」
     「小毬をよく見てみろ。甘いお菓子があれば白いご飯3杯はイケそうな顔してるだろ?」
     「う…確かに。」
     「うわぁぁぁん! 鈴ちゃんが何だか疑いの眼差しで私の顔みてるし…っ!?」
     「それにどっちが勝っても犯人グループにはみんなで食うお菓子でも買って来てもらって調整するさ。」
     「ん…そういうことなら別にいいか。」

 とりあえずあたしは納得して振り上げようとしていた脚を下ろす。

     「棗先輩、ちょっといいかしら?」
     「ん? どうした二木?」
     「これは一応言っておいた方がいいと思うのだけど、実は私以外にも犯行現場を見た人がもうひとりいるの。」
     「それは…この10人の中でって事か?」
     「ええ、そうよ。ワッフルを食べた犯人が誰か知っている――さしあたって目撃者といったところかしら。」
     「わふーっ! いっつ・いず・うぃっとねす?」
     「そいつは面白い。ここにいる10人のうち、犯人が3人で無実の人が7人、そして無実の人の中に1人だけ誰が犯人かを
      知っている目撃者がいるって事か。」
     「そうね。それから犯人である3人は目撃者が誰かを知っているの。あ、それからワッフルを食べた3人、悪気があった訳じゃない
      ってことだけはこの場で言っておくわ。」

 佳奈多が言わなくてもここにいる全員、そんな事は分かっていたのだろうが言葉にしてくれた分あたしはどこか安心していた。
 小毬ちゃんをみると、ワッフルがなくなったことよりもすでにゲームを楽しむ事にわくわくしていそうだったので、あたしも
 そのまま恭介の提案したゲームを続けようと思った。


          :
          :



 【第1回会議】

     「それではまず、この10人の中からひとり、犯人と思われるヤツが誰か話し合おうと思う。
      だが、この話し合いでみんなの結論を決める必要はないし、みんなの結論が決まったとしても従う必要はない。」
     「要は自由ということですね。ですが、それぞれのグループの生き残りを考えた方がいいと…。」

 恭介の言葉にみおが相槌をうつ。
 さて、ゲームは始まった。果たして3人の犯人は誰なのだろうか…? そして目撃者は誰なのか。

 ――ちょっとだけ、あたしは状況を整理してみようと思う。
 まずあたし――棗鈴は無実だ。これは間違いない、うん!
 そして、晩御飯の時からずっと行動をいっしょにしていた小毬ちゃんも犯人ではない。
 晩御飯の時に白い箱は見ていたし、小毬ちゃんは晩御飯のワッフルをあたしの部屋に持って帰って食べていたのだ。
 そもそもワッフルを口にしていなかったし、口にする機会もなかった――だから小毬ちゃんも無実の人なのだ。
 そしてあたしも小毬ちゃんも誰が犯人か知らない。これはつまりふたりとも "目撃者" ではないのだ。

 だから残りは無実の人が4人、目撃者が1人、犯人が3人いる事になる。
 恭介、理樹、謙吾、真人、葉留佳、クド、来ヶ谷、みお――いったい、誰が犯人なのだろうか?

 沈黙がしばらく場を支配した後、クドがおずおずと口を開く。

     「えーと、多分みなさん考えている事だと思うのデスガ…目撃者の人は誰ですか?」
     「!」
     「…っ!」

 ――! いきなりクドが本題に切り込んできた!
 そうなのだ。目撃者が誰か判明すれば、目撃者の口から出てくる3人が犯人ということで確定。
 あとは順番に投票で吊るし上げていけば無実グループの勝ちになる。
 目撃者は無実グループなのだから、犯人が誰かカミングアウトした方がいいのだ。
 だけど――

     「実は俺が目撃者だったりする。」
     「信じてもらえるか分からんが…俺が目撃者だ。」
     「はいはいはーい! はるちんが目撃者デースっ!」

 …やっぱり目撃者が複数現れたのだ。
 自分が目撃者だと名乗り出たのは、順番に恭介、謙吾、葉留佳の3人。

     「ちょっと待て謙吾、三枝。なんでおまえらが目撃者って名乗り出てるんだ?」
     「それはこっちのセリフだ。おまえたちこそ嘘をつくな。」
     「うわ…っ、このガイズ二人とも嘘ついてるのですヨ…」

