もう夜中の3時を過ぎた頃だろうか―― いつものループの始まりと同じように、僕は校舎の前に立っていた。 「………」 今まで何度もこの世界を繰り返してきたけど、未だかつてここ以外の場所から始まった事はない。 この世界でそう決められているのだろうか。 あるいは、ある時点から僕らが動けないだけなのかもしれない。 ――死んでも次のループには生き返っている繰り返しの世界。 僕らがいるのは壊れてバラバラになった世界。 何のために僕たちはここにいるのだろう? 「さてと…教室にノートを取りに行かないと…」 鍵のかかっていないドアを見つけるとそのまま校舎に侵入する。 真人に貸したノートを返してもらおうとしたら、よりによって自分の机の中に絶賛放置中。 おかげで僕はこんな夜中に教室へノートをとりに行かなければならなかった。 ――世界が始まるとなぜかいつもその記憶とノートを取りにかなければ、という意志が強く働く。 誰かが僕に呼びかけているのかもしれない。 窓にはぼんやりと浮かぶ青白い月。 昼間のいつも見ている学校とはまったく違う風景が広がっていた。 僕は真っ暗な廊下を火災報知機の赤い非常灯を頼りに進んでいく。 ――コツ…コツ… コツ…コツ………。 (正面か…背後か、いや! 上や下からかもしれない…!) 自分でもビクビクしているのが分かるぐらい、辺りをしきりに見回していた。 このまま何もせず歩いていれば沙耶に一方的にやられるのは明白。 かといって中途半端な反乱を起こしてもすぐに鎮圧されるのは目に見えている。 ――コツ…コツ… コツ…コツ………。 だがしかし何もせずには終われない。 なんとか誤解を誘う行動は避けて男の威厳と尊厳を取り戻さなければならない。 ――コツ…コツ… コツ…コツ………。 いくら哀願しても沙耶は無慈悲だ。 情に訴えるよりもなるべく何もしないでいた方が生存率は上がりそうだけど―― 「…………………………………………あれ??」 立ち止まって僕は振り返る。 僕の最後の足音が虚空に消え、あたりには水に沈んだような静けさと深海のような暗闇しか残っていない。 不可避の危難が現れない――つまり、沙耶が仕掛けてこないのだ。これは罠か…? きっと、僕が何かしようとした時に後ろから銃声が聞こえて地面に倒れているとかに違いない。 ――タッタッタッ…! 「!」 背後から僕に走り寄ってくる少し甲高い靴の音。 これは沙耶じゃない。世界の始まりにいつも僕に襲い掛かってくる女の子の足音だ。 仕方がない…! なるべく誤解のないような倒し方をしなければ…! 「そこの男子生徒…!」 「どこから来るのか、どのタイミングで行動するのか、どのような手段で制圧するのか―― 常に同じ最適解をたたき出すキミにとってこの世界は相性が悪過ぎるよ。」 「きゃっ!?」 ――シャッ…ズズーッ、ベタッ 床に転がっていたガムテープを引っつかむと、女の子の足元にスライディングして転ばせる。 その宙に浮いた両足をガムテープでぐるりと拘束し、右腕を取ってうつ伏せに地面に叩きつける…! ――ダンッ! 「イタッ…この、よくも――ンムム…ッ!?」 「磔刑に処す。」 約1.5秒といったところか―― 口をガムテープで塞いで、同時に女の子の両腕を背後に回してガムテープでぐるぐる巻きにする。 この倒し方なら何もいやらしい部分など何もないはず…! 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」 「完了……沙耶、これなら問題ないよね? おーい沙耶! いないのかな?」 暗闇に小声で呼びかけるも反応は返ってこない。 まだ様子を窺っているというのだろうか、だけど辺りからは沙耶の気配がまるで感じられないのだ。 「おーい、沙耶ってば。これから女の子を武装解除しよーかなー?」 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!??」 足元でもがく女の子が一際大きな反応を見せるが、沙耶からのアクションは何も返ってこない。 おかしい。普通ならここで容赦のない沙耶の飛び蹴りか、無慈悲な鉛玉が飛んでくる場面なのに―― 訝しんで抜き足差し足でロッカーや柱の陰を隈なく探索する。 