授業が終わってすぐの事―― 「ごめん、もう行かなきゃ…! それじゃみんな、それお願いねっ」 机の上には何枚かのプリント。 それを残して小毬は慌しく教室から飛び出していったのだ。 「恭介、なんだよそれ?」 「イヤ知らん。ただ小毬はこれを俺たちに頼むと言っていたが――」 プリントを手にとって首を傾げる。 それを覗き込んだ真人も何なのか分からないようだった。 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ ( ) 棗鈴 ( ) 来ヶ谷唯湖 ( ) 西園美魚 ( ) 能美クドリャフカ ( ) 三枝葉留佳 ( ) 神北小毬 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ 「で、神北は肝心の説明をせずに行ってしまったわけだが…」 「うん、でも何か途中までは喋ってくれてたね。2月14日は空けておいてくれって。」 理樹と謙吾も何を意味しているのか分からないようだった。 男4人が机のプリントを囲んで腕を組んで唸る。 「…なぁ、気付いたんだがこれって――」 「お、真人。何か分かったのか?」 「オレたち、この配置と人数なら麻雀できるんじゃね?」 「いやいや、ルールとか知らないでしょ。」 「ん?もしかしたら――」 「お、謙吾。何か気づいたのか?」 「10円玉があれば小毬の真意が分かるかもしれないな。」 「いやいやいや、何をするつもりなのさ?」 うーん、と再び唸ると俺たちはプリントを見つめる。 女子の名前が書かれていてその横にはカッコがついている。そして一番のヒントは2月14日――バレンタインデーか。 「バレンタインデーと女子、このあたりがヒントになりそうだな。」 「そうだね恭介。小毬さんはそこに何かを書いて渡してほしいという感じだったよ。」 「けどよ、書くって何を書きゃいいんだよ?」 「それは分からないけど…」 「数字か文字か…はたまた記号なのかもしれないな。」 謙吾もプリントを片手に呟く。 小毬は風紀委員会の掃除の手伝いで借り出されていない。 さて、説明無しでは状況証拠を集めてそこから真実を推測するしかないだろうが… 「ん…? つまりそういう趣旨か。このプリントから俺達で内容を予想して、それぞれが答えを書く。」 「なるほどな。だから神北は説明しなかったのか。」 「そういうこった。よし、まずは理樹。小毬が何か説明しようとした時に気づいた事はないか?」 俺の言葉に理樹は少しだけ考える素振りをして気付いたように口を開く。 「そういえば小毬さん、顔がちょっと赤かった気がする…。」 「お、顔を赤らめていたのか。それは重大なヒントだな。謙吾、他には?」 「ふむ、バレンタインデーは日曜日で学校も休みだから何か企画しているのかもしれないな。 あとはこのような紙に書いて渡せと言っていたのだから、人には見せられない類の事かもしれないぞ。」 「それはいい線をついてるな。真人はどうだ?何か気づいたか?」 「今気付いたけどよ…麻雀はだめでもドンジャラならできそうじゃね?」 「よし、ヒントは十分だ。あとは各自書いた後、小毬に渡すことにしよう。」 パンッと手を叩くと、俺たちはプリントを手にそれぞれ散っていく。 「はー疲れたよ、唯ちゃ〜〜ん…」 「うむ、お掃除お疲れ様。がんばったよい子にはご褒美としてお姉さんがポッキーをあげよう。」 「わーいっ」 うれしそうにチョコポッキーを咥えてバンザイのポーズをする小毬君。 その様子を鈴君が猫のように目を動かして目で追っている。 「ところで例のものは少年たちにはちゃんと渡したのかね?」 「うん、バッチリ渡したよ〜。あ、それから日曜日はみんな用事もないって言ってたし〜。」 「あー日曜日の野球の練習ですネ。ところで姉御、そのプリントって何かの企画?」 「違うぞ。我々が部室の使用許可を得るのに部長と副部長を決めなければならなくてな。部長は理樹君がやる事で決まった けれど、これは副部長を女子の誰にするか投票するものだ。」 「あ、そうだったんだ〜。こまりちゃん、知らなかったよ〜。」 「…いったい神北さんは直枝さんたちにそのプリントについてどう説明されたのですか?」 西園君の呆れたような言葉に、舌をペロッと出して曖昧に笑う小毬君。 「えーと…ごめん、美魚ちゃん。説明するの忘れてしまいました。待っててね、これからもう一回――」 「おっと待ちたまえ小毬君。