汝は犯人なるや −解答編−
 





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  【生存者】
    直枝理樹
    宮沢謙吾
    棗鈴
    来ヶ谷唯湖
    能美クドリャフカ

  【処刑者】
    井ノ原真人
    神北小毬
    棗恭介
    三枝葉留佳
    西園美魚
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     「爺さんの名にかけて真実は多分ひとつ!」

 ――びしっ

     「鈴、なんだその歯切れの悪い決め台詞は…」
     「うっさいわ、ボケー。これからがいいところなんじゃ!」
     「え?何?真犯人は別にいたー!て続くの?」

 あたしはギロリと理樹を睨む。だがここはクールに行きたかったのでコホンとひとつ咳払いした。

     「謙吾、理樹、クド、来ヶ谷――落ち着いて聞いてくれ。犯人はまだ全員排除できてない。
                                        ――まだこの中に犯人が紛れ込んでいる!」

     「え? でもこれで無実グループの勝ちなんじゃないの?」
     「そうなのです。恭介さん、西園さん、葉留佳さんの3人で決まりではないのですか?」
     「理樹、クド。恭介は最初にルール説明でこう言った――佳奈多の役割は、"飽くまで最後に残った人間が犯人か無実か、
      または途中で犯人全員が脱落させられたかを知らせるだけだ"
――そうだな、佳奈多!」
     「ふふ…そのとおりよ、棗さん。まだゲームが終わってない以上、私はどちらかのチームの勝利も宣言できないわ。」
     「――!!」
     「分かったか?まだ犯人が生き残っているからゲームは続行された。」

 くっくっく、と恭介が声を殺して笑っていた。
 本当にあたしが気付いているのか、まだ疑わしいといったところか――
 だからまずあたしはひとつめの事実を宣言してやるのだ。



     「本当の目撃者はおまえだ…!」








汝は犯人なるや
−解答編−







 【第6回会議】



     「――え、俺?」


 一斉にみんなの視線が真人に集まった。

     「よせよ、俺の筋肉が照れちまう。おかげで大胸筋がピクピク震えてるぜ。」
     「邪魔じゃ、ボケーっ! その後ろだッ!!」
     「真人の後ろって――葉留佳さん? え、葉留佳さんが目撃者だって言うの?」
     「わふっ!?」
     「今さら何を言っている、鈴。」

 謙吾を無視して、うろたえる理樹とクドにあたしは深く頷く。
 目撃者は謙吾ではない――はるかなのだ。

     「……………ふふ…っ。ついに真実を知ってしまいましたネ。」
     「……!」

 あたしの言葉にはるかは満足そうに笑みを浮かべながらズイっと前に一歩踏み出した。
 この目撃者は全てを知っていた――そう言わんばかりの様子にみんなの視線が釘付けになった。

     「ついにこの私が主役なのですヨ。ナイス鈴ちゃん!」
     「いや、どちらかというとはるかは脇役だ。しかも死後に評価されるタイプだな。」
     「それ、吊るし上げたの鈴ちゃんだしーっ!!」
     「まぁ悪かった。だがおかげで私は気付いた。いや、別にはるかが吊るし上げられなくても気付く事はできたな。」
     「けっきょく扱い悪すぎっ!(><)」

     「あの鈴さん。それでは…宮沢さんは本当の目撃者ではなかったという事なのですか?」
     「そうだクド。残念ながらはるかが本当の目撃者だから、少しだけややこしい事になった。
      …あ、はるかはもういいぞ。出番は終わったからあとは後ろの方で引っ込んでいてくれ。」
     「ムキーーっ!(><)」

 みんなは興味を失ったかのように、はるかから目を逸らしていく。

     「すでにみんなも分かっているとおり、謙吾が目撃者であれば犯人は恭介、はるか、みおの3人だ。
      だが3人とも排除されているのにゲームは現にこうして続いている。まだ犯人が生き残っている事は確かだ。」
     「うん、そうだね。犯人が全員排除された時点で二木さんが終了を宣言するはずだからね。」
     「たしかに、それでしたら宮沢さんの証言は嘘という事になるのです。なら、宮沢さんはいったい――」

     「ふふふ…ははは………はーっはっはっはーっ!!」

 あたしたちの様子を静観していた謙吾が突如笑い出した。

     「恭介! これはおまえの失策だったな! なぜ無条件に最後の1人まで投票を続けるルールにしなかった?
      ――いや、これは違うのだな。詰めを誤ったのではない。わざとだ!おまえというヤツは本当に…!」

