死闘は凛然なりて  −第03話 「魔砲」
 










     (――次は…そうだな。三枝をどうしようか。)


 このバトルをメインにした世界で三枝をどんなキャラクターにするべきか。
 やはり三枝の特徴を最大限に生かしたキャラにしてやらねばならないだろう。


     (おまえら、三枝のいいところを挙げてみてくれ。)
     (奇想天外ハイテンション。)
     (無駄に個性的で変な髪形。)
     (正面から見ると目が異様にデカイ。)
     (トリックスターでトラブルメーカー。)
     (誉め言葉は1つも無いのかよ…)


 正直なところ俺もどこをどう誉めていいのか分からないが…


     (おい、謙吾。そのトリックスターってのはなんだよ?)
     (いたずらで世界を引っ掻き回すようなヤツの事だ。)
     (お、たしかにそれ、三枝にぴったりだな。なんか星の付いたステッキを振り回して町の人を
      困らせていそうじゃん?)


     (採用ォ!)

     (え?)(え?)

     (三枝には魔法使いになってもらおう。RPGには必ず出てくる職種――
      まさにバトルモノの王道といってもいいだろう。そいつが理樹と戦うなんて――マジ興奮だぜ、な!)

     (いや、そんな無邪気な瞳で同意を求められても…)
     (よし、おまえら。魔法使いといえばなんだ?)
     (魔法少女。)
     (それも王道だな。夜間の子供が決して見ない時間に放映されている魔法少女モノは誰がみているのか
      非常に気になるのでアリだ。他には?)
     (かわいい小動物がついている。)
     (魔法少女には必須品だな。かわいらしい外見とは裏腹に、大体その小動物が女の子の運命を変えた元凶で
      恨まれていそうなのでアリだ。他には?)
     (実は機械だった。)
     (飼い犬がアイボだと思っていたら実はゾイドだった、というぐらいショックでアリだな。他には?)
     (反抗期。)
     (確かにアイボではなくゾイドだったりしたらグレたくもなるな。そもそも魔法少女になんで機械の
      オプションがくっついているのか意味不明なのでアリだ。こんなところか…)


 俺は静かに頷いて、三枝のあるべき姿を想像した――










死闘は凛然なりて

−第03話 「魔砲」−










 鈴の寝ている保健室を出てからというもの、僕は不審人物よろしくあたりをキョロキョロしながら歩いていた。


     「バトルには気をつけないと…」


僕がこうしている理由はさっき届いたメールにある。



 <暫定バトルランキング>

   @棗恭介
   A宮沢謙吾
   B井ノ原真人
   C神北小毬
   D西園美魚
   E能美クドリャフカ
   F来ヶ谷唯湖
   G直枝理樹(↑) New!
   H三枝葉留佳
   I棗鈴(↓) New!

 ※勝利の状況

  ふたりの恋物語に全米が泣いた。




 …どうやら鈴にバトルで勝った事になったらしい。

 そんな訳で僕の順位は不幸にも8位に上昇。
 よってハイテンションな葉留佳さんなどに会ってしまえば早速バトルスタートの予感である。
 それからもう1つ気付いたことがある。
 その人の性格によっては力試しに下の順位の人にバトルを挑む場合もありうるのだ。


     「せめて安全な場所とかでもあればいいのに…」


 しかし…恭介のルールではバトルに関して時間的制限も場所的制限も無かった。
 だから、いつどこでバトルを仕掛けてもいい事になっているはずなのだ。


     「うう…なんだかおなか痛くなってきた。」


 こういう時は部屋に戻って隠れているに限るよ。
 僕は廊下の端の方をそそくさと歩きながら寮の部屋を目指す。


           :
           :


     (ええぃ、そんな消極的な態度で主人公が務まるかっ!さすらえ!)
     (恭介、あんまり顔を出すな。バレる。)


 俺達は柱の影から理樹を見守っていた。


     (お、それならオレが理樹にバトルを申し込むってのはどうだ?)
     (ダメだ。主人公はザコ敵を倒していくごとにパワーアップしてボスに挑まなければならん。
      真人は――やっぱり、今すぐ理樹にバトルを申し込んで来い。)
     (うおおぉぉ!オレはザコ敵かよっ!?ってかランキング的に無理だっての!)
     (――おい、あれを見ろっ)
     (ん?)


