Renegade Busters 第1話「魔術師、力、恋人」
 












 もう夜中の3時を過ぎた頃だろうか――
 鍵のかかっていないドアを見つけると僕はそのまま校舎に侵入する。

     (まったく、絶対ノートは忘れないでねって念押ししたのに…)

 真人に貸したノートを返してもらおうとしたら、よりによって自分の机の中に絶賛放置中。
 おかげで僕はこんな夜中に教室へノートをとりに行かなければならなかった。

 窓にはぼんやりと浮かぶ青白い月。
 昼間のいつも見ている学校とはまったく違う風景が広がっていた。
 僕は真っ暗な廊下を火災報知機の赤い非常灯を頼りに進んでいく。

 ――コツ…コツ… コツ…コツ………。

 違和感を感じてふと僕は立ち止まった。
 僕しかいないはずなのに…そう思った瞬間、背後から人の気配を感じ取って振り返ろうと――


 ――タンッ …ドサ!


     「――ぐッ!?」

 一瞬の出来事――重心を奪われたと分かった時には、体は組み伏せられ顔を床に押し付けられていた。
 夜の校舎にひとりでいるところを狙われた? わざわざ拘束するようなマネをしたのは何か訊きたい事があるのだろうか?
 目的が分からない…だけど、無駄のない鮮やかなプロの手口だった。


     「――この学園の生徒ね…なぜこんな時間にいるの?」


 それは意外にも女の子の声だった。
 この学園の生徒であることを確認している事から、元々ターゲットに僕を選んでいるわけではないのだろう。
 つまり、これは相手にとってもイレギュラーな事態――

     「答えなさい。こんな時間に何をしにきたの?」
     「……キミこそ、こんな時間に何してるのさ?」
     「…あなたに答える義務はないわ。」

 客観的に見て圧倒的に優位なのは女の子の方だ。
 背後に腕をきめられ、支配する側とされる側は実に明確。
 …だけど僕もやられっぱなしというわけにはいかない。


     「それなら――僕にも答える義務はないね…ッ!」

 ――ドン!

     「きゃっ!?」

 体を反転させて勢いに任せて跳ね起きる。
 不意を突かれた女の子が転んだ隙に、僕は起き上がりポケットに手を突っ込む。
 そして取り出したのは――ドライバーやペンチなど大小合わせて8つの工具。

     「――材料はこれでいい。」

 手近にあったのは金属製のロッカー。
 教員用に廊下に沿っていくつも並べられているものだ。

 構造の理解、合理的な方法の捨象、時間的コストと体力的コストの算出――
 それらを瞬時に弾き出し、両手の指の間に挟んだ8つの工具をフルに使って作業を開始する。
 流れるようにネジを取り去り、効率的に金属板を剥がし、そしてバラバラに解体する。

 ――ギギ…カチャ…キュル ……ガランッ!

     「――分解、完了。」
     「えっ?」

 分解されたロッカーが金属片と化し、床に落下して派手な音を立てる。
 こんな単純な構造のロッカーごとき…分解に2秒もかからない。そして武器の完成には3秒とかかるまい。

     「セットアップ――」

 頭の中の設計図をこの手で目の前に自然と再現する。
 材料の形状、強度、特性を把握。工程への影響、誤差、効果を評価してリアルタイムで反映させる。
 あるべくして創られた作業計画。なるべくして作られた成果物。
 瓦礫はかくしてこの手で道具に蘇生される。

 ――ゴトッ…カチ…キュル

     「――防護盾と手製のナイフ。こんなものか…」
     「へ?……はぁ!?」

 目の前で手品のように一瞬で完成する武器――女の子は何起こったのか理解できないのだろう。
 尻餅をついて膝を立てたまま、目をパチクリさせて呆気にとられている。

     「キミは僕に5秒の時間を与えた。キミにとって5秒は一瞬でも優位を失うには十分すぎたんだ。」
     「ちょ…っ 何なのよ……っ!?」

 見ると、まくれあがったスカートから白いふとももとホルスターに入った拳銃が覗いている。
 その僕の視線に気付いて女の子は顔を赤くして慌てて拳銃を抜いて立ち上がる。


     「あ、あなた…いったい何者なの?」

     「直枝理樹――道具使い。みんなには "文明の理樹" って言われてるよ。」




















Renegade Busters
第1話「魔術師、力、恋人」













 ――パン! パン!