 途中で言葉を切って再び低い声で笑いを噛み殺す謙吾。
 もし恭介が最後の1人まで投票を続けるルールにしていれば、この中に犯人がいると言ってもあたしの言葉に説得力は
 備わらなかっただろう。ゲームが終了するはずがしないからこそ、あたしの言葉は信用されるに至ったのだ。

     「え、えーっ!? それじゃ謙吾が犯人グループのひとりなの!?」
     「無実だったら嘘をつく意味が無いので、宮沢さんは犯人のひとりという事になるのです…!(>ω<)」
     「ってゆーか、はるちん、一番おいしい部分を持っていかれたーっ!?」
     「ふふ。鈴君はちゃんと気付いたようだな。」

 来ヶ谷に拳を突き上げて見せてあたしも顔に笑みを浮かべる。
 これで半分――!

     「時間よ。それじゃ投票をお願いできるかしら。」


          :
          :


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 【第6回投票結果】

    宮沢謙吾   5票
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     「――宮沢謙吾が吊るし上げられました。…自殺票とは潔いわね。」
     「ここまでくれば俺は満足だからな。」


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  【生存者】
    直枝理樹
    棗鈴
    来ヶ谷唯湖
    能美クドリャフカ

  【処刑者】
    井ノ原真人
    神北小毬
    棗恭介
    三枝葉留佳
    西園美魚
    宮沢謙吾
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     「わふ〜っ ホントに波乱の展開なのでしたっ(>ω<)」
     「やれやれ…まさか謙吾が犯人だったなんて、気付かないよ…」

 クドと理樹が思い思いの感想を漏らして笑っている。
 謙吾は目撃者などではなく犯人のひとりだった。
 犯人は恭介、謙吾、そして――

     「だけどこれでやっと私たち無実グループの勝ちなのですっ」
     「うん、そうだね。二木さん、勝利宣言を――」


     「――続行だ。」


 ざわざわ…
                   ざわざわ…


 あたしの言葉にその場は瞬時に凍りついた。
 だが来ヶ谷と佳奈多はうつむき加減に口の端を吊り上げる。
 そして、そんなあたしたちの様子を見た理樹とクドの顔色がみるみる変わっていく。

     「クドリャフカ君、理樹君――最後の審判だ。」
     「え?」
     「――!!」

 来ヶ谷の意外な言葉に理樹もクドも弾かれるように顔を上げる。
 そして来ヶ谷が話し終えると同時に佳奈多も口を開いた。

     「7回目の会議を始めてちょうだい。時間は10分よ。」



 【第7回会議】


 あたし、来ヶ谷、理樹、クドの4人が机を囲む。

     「あの…佳奈多さんがまだゲームの終了を宣言しないという事は――」
     「恭介、謙吾以外にもうひとり。この中に最後の犯人がいるって事だよね…?」
     「そのとおりだ。だがこれで最後になるぞ、少年。」
     「なら一体誰が――」

     「あたしが説明する」

 そう言うとあたしはレシートとボールペンを取り出して3人に見える場所に置いた。


 ・はるか説:  恭介、謙吾、【  】
 ・恭介説:   理樹、クド、はるか、謙吾
 ・謙吾説:   恭介、はるか、みお

 この3人のうち1人は本当の目撃者、残り2人は犯人


     「1回目の投票で真人が排除された後、3人の目撃者が名乗り出てそれぞれ情報を提供した。
      そして本当の目撃者以外のふたりは偽物という事を考えると、犯人の組み合わせはこうなる。」

     「恭介さんの説だけ犯人が4人もいるのです…」
     「そうだ。犯人は全部で3人しかいないから、まずこの時点で恭介が嘘をついており犯人のひとり
      だと確定する。だから本当の目撃者ははるかか謙吾になる。」

 そう言ってボールペンでぐしゃぐしゃと恭介説を消す。

 ・はるか説:  恭介、謙吾、【  】
 ・謙吾説:   恭介、はるか、みお

     「目撃者がはるかなら、恭介と謙吾ともうひとり誰かが犯人。謙吾が目撃者なら恭介、はるか、みお
      が犯人。つまり、目撃者と犯人の組み合わせはこれ以外、考えられない。