 来ヶ谷も小毬ちゃんもなんだかその光景に呆れているのか感心しているのか微妙な表情だった。
 無実グループに属する目撃者は絶対に名乗り出た方が有利なのだから、この3人の中の1人は必ず本物。

     「恭介さんの言う事はホントだぞ?」
     「なんだかんだで一番胡散臭いのがおまえだぞ、恭介。」
     「やはー。どっちかっていうと二人とも胡散臭いし。」
     「こら、一番最後に名乗り出た三枝が何いってんだ。」
     「というよりも、恭介。真っ先にこのゲームの提案をしたおまえが一番怪しいだろうが…。」
     「ってか、私以外に2人も目撃者だっていうから、はるちん、ちょっとビックリだったし。」

 み、醜い…。3人が3人、目撃者は自分だと言い張っている…。
 そんな様子を他の7人は見守りながら腕を組んでは、うーんと唸っているようだ。

     「でも恭介がミッションを提案するのはいつもの事だし…どう思う、真人?」
     「確かに理樹の言う通りだが、俺は個人的に謙吾のヤローが目撃者ってのはありえねーと思うぜ?」
     「こら、真人。勝手な事を言うな。それじゃまるで俺が嘘をついている犯人みたいだろうが。」
     「…ですが、考えてみると夕食後すぐにワッフルを食べたと言う事は、よほどおなかがすいていたのでしょうね。」
     「…!」

 みおのその一言で全員の視線がある人物に集中した。
 …確かに目撃者とかそんなモノ抜きにしてくちゃくちゃあやしい。

     「筋肉…(ボソ」

     「…って、俺かよ!? 俺が悪いのかよっ!? 全部、この無駄に鍛えまくった燃費のすこぶる悪い
      分厚い筋肉のせいで腹が減ったとでも言いたげだなぁ!オイ!」
     「うわ…っ、めずらしく真人の言いがかりが的を射ているよ。」
     「筋肉、きしょいわ!」
     「おまえら筋肉嫌いなのか!? おまえらにも筋肉あるだろうがっ!?」
     「わふーっ!? 筋肉さんがしょげまくりなのですっ」
     「ほら真人、落ち込まないで。ホントはみんな、真人が犯人だなんて思ってないからさ。」
     「うぅ…理樹…おまえはだけはやっぱり筋肉の味方だと思ってたぜ…」

 泣いている真人を理樹が慰めていると、腕時計を見ていた佳奈多が顔を上げて口を開く。

     「――もうそろそろ10分経つわ。話し合いはそこまで。みんな私に投票のメールをちょうだい。
      犯人だと思う人の名前をひとりだけ書くこと。いいわね?」

 あたしもみんなも佳奈多の言葉に頷いてそれぞれメールを打ち始めた。
 この時あたしは、そういえばメールだったら犯人同士でも秘密裏に連絡取り合えるんだろうなぁと
 考えたりもした。


          :
          :


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 【第1回投票結果】

    井ノ原真人  9票
    宮沢謙吾   1票
------------------------------------------



     「ノォォォォォォォォォォ!!?」

     「――ということで井ノ原真人が吊るし上げられました。」
     「バカだな。」
     「うむ。バカだ。」
     「楽しいかぁ!! おまえら筋肉いじめて楽しいかぁ!! つーか理樹が一番信用できねーっ!?」
     「あはは、いやだって真人だし…ね? クド。」
     「わふーっ!?(>ω<)」

 集計結果を見る限り、とりあえず全会一致(真人除く)で、真人は吊るし上げられたようだ。
 さて、これで残りは9人。



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  【生存者】
    直枝理樹
    棗恭介
    宮沢謙吾
    棗鈴
    神北小毬
    三枝葉留佳
    来ヶ谷唯湖
    西園美魚
    能美クドリャフカ