その必要はないぞ。」 「へ?」 私の制止に小毬君の足が固まる。 「少年たちは説明無しでこのプリントだけを渡されたわけか。つまり何を書けばいいのか分からない。 これほど時間が経っているのに何も連絡が無いということは、恭介氏の事だ。おそらくは自分たちで内容を考えて書いてくる。」 「あ〜、確かに恭介くんならありえそうだね。」 「ふふ、たとえばそう。14日=バレンタインという偶然に惑わされて、何かとんでもないことを書くかもしれない。」 「とんでもないこと…(・ω・)???」 なにか今ひとつ掴みきれていないクドリャフカ君に微笑む。 そうなのだ。小毬君が14日の予定を確認してこのプリントを渡したのなら、ひょっとすると恋愛絡みの事と勘違うかもしれない。 すると葉留佳君がハッとしたように口を震わせながら呟く。 「ああああ、姉御。それってこれを見てチョコレートを欲しい人に丸を付けたりとか――」 「うむ。それはある意味、意中の女子に丸を付けることになるかもしれないな。はっはっは。」 「わふっ!?(>ω<)」 「にゃにぃ〜〜〜っ!?」 「なんですって〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」 笑顔で頷いてやると今度は鈴君とクドリャフカ君が目をまん丸にする。 で、さらにその二人の間から声を上げた人物―― 「ちょっと待ちなさいよ…! それって恭介く――棗先輩も書くのよねっ!?」 「わ、お姉ちゃん。どこからやってきたの!?」 「神北さんがちりとりと自分のカバンを間違えて持っていってしまったから……いえ、そんな事はどうでもいいのよ!」 それで…! それは棗先輩も勘違って好きな人の名前に丸を付けるって事なのね!?」 「佳奈多君、落ち着きたまえ。まだ彼らが勘違うと決まったわけではないぞ。」 「わ、分かってるわよ…! はい、神北さん。あなたのカバンよ。」 「あははー。なんかヘンだと思ったら、カバンじゃなくてちりとりだったんだね〜。ドンマイっわたし☆」 小毬君は頭をコツンと小突いて首を傾げる。 「…しかし来ヶ谷さん、そのプリントは誰が受け取るのでしょう? 副部長投票の場合でしたらともかく、 その…男子の意中を知ってしまうことになれば、それを見てしまうというのは――」 「ふふ、何が書かれているかは開けてみなければ分からない。必然誰かが必ず見てしまう以上、その機会は全員に 均等にあるべきだろう。なに、問題はない。言ってしまえば勘違いして書いた者の責任だ。」 「……はぁ。分かりました。」 西園君は軽くため息をつきながらも、どこか期待混じりな視線をプリントに這わせていた。 「はっはっは。そういうわけで少年たちの健闘を祈ろうじゃないか。」 : : その日の夜―― 「理樹、謙吾、真人、そして俺の4人分のプリントだ。一応それぞれ別に封筒に入れておいた。」 「うむ、ごくろうさん。確かに受け取った。」 「答えは俺たちなりに真剣に考えたつもりだ。じゃ、よろしく。」 片手をポケットに突っ込んで背を向けて歩いていく恭介氏。 女子寮の入り口から完全に姿が見えなくなるのを確認して、私も部屋に戻ることにした。 「………///」 「………(ドキドキ」 「わふわふっ(・ω・)」 「あああ、姉御〜っ」 「………っ」 部屋に戻った私を待ち受けていたのは期待と不安に満ちた12の瞳。 手に持った4つの封筒に穴が開くほどの視線が集まる。 私の寮の部屋に集まったのは、小毬君、鈴君、西園君、葉留佳君、クドリャフカ君、それから… 「………キミはいったいなんなんだ。」 「私は副部長選挙が公正に行われているか、風紀委員長として監査する義務があるのよ。わ、悪いかしら?///」 佳奈多君は顔を真っ赤にしながらボソボソと呟く。 「やれやれ…好きにしたまえ。さて、ネタは揃った。ここには我々が知りえなかった真実とそれが意味する バラ色の未来が綴られている………………………………………………かもしれない。」 「く、来ヶ谷さん。前置きはいいのです…!」 「まぁ焦る事はないぞ、西園君。みんなもそれぞれ胸に秘めた思いがあるのだろうが、あまり期待はしないことだ。 ごく普通に副部長の投票が書かれていればガッカリだろうに。」 「だ、だとしても…それは副部長をやって欲しい人が書かれてるわけですよネ?」 