 そこでもう1つのレシートを取り出して机に広げる。

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 【第2回投票結果】 ☆謙吾が目撃者だった場合

    棗恭介    2票 ← (謙吾)、(  )
    宮沢謙吾   2票 ← (  )、(  )
    三枝葉留佳  2票 ← あたし、小毬ちゃん
    神北小毬   3票 ← 【恭介】、【はるか】、【みお】

     残り: クド、理樹、来ヶ谷
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     「鈴さん、これは何ですか?」
     「これは謙吾が本当の目撃者だと仮定した場合の2回目の投票結果と誰が誰に投票したか、整理した
      ものだ。実はあたしと小毬ちゃんは最初からお互い無実だと分かっていたから協力していた。」
     「謙吾が目撃者だとしたら、犯人は恭介、葉留佳さん、西園さんだからこうなるのか。」
     「犯人3人が協力して全員で小毬君に投票したはずだからこうなるな。」
     「この時の投票で自分に票を投じた馬鹿はいないと佳奈多が言っていたから謙吾は恭介に投票した事になる。
      それから…偶然あたしはクドが理樹へメールを送るのを見てしまった。ふたりが協力して恭介に投票しよう
      という内容のメールだ。」
     「わふっ!?」
     「えーっ!?」

 ふたりとも驚いているようだ。
 ――あたしが事の真相に気付いたのは、この2回目の投票結果がどう考えても矛盾するからだ。
 しばらくして、レシートを見つめたまま首を捻っていた理樹が言葉を漏らす。

     「鈴、これおかしいよね。だって僕とクドはふたりとも恭介に投票したのだから恭介には3票入っている
      はずなのに、2票しか入ってないもの。」
     「うん、あたしも最初はそこまでは気付いた。」
     「という事は、ここから宮沢さんが目撃者ではない事が分かったのですね!」
     「いやそれは違う。…それじゃ、次ははるかが目撃者だった場合だ。」

 そう言うとあたしはもう1枚レシートを取り出す。

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 【第2回投票結果】 ☆はるかが目撃者だった場合

    棗恭介    2票 ← (  )、(  )
    宮沢謙吾   2票 ← (  )、(  )
    三枝葉留佳  2票 ← あたし、小毬ちゃん
    神北小毬   3票 ← 【恭介】、【謙吾】、【  】

     残り: クド、理樹、はるか、みお、来ヶ谷
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     「葉留佳さんの証言通り、恭介と謙吾が犯人だった場合か…。」
     「そうだ。それからこの空欄を埋めるのに条件が幾つか加わる。」

 @来ヶ谷は絶対に男子に投票する。
 Aはるかとみおは同じ人に投票している事になる。

 B理樹とクドは恭介に投票している。

     「この3つの条件で考えてくれ。」

 あたしの差し出したレシートを中心にいくつもの頭が並ぶ。
 それから1分経ったか経たないかのうちに、みんなすぐに気付いた。

     「…鈴。これもおかしいよ。僕とクドが恭介に投票していたら、葉留佳さんと西園さんは謙吾に投票している
      事になる。そしたら男子にしか投票しない来ヶ谷さんが、小毬さんに投票した事になるから矛盾する。」
     「うん、そのとおりだ理樹。」
     「え!? だって矛盾したらダメじゃないか。目撃者は謙吾か葉留佳さんなんだから辻褄が合わないよ。」

     「――そこなんだ。謙吾が目撃者でもはるかが目撃者でも2回目の投票結果は絶対に矛盾してしまう。

     「わふーっ!? 意味が分からないのですっ(>ω<)」
     「それじゃ謙吾も葉留佳さんも目撃者じゃないって事!?」
     「違う。目撃者は必ず名乗り出ているし、その目撃者もはるかで間違いない。だけど…謙吾が目撃者だった場合と
      はるかが目撃者だった場合の大きな違いがひとつだけあるんだ。」
     「鈴さん、それはいったい…」

 ひとつ大きく息をついてあたしは口を開く。

     「謙吾が目撃者だった場合、犯人は3人全員が確定するから残りの6人は全員無実なので嘘をつかない。
      だが、はるかが目撃者だった場合、犯人は2人だけ確定して残り7人のうち1人は犯人だから嘘をつく可能性がある。


 謙吾が目撃者だった場合のレシートをテーブルの真ん中に持ってくる。

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 【第2回投票結果】 ☆謙吾が目撃者だった場合

    棗恭介    2票 ← (謙吾)、(  )
    宮沢謙吾   2票 ← (  )、(  )
    三枝葉留佳  2票 ← あたし、小毬ちゃん
    神北小毬   3票 ← 【恭介】、【はるか】、【みお】