人が隠れていそうなところ、あるいは不自然に人の手が加わっている所を見つけ出そうとする。 いや、沙耶はこの様子をどこか遠くから見ていて、スナイパーライフルで僕を狙い打とうとしているのかもしれない…! 慌てて僕は拘束した女の子を引っ張って窓際の壁を背に姿を隠す。 「………」 「むーっ、むーっ!」 1分経過。 これは本格的におかしい。沙耶なら僕が姿を消した時点で警戒水準を超えたと判断して壁ごと僕を吹き飛ばすはず…! なのに、暗闇からは拘束された女の子の息遣いと身をよじったときの衣擦れ音しか聞こえない。 「ん…! んむーっ」 「………」 「んん…っ んむ…んん……」 「………」 呼吸と共に上下する胸のふくらみ。 身体を動かすたびにブラウスのボタンの隙間から白い素肌が覗いている。 視線を下にスライドさせていくと捲れたスカートに真っ白なふともも。 …ここなら、誰も見てないよね? 「よ、よし…これは危険だから武装解除しなければいけない。うん、危険だから武装解除だ。 大事な事だから2度言った。」 「――ッ!? んむむむむ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」 膝小僧に手が触れると、女の子はびくっと体を震わせて逃げようとして上体を起こす。 今にも泣き出しそうな表情だ…だがこれは仕方の無い事なのだ! 「す…すぐ終わるから騒がないでね?ね?」 「〜〜〜ッ!?」 「おーっと、縛られて無抵抗になった女の子に理樹クンが襲い掛かった!(><)」 「黙ってて! さてナイフはどこに――」 「〜〜〜〜っ!!!」 「必死に首を振って逃げようとする少女。その表情に男は興奮した様子で少女の服に手をかけたっ」 「ナイフを発見! あとは拳銃…!」 「〜〜〜〜っ!!!」 「はじけ飛ぶボタン、前の開いたシャツ。次に男の手がスカートの中に入ってくるのが分かると少女は 激しくかぶりを振ってその手から逃れようとする!」 「あれ、拳銃はこっち側じゃなかったか――」 「ッ!!?」 「身体をまさぐられているうちに少女は抵抗する気力を失い、ただ嗚咽を漏らして男のされるがままだっ。 唇を貪られ、胸を乱暴に触られ、早くこの時間が過ぎる事だけを考えていたっ」 「拳銃発見! よし、これで武装解除完了だ。」 「…っ………っ…」 「焦った様子でベルトの金具を外す男。それを見た少女の表情が凍りつく。これから何をされるか悟った 少女は最後の力を振り絞って抵抗を試みるが、細い腕は掴まれその小さな体に男が覆いかぶさり――」 「誰もそんな事してないよねっ!?」 「ひゃうっ(><)」 振り返って思いっきり葉留佳さんに突っ込む。 な、なんて事を言うんだ! 案の定、腕を組んでイタズラっぽい笑みを浮かべているし…。 「いやー、でも理樹クンも男ですなー。ふっふっふ、誰も見てないのを確認して事に及ぼうとするとは。」 「違うってば。相手の武器を取り上げていただけなのに、何でそんな展開になってるのさ!?」 「まぁまぁ、多少は役得とか理樹クンだって思ってるハズですから……………あれ?」 「……っ………ん、んん?」 拘束されて床に転がっている女の子と葉留佳さんの目が合う。 そういえば何だかこのふたり、よく見れば似ているようないないような―― 「…お姉ちゃん?」 第9話「星」 「死ねっ! 死になさいよっ! 氏ねではなく死ねっ! 今すぐ死んじゃえっ!!」 ――ドゴッ! バキッ! 「ぐぼッ!? いや、ちょ…待っ…」 「私の服の中に手を入れたとき胸触ったでしょ!? 膝立てたときに顔近づけてずっとパンツ見てたでしょ!?」 「あれは拳銃を探すために――んごあッ!!?」 ――ズドッ! ドスッ! 「あわわわわ…お姉ちゃんがキレた…。」 「どうして私が拳銃を持ってるなんて知ってるのよ!? 痴漢っ!変態っ!このヘタレっ! あなたなんて足蹴にされるのがお似合いよッ!! 玄関マットのように踏まれて人知れず社会に役に立つが良いわ…!」 「ギャッ!? いやでも、僕だっていきなり襲われたワケで――」 「馬鹿なの? 死ぬの? 襲われたのはこの私よッ! この変態ッ! 