     「うわっ!? いきなり発砲しないでよ!?」

 女の子が引き金を絞ると同時に防護盾を2発の銃弾が貫通していく。

     「プロフェッショナルだったのね。それなら手加減する必要なんてないわ…!」
     「いやいや、僕は普通の学園の生徒なんだけどね。」

 すぐさまバックステップで女の子と距離をとり、金属製ロッカーの影に身を潜める。
 さすがに銃弾相手ではこの防護盾の強度が足りない。

     「再検証――補強と改良フェーズに移ろう。」

 Plan(設計)、Do(実行)、Check(検証)、Action(改良)――
 防護盾の強度を上げる設計を思い描き、必要な材料を洗い出して、それを実行する。

 ――ギギ! ガタッ…カチャ…カチャ ……ゴトンッ!

     「また…ッ! 何をしようとしてるの…!?」
     「分解完了。製作に移ろう――」

 さっきと同じ金属製のロッカーを3個解体して材料を集める。
 その上を手を滑らせるようにして工具を扱い、頭の中のイメージを再現していく…
 だが、そんな様子を相手が待ってくれるはずもない。

     「この…ッ! そこまでよ…!」
     「…っ!」

 女の子のあまりの速さに度肝を抜かれた。
 距離を詰めきった女の子は宙に躍動し、容赦なく頭上から銃撃を浴びせてくる…!
 ギリギリか――っ!?

 ――パンッ!パンッ!…パンッ!

     「………ッ!」
     「――改良完了。またこの武器のレベルが上がったね。」

 貫通せずに銃痕を残すにとどまった防護盾を手に僕は微笑む。

     「…っ! だったら肉弾戦で片付けるまでよ…!」
     「わ……!」

 危険を感じて体を後ろに引く。刹那、鼻先を鋭い空気が掠めていく。
 女の子の手には刃渡り30cmはあると思われる軍用ナイフが握られている。
 最初に僕を組み伏せた手口といい、おそらくはその世界のプロ。

 ――ガンッ! …キンッ

 女の子のナイフを防護盾で防ぎ手製のナイフで応戦する。
 だが、元々身体能力も近接戦闘も相手の方が上なのだろう。
 この武器だけでは限界がある。もっと探さないと…

     「いあああ――っ!!」

 ――ドン!

     「うっ!?」

 材料を探して壁に視線を這わせた瞬間――
 防護盾ごと僕の体は女の子の蹴りに突き飛ばされた。
 そのまま体勢を崩して廊下に背中を打ちつける。まずい、はやく起き上がらないと――



     「――チェックメイトよ。」



 カチリと突きつけられた銃口。
 僕は肩の力を抜いて胸の奥に溜まった息を吐き出す。
 戦闘は終わりだ――僕らの勝利で・・・・・・

     「………油断したわ。この男子生徒の仲間ね。」
     「そうね。理樹君以外にも仲間がいないか、よく周りを見ておくべきだったわね。」

 ナイフを手に僕に襲い掛かってきた女の子は、悔しそうな表情で硬直するしかなかった。
 少しでも動けば、背後で銃を構えている僕のパートナーから容赦のない一撃が見舞われるだろうから。

     「さ、武器を捨てて両腕を頭の後ろに組んでちょうだい。」

 銃を突きつけられた女の子は指示されたとおりに銃とナイフを捨てて降伏する。
 その様子を見て、僕も服についた埃を手で払いながら立ち上がる。

     「――助かったよ、沙耶。」
     「まったく、たまたま気付いたから良かったものの…理樹君、夜間はひとりで出歩かない事。」

 武装解除し手際よく女の子を縛り上げると、薬品を含ませた布を口に押し当てる。
 女の子が気を失ったのを確認して、沙耶は拳銃を右足のホルスターへと納めた。

 ――朱鷺戸沙耶(ときどさや)。世界でもトップクラスの職業スパイで僕の唯一無二のパートナー。
 天然ボケながらもその腕は信頼できるし、戦闘となれば確実に相手を地獄に叩き落すプロだ。