「たしかに私たちの評価みたいなものが書かれている事に違いないのですっ(>ω<)」 「………(ゴクリ」 ――パサッ 「まずはひとつめ。誰のものか分からないが開封するぞ。」 「うにゃ〜〜〜っ 緊張する!さっさとあけろっ」 「わふ〜〜〜っ お願いしますですっ! きっといい事が書かれているです!」 「あわわわ〜っ ちょっと待って、心の準備が――」 「お、落ち着くのよ。わ、私は何が書かれていても大丈夫…!」 「おおおお姉ちゃんが一番落ち着いてないですヨ!?」 「………っ」 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ (なつめりん) 棗鈴 (くるがやみずうみ) 来ヶ谷唯湖 (にしぞのさかな) 西園美魚 (のうびくどりゃふか) 能美クドリャフカ (さいぐさはるか) 三枝葉留佳 (かみきたこまり) 神北小毬 テストで100点とるのはひさしぶりだぜ。 井ノ原真人 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ 「………(∵)」 「………はぁ?」 「………確かに真人少年には期待していなかったが――」 一同はプリントに書かれた汚い文字を見つめて固まる。 これまで膨らませてきた期待も胸の高鳴りも一瞬にして平常時以下に戻った。 「…まさか漢字の読みを書いてくるとは予想外だった。」 「それにこの根拠のない自信はいったい井ノ原さんのどこからくるのでしょうか。私はさかなさんではありません。」 「あ、私の名前はちゃんと合ってるよー。」 「姉御、みずうみって、コレ何?」 「バカだな。まぁ、あたしの名前は合っていたが。」 「のうび…のうび…井ノ原さんは私の苗字すら知らなかったのですね…orz」 「っていうか、なんで私の名前がどこにもないのよっ!?」 「あ、私の電話鳴ってる――真人くんからだよ。」 ――ポチッ 『おい、小毬か?』 「真人くん。どうしたの〜?」 『あのプリントだけどな、オレのはもう見ちまったか?』 「あはは〜うん。もう見ちゃったよ〜。」 『おっと…遅かったか。実はな、今更だがひとつ間違いに気付いてな。クー公の名前なんだが――』 「わふっ!? やっぱり井ノ原さんが間違えたのは何かの間違いだったのですよ!(>ω<)」 『姓と名前の間に☆を入れ忘れてたぜ。オレとしたことがうっかりだ。……ん、小毬。誰かと一緒にいるのか?』 「…あはは〜っ 真人くん。私の横でのうびさんが落ち込んでるよ。」 『ノービ?? だれだそりゃ? まぁそれじゃよろしく頼むわ、それじゃな!』 ――ブチッ 「………orz」 「☆ではなく=だったら外人さんっぽいですから、あながちはずれでもありませんね。元気出してください、能美さん。」 「…真人少年だからある程度は仕方ないだろう。さて、次に行こうではないか。」 「そ、そうですネ。次に期待なのですヨ!(><)」 ――パサッ 「ふたつめだ。では開封するぞ。」 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ #好きな人を当てる企画? ( 絶対理樹 ) 棗鈴 ( 誰か分からん ) 来ヶ谷唯湖 ( たぶん理樹。大穴で恭介 ) 西園美魚 ( 理樹か真人で迷ってる ) 能美クドリャフカ ( かなり理樹 ) 三枝葉留佳 ( まぁ恭介だろう ) 神北小毬 ( 恭介激ラブ☆ )二木佳奈多 理樹が欲しければ俺の屍を乗り越えてゆけ 宮沢 謙吾 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ 「ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜何コレっ!?(><)///」 「み、み、見るにゃーーーっ!!///」 「なな、なんで最後に私の名前があるのよーーっ!!?///」 私の部屋は修羅場と化した : 「なんというか、宮沢少年は色々心得てくれたようだな。よもや向こうから反撃されるとは…」 「そ、そうね。でも、まぁこれは飽くまで宮沢の憶測に過ぎないものなのよ。」 「お姉ちゃんが一番取り乱してたけどね。」 ――ポカッ 「アイタッ」 「それにしても…宮沢さん。ここまで的確に人間模様を観察していたとは…」 「え?って事はみおちん、理樹くんが――」 ――ドスッ 「あぎゃ!?」 日傘をみぞおちに食らって悶絶する葉留佳君。 