変態ッ! 変態ッ! 変態ッ!!」 「ぎゃはーっ!? は…葉留佳さん、助けて――」 ――ダンッ! 「ウギャッ!?」 葉留佳さんに助けを求めて伸ばした手は踏みつけられたっ! 「あなたは乙女の純情と純潔を蹂躙したのよッ! 私だっていつかは好きな人ができたりして、その人に ロマンチックに抱きしめられてなんて考えていたのに…!! 私、お嫁にいけない…っ う…っ」 「いかない方が世界のため――のぎゃッ!?」 靴の裏で横っ面を踏みにじられ、容赦ない罵倒が頭上から浴びせられる。 ガムテープの拘束を全て剥がして笑顔で自己紹介しようとしたところ―― ものすごい勢いで詰(なじ)られ蹴られ殴られ踏まれ、一方的虐待が続く事およそ10分間。 こうして今、二木さんは顔を真っ赤にして無様に地を這いつくばる僕を冷たい目で見下ろしているのだ。 「お、お姉ちゃん。そろそろやめないと理樹クン、ホントに死んじゃう…」 「葉留佳は黙ってて。この男の臓物をひきずりだして、毛の生えた心臓を踏み潰さないと気が済まないわ。」 「でも、理樹クンもそんなつもりじゃないって言ってるし…」 「わ、わざとじゃなかったんだから、許し――」 ――ドゴッ! 「 顔 を 上 げ る な 」 「は、はひ…」 後頭部を踏みつけられたまま返事する。 「私はね、"目には目を、歯には歯を" って報復の考え方は好きじゃないの――」 「おー、お姉ちゃん。意外に情け深い。」 「そ、それじゃ――」 「ええ、"目には目を、歯には歯を" じゃ、決して目を潰した相手の命を奪ってはいけないし、歯を折った相手を 地獄に叩き落せないもの。この言葉は本来そういう意味よ。覚えておきなさい。」 「ひ、ひ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」 拳銃をこめかみに突きつけて薄っすらと笑みを浮かべる。 沙耶で何度も経験した――こいつの目は本気だ。 「目を閉じて好きな歌でも口ずさむといいわ。気も紛れるし、辞世の句としては申し分ないでしょ?」 「ちょ、そんな――」 「さようなら」 : : ――タンッ!…タンッ! 「あはは。今日はとってもいいお天気。こんな日のお散歩はとっても気持ちがいいの。あはは――」 校舎前―― 星の無い夜空を見上げて狂ったように笑い続ける白いセーターの少女。 届くはずの無い空に手を伸ばし、見えないはずの太陽に声を上げて笑う。 栗色の髪の片方を解いて星の髪飾りを手に握り、瞳孔の開ききった眼でひたすら夜空へ笑いかける。 まるで私がこの空から星を奪ってやったのよ、と言わんばかりに。 「おかしい…いくら撃っても手ごたえがないなんて…!」 「……あははっ、1、2、3…」 空の薬莢だけがいくつも地面に音を立てて転がる。 まったく…世界が始まればまず理樹君の暴走を止めるのが私の使命だというのに…! 今頃、どうしてるのかしら? …考えるまでもないか、お楽しみの真っ最中だろう。 そんな想像にイライラしながら、私は弾倉を詰め替えてもう一度狙いを定める。 「…シュート」 ――タンッ!タンッ! パンッ!パンッ! この距離ならまず外さない。 身体の中心に2発、頭に2発。完璧にぶちこんでやったはずだ。…なのにまるで応えない。 魔法か何かで消えてしまったように体表面に衝突した銃弾が消滅してしまう。 「4、5、6……ふふっ」 この子もなにか変な力を持っているのだろうか。 クドリャフカのように相手を見ただけで殺せる能力や、理樹君のように瞬時に武器や道具を製作できる能力。 何の制限も無いこの世界では相手が何を願ったかで強さが決まるようなものだ。 「あはは! 7、8、9――」 「ああもう…! さっきからあなたは何を数えているのよッ!?」 「…ねぇ、数字ってあるでしょ?」 空を見上げて笑うだけだった少女が無表情に私に話しかけてきた。 光を宿さない眼、ひたすら不気味な空気、そこにいるだけで何か世界から違和感を感じる。 私は構えた拳銃を下ろさずに答える。 「それがどうしたのよ?」 「こんな風に数字をね、1から順番に数えていったらどこまで続くと思う?」 「…いつまでだって続くわ。数字なんて無限に数えられるんだもの。」 