     残り: クド、理樹、来ヶ谷 ←全員無実!よって嘘をつかない。
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     「――分かるか?ここで嘘をついていいのは、恭介、はるか、みおの3人の犯人だけだ。
      残りのクド、理樹、来ヶ谷は無実という事になるから嘘をついていない事になる。
      無実の人間が嘘をついては混乱するし、ゲームを勝ちに来ているならそんな事は絶対しない。
      だけど表の空欄を埋めようとしたら、絶対にひとり無実の人間が嘘をついていなければならない。」

     「…! だから謙吾が目撃者というのはありえないわけか。」
     「そうだ。犯人3人が確定しているから、他の人間は嘘をつけなくなるんだ。」

 次にはるかが目撃者だった場合のレシートを差し出す。

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 【第2回投票結果】 ☆はるかが目撃者だった場合

    棗恭介    2票 ← (  )、(  )
    宮沢謙吾   2票 ← (  )、(  )
    三枝葉留佳  2票 ← あたし、小毬ちゃん
    神北小毬   3票 ← 【恭介】、【謙吾】、【  】

     残り: クド、理樹、はるか、みお、来ヶ谷 ←ひとりだけ嘘つき!
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 @来ヶ谷は絶対に男子に投票する。
 Aはるかとみおは同じ人に投票している事になる。

 B理樹とクドは恭介に投票している。

     「クド、理樹、はるか、みお、来ヶ谷――この中にひとりだけ犯人がいて嘘をついている可能性がある。
      というよりも、ひとりだけ嘘をついているから、表の空欄を矛盾無く埋める事ができなかった。

     「嘘をついているのが犯人…誰なのでしょう?」
     「クド、絶対に嘘をついていない人間から探すんだ――まずは、はるか。
      中立の審判である佳奈多にメールの内容を明かされているので無実の人で確定だ。みおも犯人として
      小毬ちゃんに投票しているのはありえない。はるかがみおと同じ人に投票するとしているのだから、
      みおが小毬ちゃんに投票したら、自動的にはるかも小毬ちゃんに投票している事になるからだ。

     「ふむ。これで嘘をついている可能性があるのは、私、クドリャフカ君、そして理樹くんだな。」
     「来ヶ谷は3回目の投票で恭介を犯人として吊るし上げていた点、恭介が犯人だと最初から分かっていた
      のだから、2回目でも恭介に投票したはずだ。…だけど、ここでは前提として来ヶ谷は、男子の名前しか
      書かない、という条件で考える。
それよりも、理樹、クド――」

     「ん、なに?」「わふっ?」

 あたしは核心部分を突く。

     「ふたりとも協力して恭介に投票した。そうだな?」
     「うん。そうだね。」
     「はいなのですっ」

 それを見てあたしは笑い出しそうになった。
 なるほど――これは絶対騙されるはずだ、と。



     「――嘘だ。おまえたちは協力などしていない。」




          :

 あたしにとって一番見落としやすかったのは理樹とクドのメールだった――

    "恭介さんが犯人なのです! 一緒に恭介さんに投票です!"

    "そうだね。今回も同じ人に投票しようよ。(^^)
     2回目の投票でもちゃんと同じ人を投票したみたいだし、クドは信用できるよ。"

 あたしはこのメールを見て、ふたりは協力しているものだとばかり思っていたのだ。
 だけど、このメールのやりとりから抽出できる事実はこれだけなのだ。

     @2回目の投票前にクドが理樹を誘った。
     A4回目の投票前の時点で、理樹はクドが自分と一緒に恭介に投票したものだと考えている。

 このゲームの投票のシステム上、誰が誰に投票したかは分からないようになっている。

 唯一、誰が誰に投票したかメールを見て把握できるのは中立の審判たる佳奈多のみ。
 協力しようと約束しても、理樹はクドが本当は誰に投票したか分からないしクドから見てもそれは同じ。

 つまり理樹とクド――ふたりはお互いが本当は誰に投票していたか、分かっていないのだ。

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 【第2回投票結果】

    棗恭介    2票
    宮沢謙吾   2票
    三枝葉留佳  2票
    神北小毬   3票
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 あわれなピエロは恭介に入った2票という票数だけを見て相手を信用してしまった――
 自分が恭介に1票、そして相手も恭介に1票投じてくれたものだと錯覚して。