みんなの輪の中心に置かれたプリントに視線を落とす。 理樹君には鈴君、葉留佳君、場合によってはクドリャフカ君に西園君も…か。 「………」 「ね、ねぇゆいちゃん。そろそろ次の封筒、開けてみないかな?」 「おっと小毬君。そうだな…まぁ盛り上がってきたじゃないか。こうも盛大に勘違ってくれたわけだ。 恭介氏と理樹君にも多大な期待を持っておいて間違いなさそうだな。はっはっは。」 「残るはバカ兄貴と理樹だな…///」 「そうね…お、落ち着くのよ佳奈多。大丈夫、きっと大丈夫…。」 「あ、私の電話鳴ってる――今度は謙吾くんからだよ〜。」 ――ポチッ 『神北、もうあのプリントは見たか?』 「うん。ちょうど今見たところだよー。」 『ああ、それな。来ヶ谷のところなんだが分かったぞ。来ヶ谷の好きな男子は――』 ――ブチッ、バサッ 「わわ、ゆいちゃん! 電話切っちゃった――」 「………」 「………」 「……(・ω・)」 「ありゃ、姉御の好きな人って――」 ――ゴスッ 「ぎゅえっ!?」 「はっはっは。さーて、みっつめだ。心の準備はできているか?」 悶絶する葉留佳君を脇目に、私は封筒から折りたたまれたプリントを取り出す。 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ ★バレンタイン企画★ 〜日々の感謝をこめて恭介さんがみんなのお兄さんに!〜 ( 五女 ) 棗鈴 ⇒猫耳をつけて甘えるように『おにーちゃんっ』 ( 長女 ) 来ヶ谷唯湖 ⇒ちょっと怒った感じで『おにぃ!』 ( 四女 ) 西園美魚 ⇒上目遣いで不安そうに『おにぃたん…』 ( 六女 ) 能美クドリャフカ ⇒裸にマントで『おにいちゃ〜ん』 ( 三女 ) 三枝葉留佳 ⇒元気に後ろから抱きついて『お兄ちゃん!』 ( 次女 ) 神北小毬 ⇒抱っこされて笑顔で『おにいちゃん♪』 チョコも妹も受付中☆当日は楽しみにしてるぜ! みんなの恭介お兄ちゃんより +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ 「………」 「………」 「………」 「………死ね、ヘンタイ。」 即座に反応できた鈴君以外はすべて石のように固まった。 「裸にマント…裸にマント…裸にマント…ああ……っ」 「恭介さん、あなたという人は…不潔です。それよりもカッコの中に書いているのはなんですかっ!?」 「抱っこでおにいちゃん……抱っこって、恭介くんがこまりちゃんを抱っこかな?かな?あわわ…っ///」 「あははー。とりあえず恭介くんは半殺しなのですヨ。」 「抱きついて…恭介君に後ろから抱きついて――ちょっと葉留佳、後でいいかしら?」 「はっはっは…さすが恭介氏。冗談というものの程度を知らないらしいな。お姉さんは感心したぞ。 ――ただ、"ちょっと怒った感じで" という注文だけは難しいな。はっはっは、はっはっは、はっはっは。」 「あ、私の電話鳴ってる――あはっ、恭介くんからだよ〜♪」 ――ポチッ 『小毬。大事なことを書き忘れていた…!』 「恭介くん、何かな〜?」 『バレンタインスペシャルは全員小学生という設定で頼む。……ん?誰かと一緒にいるのか?』 「あははー、私のお姉ちゃんが日本刀握ってものすごく怒ってるみたいだよー。」 『ん?小毬に姉なんていたのか?』 「なんでもないよー、恭介君くん。それじゃね〜♪」 『あ、ああ。バレンタインは楽しみにしてるぜ! 鼻血が出そうなぐらいのチョコレートもな!』 ――ブチッ 「恭介くん、楽しみにしてるって〜♪」 「 鼻 血 程 度 じ ゃ 済 ま ん が な 。 」 私の呟きに小毬君と佳奈多君以外の面々が深く頷く。 : 「あの、来ヶ谷さん! これが最後ということは、これはリキのものという事なのですねっ!?」 「ふむ、そういう事になるな。」 「わふわふ…」 クドリャフカ君が残ったひとつの封筒を穴が開くほど見つめる。 真人少年、宮沢少年、そして恭介氏と開封してきた。残るひとつは理樹君のものだ。 「あはは…なんだか緊張するネ、鈴ちゃん!」 「そ、そうだな、はるか。だがりきだから真面目に副部長を選んでいるだけかもしれないぞ?」 「そうは言っても誰か一人を選ぶことに違いはない――という事ですね、棗さん。」 西園君の言葉に鈴君は緊張した面持ちで再び封筒を見つめる。 …まったく可愛いな、鈴君も、西園君も、葉留佳君もクドリャフカ君も。 