「あはは、それは違うと思うな。」 「どうしてよ?」 「――世界中の人が協力してずっと数えていても、いつか必ず数える人がひとりもいなくなるから。 あははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」 「ふざけないでっ!」 「――お願い事ひとつ。この世界から銃なんて消えてしまえばいい。」 : : 「………? 私のベレッタは??」 顔を上げると不思議そうに何も持っていない手を見つめる二木さんが見える。 僕は何もしていない…という事は葉留佳さんが拳銃を取り上げてくれたのか。 さすがに殺されそうだった僕を助けてくれたのだろう。 「ちょっと葉留佳、私の銃を返しなさい!」 「え? 私知らないよ?」 「? それじゃ、ドコにいったっていうのよ??」 二木さんは僕の頭から足をどけて自分の体をチェックし始める。 拳銃が消えた? 葉留佳さんが二木さんの銃を奪ったわけじゃないのか…? ようやく頭から足をどけられて起き上がることができた。 「アイテテ…危うく殺されかけるところだった…。」 「おかしい…。拳銃の残骸すら残っていないし、持っていた予備の弾もないわ。」 「理樹クンが分解したワケじゃないよね? まぁ、とりあえずここから出ませんカ?」 「…そうね、銃殺はやめておくわ。命拾いしたわね。ふん!」 鼻を強く鳴らし踵を返して歩き始める二木さん。 なんだか知らないけど本当に命拾いしたようだ。あの雰囲気じゃ説得なんて通じなかっただろうし、 何かの偶然によって助かったらしい。 「ふぅ…危なかったよ。」 「あはは。まー、銃がなくても他に武器があれば人は殺せるけどネ。」 「…忘れていたわ、いい事言うわね葉留佳。そういえばナイフも持っていたっけ――直枝、やっぱり死刑。」 「……(゜д゜)」 : : 「世界から銃が消えて兵隊さんたちは戦争ができなくなってしまいました。これで世界は平和。あはは!」 「はぁ? はぁ?? はぁ??? 」 手に持っていたはずのオートマチックがどこにもない。 相手はひとり…誰かに奪われたというわけでもないし、自分から捨てたなんて事もない。 だけど拳銃ならもう1丁ある……………………………いや、すでに無くなっている!? 「…あなた、何をしたのよ?」 「小毬ちゃんは世界中の人たちをちょっとだけ幸せにしました。ふふふ…」 「マジメに答える気は無いってワケね…っ」 この子は確かに言った――この世界から銃なんて消えてしまえばいい、と。 私は隠し持っていたサバイバルナイフを握り締めて真正面からダッシュする…! 拳銃を消されたならば、ナイフで片付ければいい…! 「でも、それだけじゃ兵隊さんたちは戦争を止めません。そこで小毬ちゃんはお願いしました。 ――この世界から人を傷つける武器なんてなくなってしまえばいい。」 「〜〜〜っ!! また…!」 手から消えるナイフの重み。 それだけじゃない!身体がいつもより軽い…! これは私の持っていた装備は全て無くなってしまっているのだ。 拳銃もナイフもプラスチック爆弾も何もかも武器と呼べるものは全て消えてしまった。 武器を失った私は慌てて相手の女の子と距離を取る。 「ふふっ、武器がなくなったおかげで、また少しだけ世界が平和になりました。」 「…戦争が起こるのは政治均衡と経済バランスが崩れるからよ。武器があるから戦争が起こるわけじゃないわ。」 「ふぇ〜?」 十分距離が空いたのを確認して半身に構え、相手の攻撃に備える。 気味が悪すぎる――この子の望んだとおりに実現しているというのか。 澱んだ目、半開きに笑みを漏らす口、支離滅裂な言動――まるで得体が知れないのだ。 「あなた…何者かしら? この世界で何を願ったの?」 「私は小毬ちゃん。あははっ お願い事なら世界が平和になりますようにって何度も何度も願ったよ? 世界から悲しみが消えますように、血も暴力もみんななくなりますように、みんながもう少し優しくなりますように、 そして私の願い事が叶いますようにって。 私はね―― : : 「…ちょっと、直枝。」 「え、何さ?」 ――ボカッ! 「痛っ!? ってイキナリ何するのさッ!?」 