Renegade Busters 第5話「魔術師、恋人、力、吊るされた男」
 









 もう夜中の3時を過ぎた頃だろうか――
 いつものループの始まりと同じように、僕は校舎の前に立っていた。

     「………」

 今まで何度もこの世界を繰り返してきたけど、未だかつてここ以外の場所から始まった事はない。
 この世界でそう決められているのだろうか。
 あるいは、ある時点から僕らが動けないだけなのかもしれない。

 ――死んでも次のループには生き返っている繰り返しの世界。
 何のために僕たちはここにいるのだろう?

     「さてと…教室にノートを取りに行かないと…」

 鍵のかかっていないドアを見つけるとそのまま校舎に侵入する。
 真人に貸したノートを返してもらおうとしたら、よりによって自分の机の中に絶賛放置中。
 おかげで僕はこんな夜中に教室へノートをとりに行かなければならなかった。

 ――世界が始まるとなぜかいつもその記憶とノートを取りにかなければ、という意志が強く働く。

 窓にはぼんやりと浮かぶ青白い月。
 昼間のいつも見ている学校とはまったく違う風景が広がっていた。
 僕は真っ暗な廊下を火災報知機の赤い非常灯を頼りに進んでいく。

 ――コツ…コツ… コツ…コツ………。

     「……って、ちょっと待った。」

 この次の展開を僕は知っている・・・・・
 廊下をこのまま進んでいくと女の子が背後から襲ってきて、僕はそれを撃退する事になる。
 相手の武装は拳銃とサバイバルナイフ――この2つを取り上げて彼女を制圧するのだ。
 制圧自体は難易度的に問題ない。

     (だけど、しかし――)

 短時間で女の子を制圧できなければ…… ヤ ツ が 来 る 。
 ヤツは女の子と揉み合っているところに現れたなら、迷いなく僕を撃つ。
 仲間に向かって引き金を引くことを躊躇わない。笑顔で朝、挨拶をするように自然に撃つのだ。

 だとしたら、こんなところをのんびり歩いている暇はない…!
 こうしている間にもヤツは刻一刻とこっちに近づいてきているはずだから。
 僕は廊下の角を曲がるとすぐに足を止めて、一気に背後に向かって走り出す…!

 ――そう、女の子は常に背後から僕に襲いかかってきた。ならば、こちらから先手を打たせてもらう!
 すると予測どおり…角を曲がるとすぐそこには例の女の子が目を丸くしていた。


     「そんな…! 気づかれてた…ッ!?」
     「3回目だからね…!」

 慌ててホルスターから拳銃を抜こうとする女の子。
 だけど遅い…! その手が拳銃に届く前に、僕の工具が滑るように女の子の体を走り去る。

 ――シュッ! パチンッ! ストン…!

     「………へ?」
     「君の武器は拳銃とサバイバルナイフ。そして下着の色は今日もピンクだ。」

 軽い音を立てて床に落ちるスカート。
 風のような速さでスカートのホックを破壊しジッパーを下ろすと、続けてホルスターから拳銃を抜き取ったのだ。
 そして、残りのサバイバルナイフも――

     「しまった…ッ! ナイフは腰に近い位置だった…!」
     「ヤ…! ちょ…ッ! あなた何よ!? イキナリ何をするのよ…! ////」

 足をピッタリとくっつけてブラウスの裾を掴んで真っ赤になる女の子。
 僕はナイフの場所を拳銃と同じようにふとももの中ほどにあると思い違いしていたのだ。
 立ち位置とは反対側の足だったから確認が取れなかったせいで、ナイフを取り損ねた…!
 拳銃をバラバラに分解するとすぐさま、女の子に向かって飛びかかる!

     「ヒ…っ!? ヤ…ッ! やめてよ…!」
     「すぐに済ませるよ…!」
     「キャーーーーッ!?」

 手を組み伏せて、そのまま体重をかけて女の子を床に押し倒す。
 尻餅をついて転んだ女の子の上に覆いかぶさり、すぐに口を手で塞ぐ――大きな声を出されると見つかる…!

     「……ン…っ! ムグ…ッ!!」
     「アイタタ…! 暴れないでよね…!」

 腕を拘束され、涙目で必死に首を振り続ける女の子。
 体を押さえつけたまま視線を下へと這わせていき、目的物を目で探す――ナイフは服の下だろうか。
 ブラウスの下に手を入れようとするのを見ると、女の子はさらに手足をばたつかせて暴れだした。

     「……ッ!ぅ……!イヤ…ッ!! やだ…うぅ……」
     「ハァ…ッ! ハァ…ッ! 少しは大人しく――」
     「…ヒック……うぅ……や…め……」
     「ええぃ、はやく足を開いてよ…!」

 女の子の太ももの間に足を入れてブラウスの裾をめくりあげる――あった!
 抑えていた細い腕から力が抜け、抵抗も弱々しくなってきたのであっさりとナイフを取り上げることができた。
 これで相手を無力化することができた。

     「よし、これで沙耶さえ現れなければ――」


     「――現れなければ?」


     「何もなかった事にして………あれ? はは、ははははっ!」

 ――振り向く必要はない。
 と言うよりも、あまりの恐ろしさに振り向くことができない。
 だって後ろにいるのだ。ヤツは僕のすぐ後ろで銃を構えているに違いないのだから…!
 暑さのせいではない汗が首筋を伝い落ちる。

     「ふふっ♪ 私はだーれだっ!…あ、振り向いちゃダメよ?」
     「い、いや…その――」
     「理樹君、怖がらずに言ってごらん? 後ろにいるのは誰かな〜?」
     「ははは…っ オーケー、落ち着こう。まずは誤解を解くところから――」
     「ふふ、私の名前を呼んでよ♪」
     「………沙耶。」

 ――カチッ

     「あんたを地獄の底に叩き落す人間の名前よ…ッ!! よーく覚えておきなさい…!」
     「うひぃぃぃぃっ!?」


 ――タンッ! タンッ! タンッ!