     「それで何で理樹君はこんな夜中に校舎の中をうろついてたのかしら?」
     「うん、ノートを取りにね…。僕が貸したノート、真人が教室の机の中におきっぱなしにしてたんだ。」
     「それなら真人君か私を一緒に連れて行けばよかったじゃないの…」

 手を顔に当てて、はぁ〜とため息をつく沙耶。
 騒ぎすぎただろうか…遠くから僕ら以外の足音がするのを確認して、お互い無言で頷きあう。

     「とりあえずコイツは片付けたし戻りましょ。夜のここに長居するのは危険ね。」
     「そうだね。行こうか…!」

 沙耶は女の子をその場に放置して走り出し、僕もその背中を追っていく。


          :
          :










     「いつまで筋トレしてるのよ、このボケナスーっ!!」

 ――ドカッ!

     「うおおおっ!?」

 男子寮の部屋に戻ってくるや否や――
 沙耶の蹴りを背中に受けて真人がゴロゴロと床を転がっていく。

     「いてーぞ、コラ! いきなりなにしやがるっ」
     「あんたがノート取りに行ってたら、理樹君も危険な目に遭わなかったのよ!」
     「いやいや、そのかわり真人が死んでたかもしれないし、その前にノートを置きっぱなしにしないでよ。」
     「――え、理樹。おまえ "敵" と遭遇したのかよ?」

 一転、真人は腕を組んで真面目な表情で聞き返す。

     「正体までは分からないわ。ま、私と理樹君のコンビにはクズね。」
     「…そうか。ま、生きて帰ってきたならよかったじゃねーか!」
     「いやいやいや、結局僕が危険だった事に変わりはないんだからっ…少しは心配してよね。」
     「俺のかわりに沙耶が助けてくれたんだろ? 第一、おまえがそう簡単にやられるかよ。…ふんっ!ふんっ!」

 早速その場で寝転んで腹筋をはじめる真人。

     「それを言ったら真人の方がやられそうにないよ…」
     「ふんっ! ふんっ! …で、ノートはちゃんと俺の机の中にあったろ?」
     『…あ。』

 真人の問いかけに僕と沙耶の声が重なる…完璧に忘れてた。
 あれ、そういえば何で僕は危険を冒してまでノートを教室まで取りに行こうとしたんだっけ?
 まぁ、いいや。それよりもおなか減ったね…。

     「なんだよ、沙耶までついてって、ひょっとして忘れたのかよ?」

     「…ええ、そうよ。優秀なスパイである私はパートナーの当初の目的を聞いておきながら、目的を達成せずに
      スゴスゴと帰ってきたってワケよ。これが一流のスパイ? 聞いて呆れるわ。ねぇ、滑稽でしょ? 笑えるでしょ?
      そうよ! 笑えばいいじゃないの! 笑いなさいよっ! あーっはっはっは!!

     「あ、真人。そっちのダンボールに入れてる、カップルヌードみそ味取って。」
     「ほらよ。あ、俺もコレ食うからお湯入れんのたのむわ、理樹。」

     「って人の話、聞けや!うらぁぁーっ!!」

 ――ドカッ!

     「うおおおっ!? …って、俺の下敷きになってカップルヌード豚骨しょうが味がぺたんこにっ!?
                           ――っていうか、沙耶。今の流れ的に蹴られるの理樹の方じゃね!?」

     「………おりゃぁぁーっ!!」

 ――ドコッ!

     「うわぁっ!? いやいやいや、思いっきり冷静に考えた上で蹴ってるんですけどっ!?」
     「ふたりとも人の話を聞いてなかったんだから同罪よ。まったく、私の話よりカップルヌードが大事だなんて…っ」
     「なぜか分からんがすげー理不尽だぜ…」
     「うぅ…同感だよ、真人。」

 腕を組んでそっぽを向く沙耶。
 何だか釈然としないまま、僕も真人も蹴られた頭を抑えていた。

     「あいたた…それで沙耶。何の話だったの?」
     「え、それは……???…えーと――」

 なぜか虚を突かれたような表情になる沙耶。…あ、なんか今必死に思い出そうとしてるみたい。
 眉が八の字になって口の端が引きつっている。

     「………わ、私はカップルヌードの塩味よ。ほら、さっさとお湯入れなさいよ。」
     「………」
     「………」


          :
          :