「今度は私のナイフ奪ったでしょ? スカートの下に入れてたのを取ったわねっ!? ///」 横っ面をグーで殴った後、ジト目で僕の顔を下から覗きこむ二木さん。 そんなに睨まれても正直何のことだか分からない。 「痛い…葉留佳さんじゃないの?」 「え、違いますヨ? お姉ちゃんの前に立ってたのは理樹君だけで、私はその後ろにいたのですカラ。」 「僕も違うしきっと二木さんの勘違いだよ。」 「そんなはずは無いわ。だってここに収めてたナイフが無くなってるもの。見てごらんなさいよ――」 「わ、お姉ちゃん…」 スカートをめくり上げてふともものカラのナイフケースを見せる。 確かにナイフは見当たらない。結構大きなナイフだから落ちていればすぐに見つかるはず。 「間違ってベルトの後ろに挿したんじゃないかな?」 「違うわよ。ほら、ないでしょ? そんなところにあったらすぐに気づくはず――? 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ////」 「ひゃうっ(><)」 ――ドゴッ! ボカッ! 「げはっ!? ぶった!? 二度もぶった!?ていうか2発目は回し蹴り!?」 「み、み、見たわね…ッ!? 鼻の下伸ばしてガン見してたわね…っ!!」 「でも二木さん、見てごらんなさいって――」 ――ボカッ! 「う、うるさい…! あなたが目をつぶって見れば良かったのよ…っ!」 「えー」 「く…っ! ナイフまで無くなるなんて何なのよ? せっかくの解体ショーが台無しよ…!」 「まぁ、お姉ちゃん。やりすぎると理樹クンの命に関わるから…。ね? もうそのくらいでよしておこう?」 「葉留佳…」 よーしよしと妹に頭をなでられる二木さん。 葉留佳さんに宥められて心が落ち着いたのか、二木さんの表情が少し和らいだ気がする。 今度こそ助かったのか? さっきは余計な事言って僕が窮地に陥ったりしたけど… 誤解していたよ――葉留佳さんってイタズラ好きで迷惑過ぎるけど、本当は根が優しくいい子なんだ。 「ありがとう、葉留佳さん。」 「直枝、今日のところはナイフが無いから特別に許しておいてあげるわ。さ、行きましょ!」 「やはー、でも武器が無ければ手と足で撲殺すればいいのですヨ。」 「…それもそうね。」 「やっぱり僕を助ける気なんてこれっぽっちもありませんよねっ!?」 一歩にじり寄る二木さんを前に、僕は一歩後ずさる。 ダメだ、こいつら。早く何とかしないと…! 二木さんと仲のいい誰かが親身になって止めなければ、僕の死は確定的だ。 誰か二木さんと仲がいい人で僕を助けてくれそうな人…! 「――! クドだ…! クドならこの状況をとめる事ができる…!」 : : 「はぁーっ? はぁーっ?? はぁーっ??? 」 目の前の少女は言った――私は願いが叶う事を願った、と。 反則というレベルではない。それは世界のルール自体を変えられる事を意味している。 「ちょっと待ちなさいよッ!? それってあんたが願えば私なんて一瞬で世界から消し去る事ができるって事? 自分の誕生日を国民の祝日にできるって事? 学食に私専用メニュー作ったりとか許されるワケっ!?」 「ふふっ 1、2、3――」 「プールサイドでパラソルなんか差して缶ビール片手に寛いで、執事にお嬢様とか呼ばせたりできるって事!? リムジンから降りたら黒服が赤い絨毯をササーと引いてくれて、高笑いしながら歩けるワケ!?」 「危険な人がいなくなればきっと世界は平和。あははっ! 4、5、6――」 「いえいえ! 世界中のカネを集めまくるのよ…! 円を、ドルを、ユーロを、ペリカを! ふふふっ、なんて素晴らしい能力なの?――ってあなた。さっきから何を数えて…いえ、まさか――」 「7、8、9――ふふっ、お願い事ひとつ。あはは…」 俯いた顔から薄ら寒い笑い声が漏れる。この子の言葉は全て実現する。 吐き出す呪詛は奇跡の言葉。物理を、因果を、現実を捻じ曲げ、あり得ぬ世界を形作る。 この世界にいる限り、彼女に敵はいないだろう。 だけどこんな反則と戦えるとしたらひとりだけ…! 「クドリャフカ…!」 【次の話へ】 あとがき EXの小毬バッドエンドには震撼した…。 海鳴り |