Renegade Busters
第5話「魔術師、恋人、力、吊るされた男」











 ――ダンッ

     「帰ってきたな――ってオイ、理樹? 生きて…るよな?」
     「手ごわい敵だったわ。でも、麻酔弾と軟性ゴム弾しか食らってないからすぐに復活するわ。」
     「いや、ちょっと待て。そんな武器持ってるヤツって言えば――」
     「ええ、本っ当に不幸な事故だったわ。」
     「…そ、そうか。重症でなければいいぜ。」

 真人は身の危険を感じてそれ以上の追求を諦めた。
 いやいや、真人。これはどうみても重症でしょう。
 心の中でそう呟きながら、なんとか体を無理やり引っ張り上げる。

     「いてて…まだ痛みが引かないよ…」
     「あ、理樹君は休んでないとダメよ。疲れてるんだから。」

 ああ、そんな何事もなかったかのような笑顔で言わないでください。
 鼻歌を歌いながらダンボールの中を漁る沙耶を眺めながら、僕はため息をつく。

     「あ、オレは豚骨しょうが味な。」
     「了解。理樹君はみそ味でいいんだっけ?」
     「うん、それでお願い。」

 3つのカップルヌードの蓋をはがしてポットのお湯を注いでいく。
 お湯を注いで間もないのに、食欲をそそる香りが一気に部屋の中を満たしていく。
 世界が始まれば僕らは集まってまずラーメンを食べる…これは半ば習慣と化していた。

 ――さて、今回のループがまた始まったけど、今までと違う点がいくつかある。
 まず、剣道場を破壊したはずだから、謙吾は2度とこの世界に現れないはず。
 それから鈴の髪飾りの子とマントの外国人っぽい子が襲撃してくる可能性がある事。

     「ふぅ…まだ一人しか倒してないのか。」
     「竹刀の男の事? まぁでも強力なのが1匹いなくなっただけでも随分楽になるはずよ。」
     「そうだな…。アイツを止めるのにいつも二人がかりだったからな。」
     「この調子で次も相手を倒していけばいいのよ。ほら、真人君、理樹君、カップルヌード持って。」
     「あ、うん。」

 僕、沙耶、真人――3種類のカップルヌードを手に持ちあげる。
 グラスワインを手にチアーズ!とやるように沙耶はカップを掲げた。

     「それじゃ、竹刀の男がひとり減ったことを祝って――乾杯!」

 ――バタンッ



     「ははははっ!宮沢謙吾登場…!さぁ 理樹、真人。今日は何をして遊ぼうかっ!」

     「………(∵)(∵)(∵)」

          :
          :




 ――タンッ! タタンッ!

     「…ッ!! またノコノコ現れるなんていい根性してるわね…!!」
     「ちょっと待て…ッ! 別に戦いに来たわけじゃない!! うおっ!?」
     「剣道場破壊したのになんでさりげなく自然に復活してるのよ…! 死ね! もう一度死ねッ!!」

 沙耶の銃弾から地面を転がるように逃げ回る謙吾。
 僕も真人もカップルヌードを片手にそれを唖然と見つめるしかなかった。
 だって、剣道着姿の男――宮沢謙吾を僕は知っていたのだ。

     「ねぇ、真人。あれは…謙吾だよね? ほら、幼馴染の宮沢謙吾。」
     「ああ、不思議だがオレにもすぐ分かった。ありゃ謙吾だ。」

 ――タンッ! タンッ!

     「こんの…ちょこまかと…ッ」
     「理樹! 真人! おまえら黙って見てないでこの女を止めろ!! "記憶" は戻ってるだろ…!」
     「う〜ん、謙吾の事――今までどうして分からなかったんだろ?」
     「何でだろうな…やっぱ謙吾にバトルで勝ったからじゃねーのか?」

 ――タンッ! タンッ! タンッ! タンッ! …カチッ、カチッ

     「このッ!弾切れ…? うがーーーーーーっ!!」
     「待て!拳銃なぞで殴りかかっ――ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 謙吾に馬乗りになって二丁拳銃でたこ殴りにする沙耶。
 沙耶は謙吾の事を覚えていない…というよりも幼馴染ではなかったからそれは当たり前か。
 でも急に謙吾のことを思い出せたのはなぜだろうか。やはり真人が言うようにバトルで倒せば自然と相手の
 事を思い出せるのかもしれない。

 ――バキッ! ボコッ! ドス! ズガッ!

 でもそれは、元々知っている相手を忘れていた事を前提とするはずだ。
 元々知っていた…? なら謙吾に限らずあの写真の中の人たちも全員元々知っていた事に…

 ――ガスッ! ゴシャッ! ドゴッ! ベシ!

 あの集合写真には僕も真人も謙吾も一緒に写っている。
 それに鈴の髪飾りの子もマントの子も日本刀の inserted by FC2 system