 ……ズルズルズル〜

 3人の即席めんをすする音が静かな部屋を支配する。
 匂いもあいまって三者の三種類のラーメンが三重奏を奏でていた。

 ぐいっとカップを傾けて、ぷはーっと一息ついた沙耶が箸を置く。
 続いて真人も空のカップをちゃぶ台の上に放り投げて、床にひっくり返る。
 僕はというとカップの底に残った麺を箸ですくいながらその様子を眺めていた。


 ――そこにあるのはいつもの光景だった。


 僕、沙耶、真人の3人。
 いつの頃からか、それが当たり前になっていてそこに何の違和感もない――だけど、なぜか分からないが僕にはそれが理解できない。
 まるでその無いはずの違和感に引き寄せられるように、僕はちゃぶ台におかれた1枚の写真を手に取った。

     「――不思議よね。その写真の中では理樹君も真人君も笑ってるわ。」
     「…うん。そうだね。」

 手に持った写真を覗き込むようにして沙耶が呟く。

 僕、沙耶、真人の3人――これがリトルバスターズの全員・・・・・・・・・・・だ。
 だけど、この写真の裏面にボールペンで書かれた "リトルバスターズ全員集合!" という文字。
 この写真の中に沙耶はいない。そのかわり、顔も名前も知らない人たちがみんな笑顔で写り込んでいる。

 少年のような笑顔の男子とその面影を引き継いだような釣り目の女の子。
 大人びた雰囲気の黒髪ロングストレートの女子、日傘を携えた大人しそうな女子生徒。
 屈託無く笑う栗色の髪の子と、白いマントをまとった亜麻色の長い髪の女の子。
 静かに笑みを浮かべる剣道着の大柄な男子、ピンクの髪飾りをつけた元気そうな子。

 ――それはひとことで言い表すなら、温かい輪。

 きっと、この10人でたまらなく楽しい時間を共有していたのだろう。
 そんな絵空事を沙耶に話した事があったけど、それはとびきり悪い冗談ね、と鼻で笑われてしまった。
 でも、こことは違うどこか別の世界…そんな虚構の狭間でこんな馬鹿みたいな絵が1枚ぐらいあったのかもしれない。
 この写真を見るたびに、僕はそんな感覚に襲われる。


 ………ズン…ドスン…


     「…!」

 床に置いたコップが倒れる。遠くからこの部屋にまで振動が伝わってきているのだ。

     「…真人君!」
     「ああ、また来やがったな…っ」

 沙耶の言葉に真人が床からのそりと起き上がる。
 騒がしさを増す廊下、部屋まで響いてくる振動、…また襲ってきたのだ。
 僕も手に持った写真をちゃぶ台に置いて立ち上がった。

     「はっ! 今度こそ、つぶしてやるぜ。」
     「性懲りも無くやってきたわね…! さて、どっちがこの部屋を守る?」

 拳銃を取り出し弾倉を入れ替えながら沙耶が僕に尋ねる。

 ――僕らの "領域" に殴り込みをかけてきた。
 おそらくは…あいつだ。

     「沙耶はこの部屋を守ってて! 僕と真人で食い止めるよ!」

 頷き返す沙耶を後ろ目に僕と真人は部屋から勢いよく飛び出していく。


          :
          :




     「うわあああぁぁぁ!?」

 ――ドスン…バキッ!

 廊下に出た途端、男子生徒がひとり吹っ飛ばされて僕らの方へと転がってきた。
 口を開きそのままピクリとも動かなくなった男子生徒を脇目に、僕も真人も相手を迎え撃つために戦闘体勢を整える。

 ――バシーンッ

 またひとり、男子生徒が壁に叩きつけられてぺしゃんこになった。
 相手は速いだけじゃなく力も強い。こいつらが到底かなう相手でもない。
 よほど数が多かったのか――現に目の前では、相手に一撃も加えることができずに男子生徒の屍の山が築かれている。

     「………!」
     「ふんっ!」

 ――ドンッ

 地の底から穿つような響き。
 一瞬の静寂の後、最後の男子生徒が崩れ落ちるように倒れこんだ。


     「――やっと現れたな。力自慢とやっかいなチビか。二丁拳銃の女はどうした?」


 冷徹な視線を遠慮なしにぶつけてくる剣道着姿の男―― 
 その手に持った一本の竹刀によって、この場に十とも百とも知れず男子生徒たちがひれ伏した。
 …目の前のその姿は紛れもなくあの写真の中に写っていたひとり。