  【処刑者】
    井ノ原真人
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 【第2回会議】

     「では2回目の話し合いを始めようか。佳奈多君、計時を頼んだ。」
     「分かったわ。」

 来ヶ谷の合図で再び話し合いが始まった。
 今度は真人を除いた9人で誰が犯人かを推理していく事になる。

     「ところで一番大事な事を先ほど聞きそびれてしまったのですが――」
     「ん? なんだ、西園?」
     「恭介さん、宮沢さん、三枝さん――この目撃者を名乗る3人にお伺いしたいのです。その犯人は誰なのですか?」

 ――恭介、謙吾、はるかの3人に緊張が走った(ように見える)。

 これから3人がそれぞれ犯人の名前を口にするだろう。
 1人は本物の目撃者なのだから、必ずその中に正しい犯人が含まれているのだ。
 しかしだからといって、あとの2人が嘘を言っているとは限らない。

     「んじゃ、私から言うネ。私が見た犯人はズバリ…恭介くん、謙吾くん! あとひとりは知らないっ!(><)」
     「俺なのかっ!?」 「俺なのかっ!?」

 恭介と謙吾の声が重なり、その二人にも視線が集まる。
 もっとも恭介も謙吾も本当に驚いているのか、驚いているふりをしているのか分からない。

     「言われてみれば、恭介が犯人でも、ああやっぱりって感じだもんね。」
     「ちょっと待て、理樹。なんで俺が犯人だとそんなに自然なんだよっ」
     「それに宮沢さんがワッフルを食べたとすれば絶対に宇治抹茶味に違いありませんね。」
     「西園からすると、俺がメープルやブルーベリーを選ぶのはありえんのか…」

     「まぁ、騒ぐな。では次に恭介氏、犯人は誰だ?」

 来ヶ谷の一声で話し声が収まる。そして一呼吸ついた恭介が喋り出す。

     「ふぅ…言うぜ。俺が見た犯人は理樹と能美だ。俺もあとひとりは見ていない。」
     「ええぇぇーっ!?」 「わふーっ!? あいむ、はんにん!?(>ω<)」

 これはまた意外だった。
 というよりも、一番意外そうな顔で驚いているのは理樹とクドだったりするけど…。

     「では最後に謙吾少年。」
     「むむむ…。俺が見た犯人は西園だけだ。」
     「キシャーーーッ!!」 「んごおおぉぉぉ!!?」

     「うわあぁぁ!? 西園さんがエラい事に!?」
     「ひ、ひぃぃぃィィィ!!?」
     「あわわわわ…」

 この後、しばらく暴走するみおに小毬ちゃんとあたしは肩を抱き合って震えていた。


          :
          :


 ――5分後。

     「これで目撃者を名乗る3人の情報が出揃いましたね。…みなさん、その私との距離は何ですか?」

 みおの対面に他のメンバーが寄り添うように固まっていた。

     「目撃者さんは無実グループに属するから犯人が誰かカミングアウトした方が有利だよね。
      だから私はぜったいにこの3人の中に本当の目撃者さんがいると思うよ〜」
     「そうだな。これで本物の目撃者がカミングアウトしてなかったら、くちゃくちゃ性格悪いぞ。」

 あたしと小毬ちゃんの言葉にみんな頷く。
 無実グループの人が目撃者を騙る利益は全くないのだ。全員ゲームを勝ちにきてるのなら、そんな事は
 メンバーの誰も絶対にしないだろう。


     「もうすぐ話し合いの時間が終わるぞ。恭介氏、謙吾少年、葉留佳君、言い残したい事があれば
      ここで言っておくんだな。1人が本物の目撃者だとしても残る二人は偽物だろう。
      真っ先に槍玉に上がって、運が悪ければあそこで膝を抱えている筋肉の仲間入りだ。」

 10人のうち3人が犯人で目の前の3人のうち犯人が2人いる。
 なら、とりあえず目撃者を名乗る3人を投票で排除すれば、3人いた犯人を2人に減らす事ができるのでは
 ないだろうか。

     「よし、最後に言わせてくれ――謙吾は1つだけ嘘をついている。」
     「俺も言わせて貰おう――恭介は存在自体が嘘だ。」
     「ふふん。この世界には秘密があるのですヨ。」
     「君らには生き残る気があるのか…」