 だけどそれは犯人グループが、来ヶ谷が恭介を犯人だと理解するのを見越しての行動…
 あたしと小毬ちゃんの行動以外は全部、犯人グループの思惑通りだったことになる。

          :




 あたしの言葉に呆気に取られた表情の理樹とクドに再び話し始める。

     「今までの情報を整理して空欄を埋めてみる。」


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 【第2回投票結果】 ☆はるかが目撃者だった場合

    棗恭介    2票 ← (  )、(  )
    宮沢謙吾   2票 ← (  )、(  )
    三枝葉留佳  2票 ← あたし、小毬ちゃん
    神北小毬   3票 ← 【恭介】、【謙吾】、【  】

     残り: クド、理樹、はるか、みお、来ヶ谷 ←ひとりだけ嘘つき!
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     「みおとはるかは同じ人に投票した。だからこの二人は恭介か謙吾に投票した事になる。
      だけどこの二人が恭介に投票したとなれば、理樹とクドは恭介以外の人間に投票した事になる。
      その場合、2人の人間が嘘をついていることになって嘘をつくのは残りの犯人1人だけという
      事に矛盾する。だから、はるかとみおは謙吾に投票したと分かる。」
     「………」
     「そして来ヶ谷は男子に投票した。だからここまで確定する――」

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 【第2回投票結果】 ☆はるかが目撃者だった場合

    棗恭介    2票 ← (来ヶ谷)、(  )
    宮沢謙吾   2票 ← (みお)、(はるか)
    三枝葉留佳  2票 ← あたし、小毬ちゃん
    神北小毬   3票 ← 【恭介】、【謙吾】、【  】

     残り: クド、理樹 ←ひとりだけ嘘つき!
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     「――残っている空欄は無実が1つと犯人が1つ。そして残りはクドと理樹の二人。
      クドと理樹のうち片方が犯人で嘘をついているとなるとこれは辻褄が合う。」

     「………」
     「………」

     「ではクドと理樹、どちらが嘘をついていたのか。佳奈多はゲームが始まる前…
                     一番最初にこう言っていた――犯人は "男子と女子、合わせて3名" だと。」

 もう逃れられない。
 みんなの視線が3人目の犯人に集まり、佳奈多の言葉によってついに最後の投票が始まった。


          :
          :



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 【第7回投票結果】

    能美クドリャフカ   3票
    来ヶ谷唯湖      1票
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     「――能美クドリャフカが吊るし上げられました。…これはまた自殺票とは潔いわね。」
     「ここまでくれば私は満足なのですっ。」

 謙吾の物真似なのだろう――その様子にみんなが爆笑していた。

     「すでに来ヶ谷さんが自分に投票しているのはスルーなんだね…」
     「良かったな、理樹。おまえは来ヶ谷の基準で『かわいい女の子』に該当するらしいぞ。」
     「えぇ〜っ!?」

 そしてひと段落ついたところで佳奈多が口を開いた。

     「――只今の投票をもって、犯人グループは全員排除されて無実グループの勝利が確定したわ。」


          :
          :










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 目撃者:      三枝葉留佳
 犯人グループ:  棗恭介、宮沢謙吾、能美クドリャフカ
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 犯人グループがお菓子を調達してきて、今食堂ではちょっとしたパーティーが開かれていた。

     「ちゃんとできたではないか、鈴君。」
     「あ、来ヶ谷…」

 祝杯代わりの紙コップのメロンソーダを受け取り、あたしは微笑んだ。


     「しかし本当の事情を知ると実に呆気ないものだな。」
     「だが恭介と謙吾はともかくクドが共犯というのは想像がつかん。」



 事の真相はこうだった――
 まず食堂に置き忘れられたワッフルの箱を散歩中のストレルカが発見。
 ワッフルの箱を口に咥えて食堂の中を歩いていたところを、今度はクドが発見。
 夕飯のあまりをくすねていると勘違いしたクドが、ストレルカを食堂の中で追いかけ回し始めたらしい。
 そこにたまたま現れた恭介と謙吾がクドに加勢して大人気なく見事ストレルカからワッフルの一部を奪取。

 4個のワッフルと白い箱が恭介と謙吾の手元に。
 2個のワッフルを咥えたストレルカに引きずられるようにしてクドは食堂の外に走っていった。

 恭介も謙吾もそれが夕食のあまりだと勘違いして食べながら中庭を歩いていると、佳奈多から逃げ出した葉留佳が登場。
 クドもストレルカから1個のワッフルを奪取して味わっているところを佳奈多に視認される。
 その後、佳奈多は葉留佳を追って中庭で恭介と謙吾もクドと同じワッフルを食べているのを目にする。