     「黙れよ袴野郎。てめーなんぞ俺ひとりで十分だ。」
     「………」

 真人の言葉に頷きもせず、ただ睨み返す男。
 僕らの間には極度まで張り詰めた空気――あるのは明らかな敵意。
 それはこれまで何度となく繰り返してきた対峙で和解の余地など寸分も無い。

     「いい加減にしてもらおうか。"敵" かどうかは倒せば分かる。」
     「そういうてめぇこそ、"敵" なんじゃねーのか?」
     「ふん。おまえたちをまとめて倒して、こんなくだらない事は終わりにしてやる…ッ!」
     「聞いちゃいねーよッ おらぁぁぁっ!!」

 ――ドゴォォォッ!!

 戦闘は爆音で幕を開けた――
 全力を乗せた一撃。真人のこぶしが竹刀に爆ぜた…!
 この建物全体を縦に揺さぶるような衝撃が周囲を包み込む。

     「…ふん!」

 真人のパンチとクロスした竹刀を横一線に凪ぐ…!
 剣道着の男はその一本の竹刀だけで衝撃を受け止めきったのだ。
 お互いその場から後ろに飛びのき、構えを解かず双眸を交差させる。

     「――ショット。」

 ピアノ線、鉄パイプ、木製ハンガー、水道管…。
 豊富に転がる材料から生み出された手製のボーガン。
 僕はそれを片手に構えて剣道着姿の男に狙いを定める。

 ――シュッ …キンッ!

     「ふ…っ!」

 あっさりと竹刀に弾かれ、ベクトルをずらされたボルト(矢)が天井に突き刺さる。
 だが、隙を作ることができた。防御に固まった男に再度、真人が突進していく。

     「おらよっ!」
     「……ッ」

 一瞬、真人の姿が視界から残像を残して掻き消える。
 そして次の瞬間には5メートルは離れた位置にいる男に突き上げるような拳を叩き込んでいた…!

     「そらっ!…遅ぇんだよッ!…いっちまえよッ!」
     「………!!」

 ――ズンッ!! ドゴンッ!! ドスンッ!!

 真人の拳が男の体にヒットするたびに男子寮の建物自体が大きく揺れ、男の体も衝撃で大きく飛ばされる。
 だが衝撃で距離が離れるたびに、瞬間的に真人は距離を詰めて拳を叩き込み、ついには廊下の端まで男を叩き付けた。

     「伏せて、真人!」

 僕の声に反応して真人がしゃがむと同時にボルトを発射する。
 ボーガンを即座に改造した――今度は12本のボルトを発射する連弩(れんど)だ。

 ――トスッ! ドスッ! ドスッ!

 3本のボルトで寮の壁に磔(はりつけ)にされる剣道着姿の男。
 手、足、肩…いずれもかすり傷。どれも致命傷には至らないか――!

     「――どうした、終わりか?」

 壁からボルトを引き抜いて、血の混じった唾を吐き捨ててニヤリと嗤う男。
 あれだけマトモに食らっていながら、大したダメージではないというのだろうか――

     「まだ、始まったばかりだぜ…ッ おらぁぁぁっ!!」
     「ふははははははははは…ッ!」

 馬鹿みたいな笑い声を上げる剣道着姿の男に、真人は黒い弾丸となって突撃していった。


          :
          :






 ――2時間後。

 ドンッ …キンッ! ゴスッ ドゴッ…


     「くそ…っ もう朝が来たのか――ッ」

 剣道着姿の男は、明るくなっていく空を窓越しに見上げて忌々しげに吐き捨てる。
 薄紫に染まりつつある空、夜と昼の境界が訪れようとしていた。

     「はぁ…!はぁ…!はぁ…っ!」
     「………」

 倒れた真人のそばで僕は息も絶え絶えになりながら、工具を握り締める。
 だが剣道着姿の男は竹刀を下ろし僕に背を向けて歩き出した。

     「運がよかったな、道具使い。続きはまた今度だ――」
     「二度と…ごめんだね……っ」

 ふっと男は笑うとそのまま姿を消した。

     「生きてる? 真人…」
     「………いや、死んでるぜ。そんな事より……腹減った。」

 小さくクスっと笑うと僕は大の字に倒れたまま呟く真人の腕を掴んで寮の部屋まで引きずっていく。


          :
          :