 呆れたような来ヶ谷を尻目にあたしはメールで小毬ちゃんと相談していた。
 この中で無実だと信用できるのは唯一、小毬ちゃんだけなのだ。


     "どうする?あたしははるかが怪しいと思う。ノリと勢いで目撃者だと言い出したに違いない。"
     "私もはるちゃんか恭介君だと思ってたから、二人ではるちゃん投票しようよ(^^)"
     "分かった。"

 こうしてあたしと小毬ちゃんは、はるかに投票する事になった。

     「――時間よ。投票してちょうだい。」

 佳奈多の宣言と同時にあたしは小毬ちゃんへメールを送信し終えた。
 見れば隣でクドが "恭介さんが犯人なのです! 一緒に恭介さんに投票です!" とメールを打っているところだった。
 あて先のメールアドレスは――なるほど、理樹か。

 恭介に犯人扱いされた二人は恭介が犯人と判断したという事だろうか。

     「ふふん。次は誰が吊るし上げですかナ♪」
     「諸君、安心したまえ。私は決してかわいい女の子から排除したりはしないぞ。」
     「かわいい女の子が犯人だったらどうするのですか…」
     「自分の名前を書く。」

 みおの突っ込みに堂々と来ヶ谷が答える。
 間違いない…来ヶ谷は絶対に男の名前を書くのだ…。

 次々に佳奈多の携帯にメールが届いているのか、可愛らしい着信音が鳴りつづけている。

     「…あと1人――ん、今届いたわ。流石に自分に投票している馬鹿はいないようね。
      ところで葉留佳。"みおちんと同じ人に投票します" と書かれてるのだけどこれは本当にそのままでいいのね?
       棗先輩、ルール上はアリでいいのかしら?」
     「いいだろう。委任形式のものも認めよう。ただし相互に委任し合っている場合は無効票にする。」

 なるほど…!
 確かにそう書けばメンバー間で簡単に意思統一を図る事ができる。
 だけど恭介の言うように、例えばあたしが「小毬ちゃんと同じ人に投票」と書いて、小毬ちゃんも「鈴ちゃんと同じ人に投票」
 と書いてしまうと、その票は無効になってしまう。
 でも、わざわざそんな危険を冒すよりは、メールをやり取りし合って誰を排除するか相談した方がいい。

 かくして佳奈多によって投票結果が発表されようとしていた。


          :
          :


------------------------------------------
 【第2回投票結果】

    棗恭介    2票
    宮沢謙吾   2票
    三枝葉留佳  2票
    神北小毬   3票
------------------------------------------



     「わ、わ、私!?」

 目をまん丸にして口に手を当てている小毬ちゃん。
 みんなもその意外な結果にざわついている。

     「――神北小毬が吊るし上げられました。」
     「そ…そんなバカなっ! なんで小毬ちゃんが…!!」


 その投票結果にあたしは愕然としていた。
 目撃者を名乗る3人ではなく、ワッフルを失った被害者のはずの小毬ちゃんが排除されるなんて…!
 あたしは振り返り、みんなの顔を見回していく。

     「………」

 しかし、なぜ小毬ちゃんに3票も入っているのだろう。偶然なのか――

     (――いや、違う!)

 小毬ちゃんの票数は3票。そして他の票はすべて目撃者を名乗る人間への票…!
 これはきっと犯人グループが結託して小毬ちゃんを陥れたのだ。

 ――なんて事だ。
 このままでは犯人グループは確実に無実の人間をどんどん排除していくに違いない。
 だけどあたしには犯人が誰なのかわからないし、無実の他の人もそうに違いないのだ。

 恭介、謙吾、理樹、はるか、来ヶ谷、みお、クド――
 この中に3人の犯人グループが確実に残っているのだ。





 【次の話へ】


 追記

 短編の推理モノです。ネタ的に笑えないものですみません。m(_ _)m
 現時点で犯人3人を特定できるように構成しています。
 色が変わっている部分だけで1つの正解に辿り着けるのでヒマな方は考えてみてください。
 某ゲームに倣って正答率を予想すると…20%ぐらい? …適当でスミマセン。

 海鳴り



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