 そして、小毬ちゃんのワッフル行方不明のメールがメンバーに一斉送信されたのだ――


     「小毬さん、ごめんなさいなのです…っ」
     「ううん、いいよクーちゃん。悪いのは恭介君だけなんだから。」
     「いや、小毬。そろそろリボンから俺を解き放って欲しいのだが…。二木、なんとか言ってやれ。」
     「そうね、神北さん、縛り方が甘いわ。」
     「ぎゅえぇ…っ!?」

 楽しそうに恭介をいじめている小毬ちゃんを見ながらあたしは呟いていた。

     「しかし…恭介に手加減されていた。そこが悔しい――」
     「え、手加減されていたってどういう事?」

 隣に座っていた理樹が目を丸くして聞き返す。

     「最後の1人まで投票を続けるルールではなくて、犯人グループが全滅した時点で佳奈多がそれを
      宣言するルールに、恭介はわざとしたんだ。犯人グループが勝つためであれば、そんな宣言は
      ない方が有利だった――犯人グループがまだ残っている事がバレてしまうからだ。」

     「ま、それでもたいしたもんだ。あの土壇場で気付いたのは幸いだったな。」
     「むー。最初から最後まで恭介に遊ばれた感じで気色悪いわ!」

 ポテチを齧りながら笑う恭介を睨む。

     「だがまぁ…最後までクドに遊ばれていた理樹に比べればマシだとも思う。」
     「ううぅ…それは言わないでよ。」

 あたしの言葉に理樹はあからさまにへこむ。
 ずっと信頼できるパートナーだと思っていたクドが、実は犯人で終始自分の票をコントロールされて
 いたのだ。

     「でもよぉ、なんで理樹はクドを最初から信用していたんだ? 犯人の可能性だってあっただろ?」
     「それだ真人。そこが恭介のくちゃくちゃタチの悪いところだった。」
     「どういうことよ?」
     「恭介は目撃者として名乗り出た時、犯人は理樹とクドだと言った。もちろん理樹は無実だから恭介が
      犯人だとすぐさま分かった。だから2回目の投票では理樹は最初から恭介に投票するつもりだった。」
     「自分が無実なのに犯人だと言われたら、言った相手が犯人だって分かるもんな。」

     「で、その犯人である恭介はクドを犯人に指名した。普通、犯人が仲間である犯人を指名するか?
      しかも、犯人だと名指しされたクドはあたかも自分の身の潔白を証明したがるように、理樹に同盟
      の誘いを仕掛けたんだ。
      ――まるで理樹と同じように、私も恭介に犯人扱いされた被害者だと言わんばかりに、だ。」

     「〜〜〜〜♪(>ω<)」
     「…………orz」

 何か嬉しそうなクドとへこんだままの理樹の横から来ヶ谷が割り込んでくる。

     「そして、恭介氏がわざと吊るし上げられる事でクドリャフカ君に対する信用は跳ね上がる。
      犯人が指名したクドリャフカ君が犯人の一味だとは誰も考えないだろうし、何より理樹君に
      とって彼女が最良のパートナーであるように見えていた事だろう。」

 だからその後、理樹はクドの提案どおりの人に投票しつづける傀儡と化してしまったのだ。
 もし、あそこであたしが謙吾が犯人だと気付かなければ最後には謙吾とクドが協力して理樹を排除した事だろう。

     「それから宮沢少年を目撃者に仕立て上げたのも実に適任と言えよう。犯人グループの恭介氏、
      宮沢少年、クドリャフカ君は目撃者が葉留佳君だと分かっていた。知ってのとおり葉留佳君は
      言動が気まぐれで信用度も低い。だからその対極に位置するような普段の信用度の高い宮沢少年
      が目撃者に名乗り出て、このふたりを他の人間に比較させようとしていた。」

 そこへ、小毬さんに縛られた状態の恭介も顔を出す。

     「そのとおりだ来ヶ谷。謙吾と三枝――どちらの言葉を信用する?と聞かれれば三枝を知る大抵の
      人間は謙吾の方が正しいと先入観から思い込むだろうからな。」
     「ちぇーっちぇーっちぇーっ…やっぱりこの人ヒドイですヨ!」