     「ちょっと…真人君、大丈夫!?」
     「まぁ、しゃべれるから大丈夫だとは思うよ。でも、今回も結構やられたよ。」

 沙耶は傷の手当に濡れタオルで真人の顔を拭いている。

     「…なぜか…あの野郎の面を拝むと、殴らずにはいられない気分になんだよ。」
     「昔か、はたまた別の世界か――そこで真人とあの男に何かあったのかもね。」
     「はっ! そりゃきっとロクなもんじゃねーぜ。だが…あの野郎とやりあってる時は結構楽しかったぜ。」

 まったくこの人は…そう思いながらも僕も戦っているときはなぜだか楽しかった。
 純粋に強い相手と戦うのに心躍るのか、それ以上に何かある気がしたけどそれが何だか分からない。

     「ほら、理樹君もアザだらけじゃない…」
     「アイテテ…いいよ沙耶、自分で拭くから――」
     「ダーメ。少しは我慢なさい…!」

 左腕に残った竹刀の痕に容赦なくタオルを圧迫する。
 痛い…だから自分で拭くと言ったのに…。



      ――これが僕らリトルバスターズの日常だった。



 僕、沙耶、真人のリトルバスターズ3人で生き残るために戦い続けてきた。
 学園の生徒たちは無差別に僕たちに襲いかかってくる。
 そして、さっきの男みたいな規格外に強い相手も僕らを敵視してやってくる。

 ――孤立無援、四面楚歌。
 僕らは男子寮の部屋に立てこもり、襲ってくる相手から身を守り続けているのだ。

     「…朝ね――」
     「これで誰かが来襲してくるって事もないよ。」

 ――窓の外を見るとすっかり夜は明けて、空は日の光に満たされようとしていた。
 日が照っているうちは僕らの "領域" に攻撃してくる事はない。
 理由は…僕らは青空に嫌われてしまったからだ。昼間に "領域" を出て直射日光の下に行こうものなら、僕らは消滅する・・・・

 それはあの男も同じことなのだろう。この世界できっと学習した。
 朝になり太陽が顔を出す前に戻らなければならない。
 だからこうしてダメージを食らっても夜までに回復する時間が与えられる。
 それに僕らの "領域" にいれば短時間でどんな怪我でも回復してしまうし、普通の学園の生徒は "領域" に侵入できない。

 だけどそれにも例外がある――剣道着姿の男と日本刀を持った女子生徒は僕らの "領域" にまで入ってきたのだ。
 その時は何とか応戦して "領域" を死守するしかない。ここを失えば、学園の生徒に襲われない安全地帯を失ってしまう。
 だけどなぜ、 "領域" に入る事ができる人とそうじゃない人がいるのだろうか――

     「この世界って…何のために創られたんだろう?」

 思わず口をついてしまう。
 あまりにも僕らの知っている常識とかけ離れた世界、つまりそれが異常だと認識できる世界。
 この世界に神がいたとしたら、神は僕らに何を望んでいるのだろう。

     「それが分かったら私たちはこんな苦労してないわよ。」
     「…確かにそうだね。」

 僕と真人の傷の手当を終えて、沙耶がベッドに寝転ぶ。

     「ただ私たちに分かっているのはね…」
     「何さ?」
     「――周りの敵を全員ぶっ潰せば問題は解決するって事よ。」

 僕はため息をついて床に伏臥する。隣では真人が大の字でいびきを立てていた。
 襲ってくるヤツが誰もいなくなればここも平和になる。それは違いない、だけど…

     「この世界が "終わったら"、また最初に戻って倒した人も復活するんじゃないの?」
     「うっ…ほら、寝るわよ、理樹君!」

 どうやら何も考えていなかったらしい。
 ベッドでごろんと寝返りを打って背を向けた沙耶を見届けて、僕も静かに目を閉じた。











 【次の話へ】


 あとがき

 キャラと舞台設定だけ借りたほとんどオリジナルです。
 少年誌的な展開のものが書きたいなーと思って書き始めました。

 海鳴り



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