理樹君の事だ。真人少年のように的外れにボケる事も、宮沢少年のように鋭く洞察することも、恭介氏のようにただの ロリコンに成り下がる事も考えられない。 彼女たちの真摯な思いをあらぬ方向で裏切る事は無いだろう。 (………) 少し汗ばんだ手で最後の封筒を手に取る。 ――私は少しおかしい。別に何かを意識するわけでも、あらぬ期待を込めている訳でもないのに。 「ゆいちゃん…?」 「よし、理樹君の封筒を開けるぞ?」 「うん! 何が書いてあるかな〜♪」 ふと頭をよぎったのはあの世界で交わした約束。 小毬君の声に押され、そして内から滲み出るような焦りと不安、それから少しだけの期待が私の指先を動かしていく―― +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ ( 月 ) 棗鈴 ( 火 ) 来ヶ谷唯湖 ( 水 ) 西園美魚 ( 木 ) 能美クドリャフカ ( 金 ) 三枝葉留佳 ( 土 ) 神北小毬 日曜日はみんなでExさ! 理樹 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ 「………」 「………」 「………」 「………」 「………」 「ヒドイです…ここでこんなこと言うもなんですが、リキと私には一夜の思い出があるですっ(>ω<)」 「え?…ちょっと待ってよ、クド公! 理樹君の最初の相手は私だって…」 「違います三枝さん…! 直枝さんは間違いなくあの夜、私に愛を囁いてくれました…! 僕の初めての相手だと――」 「………」 「………」 「………」 「………あ、私の電話鳴ってる。」 ――ポチッ 『小毬さん、理樹だけど…さっき恭介が持って行った僕のプリント、もう見たかな?』 「…うん。今見たトコ。」 『それね、日曜日に二木さんも入れておいてよ。葉留佳さんと同じ日で双子プレイも考えたけど、やっぱり楽しみは 日曜日に取っておいた方がいいと思ってさー、ははは!』 「………」 『たぶん、日曜日は僕の体の事を考えてお休みにしてくれたと思うけど、うん!僕なら大丈夫。体力は鍛えてあるさ。 あの夢の中で僕は成長したんだから、もう以前の僕と一緒じゃないよ!」 「理樹くん、無駄かもしれないけど聞いておくと…Exって何かな?』 『え? それを僕の口から言わせちゃうのかなぁ〜あはは! やっぱりさ、一人だけ選んだら残りの人って可哀想じゃない。 愛は平等に与えられるべきだと思うんだよね。うん、エクスタスィー。…あれ、小毬さん、一緒に誰かいるの?』 「えーと、月曜日が怒ってて木曜日が泣いてる。」 『?? それって小毬さんの絵本のお話かな?』 「 あ は は 。 そうだね、火は燃え盛ってて、水は荒れ狂い、金は石になっちゃった。」 『面白そうなお話だね。小毬さんが創るおとぎばなしの世界に一度行ってみたいよ。』 「うん♪ 近いうちに連れて行ってあげるよ! あ、ちょっと待ってね。唯ちゃんが電話代わりたいって――」 「ふふっ理樹君。すばらしい回答をありがとう。」 『いやいや、こちらこそありがとう。』 「君たちの提案を厳正に審査した結果、理樹君。まずは君の案を取り上げることにした。」 『え、やったーっ』 「早速だが私の部屋に来るがいい。なに、この時間なら他の女子には見つかるまい。すでに全員揃って、君の到着を 心待ちにしている。少し早いバレンタイン祭と考えてくれて構わないぞ。はっはっは。」 「わ、わかったよ! やっほーっ お祭りだーっ」 ――ブチッ 「 血 祭 り の 間 違 い だ け ど な 。 」 ぼそりと漏らした鈴の言葉にみんなが立ち上がる。 ある者は拳を固め、またある者は日傘を手に、そして私は愛用の日本刀を握り締めドアを見つめる。 「あ、ひょっとして鈴ちゃんも――」 「言うな葉留佳。怒りはすべてぶつけるべき相手がいるのだ…。ふっふっふ…」 廊下から軽やかな足音が聞こえてくる。 …そういえば、もうすぐ日付が変わる。2月14日――バレンタインデーだ。 「そういえばチョコレートを用意していませんでしたです。( °ω °)」 「甘くないバレンタインもありでしょ、クドリャフカ。」 「そして甘くない現実も、ですね。二木さん。」 ―バタンッ 「や、みんな、お待たせ! ハッピーバレンタインデー!」 【続く】 あとがき エクスタシーの理樹は節操が無い。 海鳴り |