 恭介の話につまらなそうな表情のはるか。
 事実そのとおりだった。最初、あたしと小毬ちゃんははるかを疑って投票してしまったのだから。

     「三枝さんは日頃の行いを改めた方がよろしいでしょう。」
     「みおちんまで私をいじめますかっ(><)」
     「あはは、でも葉留佳さんは突拍子な行動に出たり気分屋なところが葉留佳さんっていうか――」
     「おおぉぉ〜理樹くんまでっっっ」
     「ほら、いきなり2回目の投票で西園さんと同じ人に投票するとか言ってたし――」

     「…ふっ」
     「…フフン、あたしは完璧なのですヨ。」
     「ま、理樹だしな。」
     「…でしょうね。」

 理樹の言葉に来ヶ谷、はるか、恭介、みおがどこか含みを持たせた笑みを浮かべる。
 まるで、コイツだけ分かってないみたいな、そんな雰囲気を漂わせた微妙な笑み。

     「え、え? みんな、いったい何なのさ?」

     「理樹君。葉留佳君は決して気まぐれで、西園女史と同じ人間に投票すると送ったわけではないのだよ。」

     「わふーっ!?」
     「え、はるちゃん、そうだったの!? 鈴ちゃん、分かる?」
     「…いや、分からないぞ。どういう事なんだ来ヶ谷?」

 小毬ちゃんの問いかけにあたしも首を振りながら来ヶ谷に聞き返す。

     「――葉留佳君は本当の目撃者だった。それゆえに恭介氏と宮沢少年が犯人である事は承知していた。
      だが、彼女には自身が潔白である事をまわりに証明する手立てがなかったのだよ。」
     「うん、恭介も謙吾も目撃者として名乗り出たのだから、僕らから見たら分からないよね…。」
     「だから、葉留佳君はまず自分の信頼できるパートナーを探そうとしていた。だがしかし、葉留佳君には
      残りひとりの犯人が誰か分からなかったので相手を選ぶ必要があった。」

 それは、あたしと小毬ちゃんが組んだのと同じ事だろう。
 お互いが犯人ではないと知っていたからこそ同盟を組む事ができたのだ。

     「ところが葉留佳君に転機が現れた。自分が無実であると分かる可能性を持った人間が現れたのだ。
      それこそが葉留佳君が票を委任した西園女史というわけだ。」
     「え、なんで西園さんは葉留佳さんが無実だと分かるっていうの?」

 理樹の質問に恭介が答える。

     「覚えているか? 謙吾は目撃者として名乗り出て西園が犯人だと指名した。これを無実の西園の立場から
      見てみると、謙吾が犯人のひとりだと確定できる――謙吾が嘘をついていると分かるからだ。
      そして、俺が犯人である事は情報を整理すれば分かるようになっていた。」

     「――! そうか!西園さんから見たら、謙吾も恭介も犯人だと分かるから本当の目撃者は葉留佳さんだって
      判明するだね…!」

     「そうだ。葉留佳君はそれに気付いて何とかして西園女史にメッセージを送りたかった。そこで葉留佳君が
      利用したのが姉で中立の審判である佳奈多君だ。イレギュラーな投票があれば恭介氏にルール確認する事を
      予想して、しかも誰がそのメールを送ったか分かるように "みおちん" という三人称を用いて、だ。」

 確かにみおを "みおちん" と呼ぶのははるかしかいない。
 それなら佳奈多がメールの文面を読み上げた際に、みおは誰がメールを送ったか分かるだろう。

     「それ以後、私と三枝さんは同盟を組んで同じ人に投票し続けました。尤も、三枝さんが鈴さんを信用させる
      のに失敗した事で全て終わってしまいましたが…」
     「うぅ…私ってそんなに普段の信用ない?」
     「まぁ、気を落とすな。いつの日かはるかが信用される日が来ないでもない。」
     「私を吊るし上げた鈴ちゃんに慰められると、なんだか複雑ですヨ…」

 はるかを慰めながら、ふとあたしは1つの事実に気付いた。


     「クド――クドが食べたワッフルは1つだな?」
     「そうなのですよ。」
     「それから恭介と謙吾が食べたワッフルは合計4つ。…あと1つはドコにいった?」

 あっ、とみんなが声をあげる。
 何の事はない――勝ったのは無実グループでも犯人グループでもなかったのだ。
 最後まで見つからなかった本当の勝者が今頃、最後のワッフルを腹に納めて眠っている姿を想像して笑い出すのだった。





 【終わり】


 あとがき

 実は最初に書いた時点では主人公で名探偵役は美魚でした。
 ゲームルールの元ネタは「汝は人狼なりや」というパーティーゲーム。
 ほとんど説明文っぽくなってしまって読み物としては面白くなかった気がします…。
 あと、材料の信憑性を完璧に明確な形で明示するようにすればよかったと思います。反省。

 他の解法も書いておきます。↓


 【解法】

 まず、恭介の証言を元にして犯人グループを割り出すと、犯人が4名になって矛盾するので
 恭介が犯人のひとりと確定する。

     犯人グループ:恭介、【  】、【  】

 そこから、目撃者は謙吾or葉留佳である事が分かり、目撃者の証言から犯人の組み合わせ
 を全て列挙する。

     ・謙吾説:  恭介、葉留佳、美魚
     ・葉留佳説: 恭介、謙吾、来ヶ谷
     ・葉留佳説: 恭介、謙吾、美魚
     ・葉留佳説: 恭介、謙吾、クド
     ・葉留佳説: 恭介、謙吾、理樹
     ・葉留佳説: 恭介、謙吾、真人

 ゲーム開始前の佳奈多の発言「で、その犯人なんだけど男子と女子、合わせて3名。名前は――」 。
 犯人グループは男女混合であるという条件で捨象すると、犯人グループの組み合わせは以下のとおり。

     ・謙吾説:  恭介、葉留佳、美魚
     ・葉留佳説: 恭介、謙吾、来ヶ谷
     ・葉留佳説: 恭介、謙吾、美魚
     ・葉留佳説: 恭介、謙吾、クド

 次に2回目の投票時点で、誰が誰を犯人だと認識できたかを表にまとめる。
 無実であれば犯人呼ばわりした人間が真犯人だと分かり、恭介は全員から犯人と認識できる。

      謙吾:   恭介、葉留佳
      理樹:   恭介
      クド:    恭介
      葉留佳:  恭介、謙吾
      美魚:   恭介、謙吾
      来ヶ谷:  恭介

 これを2回目の投票結果に当てはめて考える。

------------------------------------------
 謙吾が目撃者だった場合

    棗恭介    2票 ← (謙吾)、(  )
    宮沢謙吾   2票 ← (  )、(  )
    三枝葉留佳  2票 ← 鈴、小毬
    神北小毬   3票 ← 【恭介】、【葉留佳】、【美魚】

     残り: クド、理樹、来ヶ谷
------------------------------------------
 理樹、クドは謙吾が犯人だとは分からない。また、理樹とクドは恭介に直接犯人と指名されて
 いるので、ふたりが無実であれば恭介が犯人だと分かる事になり、ここで謙吾に投票しているのは
 矛盾する。
 従って、謙吾は目撃者ではない。

 次に葉留佳が目撃者だった場合を検討する。

------------------------------------------
 はるかが目撃者だった場合

    棗恭介    2票 ← (  )、(  )
    宮沢謙吾   2票 ← (  )、(  )
    三枝葉留佳  2票 ← あたし、小毬ちゃん
    神北小毬   3票 ← 【恭介】、【謙吾】、【  】

     残り: クド、理樹、葉留佳、美魚、来ヶ谷
------------------------------------------

 上の表に残りの犯人グループの組み合わせを当てはめていく。

     ・葉留佳説: 恭介、謙吾、来ヶ谷
     ・葉留佳説: 恭介、謙吾、美魚
     ・葉留佳説: 恭介、謙吾、クド

 ・美魚が犯人であれば、葉留佳も美魚と同じ人に投票している事になるので矛盾しありえない。
  これに関しては嘘の入り込む隙間がない。

 ・来ヶ谷が犯人であれば、来ヶ谷は男子に投票する、という条件が嘘になる。
  原文では「来ヶ谷は絶対に男の名前を書く」とあり、来ヶ谷が男子の名前を書かなかった場合は、
  明白に矛盾していると言いうる。

 ・クドが犯人であれば、理樹とクドは協力して恭介に投票していない事になる。
  原文は――
 「見れば隣でクドが "恭介さんが犯人なのです! 一緒に恭介さんに投票です!" とメールを打っているところだった。
  あて先のメールアドレスは――なるほど、理樹か。」
  ――のとおり。
  これは、クドが理樹に誘いかけているだけなので明白に矛盾しているとは言えない。

 従って、目撃者は葉留佳、犯人グループは恭介、謙吾、クドという答えになる。




 海鳴り



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