 謙吾の指差した方向に視線を送る。 


     〜〜〜♪


 能天気に音痴な鼻歌を歌いながらひとりの女生徒が向こうから歩いてくる。


     (三枝じゃねーか。)
     (敵発見。 よし、このまま直進すれば理樹とエンカウンターするぜ…。)


 三枝の格好は普通の制服。だが手には機械でできたような杖を持っている。
 そう――あの杖は人工知能を搭載し術者と会話する事ができる武器兼パートナーなのだ。

 ある日、学校の帰りに傷ついたフェレットを拾うところから少女の物語は始まる。
 訳も分からず敵に襲われ、偶然使えた魔法で敵を撃退してしまった――
 お人好しの少女はフェレットの甘言に騙され魔法少女として戦う事を決意する。

 そんな裏設定があって三枝は魔法少女になった。

 そうそう。あんな風に敵に向かって杖を構え、必殺技の名前を叫べば魔法弾が――


     (な――っ!恭介ッ、頭を引っ込めろ…!)

 ――っ!?



――ヒュルルル…ズガーン!!


           :
           :






     『マスター』
     「むぅ…誰かいたと思ったんだけどなぁー。ディバインバスター外しちゃったじゃん。」
     『テラワロスw』
     「ああ、もうーっ、なんかムカつく〜〜!!このダメダメデバイスっ!」
     『ヌルポ』
     「ガッ!!」



           :
           :



     「ゲホッ――おい、三枝はいきなり攻撃してきたぞ…!」
     「なぁ、あの三枝と会話してる機械っぽい杖って何よ? 魔法使いなのに科学ってズルくねーか…?」
     「三枝のデバイスだな。基本的にあのデバイスを媒介してあいつは魔法を使う事ができる。
      あれがこの世界の三枝――リリカルはるか、だ。…な、謙吾!」
     「いや、そんなワクワクした目で言われても――元ネタ知らないんだが。」
     「そんなすごいヤツと理樹がバトルするんだぜ?なんか燃えるじゃねーかっ」
     「っていうか、理樹は勝てるのかよ?」
     「あ………」
     「………」
     「………」



           :
           :








――ズドーン!ガシャーン!!


     「うわぁぁぁぁ!!? ちょっと…葉留佳さ――」
     「あははは〜☆ 理樹くん、覚悟ぉ!!笑点召されい〜〜!!」
     『ハゲシク アボーン』


――バーン!ドゴーン!!


     「わぁぁ!? こんなのとどうやって戦うんだよっ」
     「それそれぇぇ! 攻撃、衝撃、感激ぃぃ〜〜っ! 私のライジングサンが火を噴くわよぉ〜〜っ!」
     『エクセリオンバスター レディ―』


 思い切り背中からドアをぶち破って教室に転がり込み、葉留佳さんの砲撃をギリギリのところでかわす。
 廊下で葉留佳さんとバッタリ会ってしまい、そこでいきなりバトルがスタートしてはや10分経過。
 葉留佳さんの武器は元から持っていた魔法の杖。
 ――そして今回の僕の武器はこれ。


     「はぁー、ふぅ……二の丸――完成!」


 組立て式姫路城。
 恭介曰く、組み立て終わったら相手にぶつけてもいいらしい。
 僕は葉留佳さんのむちゃくちゃな砲撃の嵐の中、転がりながら姫路城を組み立てていたのだ!
 でも、真人と謙吾のバトルの時のような無茶な武器じゃなくて、何かコレ普通すぎるし…


     (…来る!)


 作りかけの姫路城を胸に抱えて、着弾位置を頭でイメージしながら、最も離れた地帯へと体を飛ばす!


――ズガシャーン!!


 大丈夫…!徐々に余裕を持ってよけられるようになってきた。
 葉留佳さんの攻撃は火力は凄いけど、精密さには欠ける…!


     「よし…! 本丸にかかれる――!」


 息を切らせながら、姫路城の組立てを再開する。
 大胆に砲撃を避けて、次の瞬間には繊細な作業に滞りなく移行する――
 大胆かつ繊細に――これは思った以上に集中力を要する。


     「だけど――負けるわけにはいかないよね…。」


 僕は目の前に迫り来る砲撃を見据える。



           :
           :





     「理樹のヤツ、逃げ回ってばかりだな。」
     「流石に仕方ないだろう。あんな攻撃を連射されていたんじゃ近づくに近づけない。」
     「ふふっ、だが理樹は冷静だな。」


 あれだけ無様に床を転がりつづけながらも、隙を見つけては姫路城を組み立てている。
 最初は砲撃を気にしてパーツを持つ手も震えてうまくいかなかったが、今では空中で受身を取りながら
 本丸の壁を石垣にはめ込むなんて芸当をやってのける。
 しかも、徐々に避けるタイミングが分かってきているみたいだ。


     「しかし、どうやってあの三枝を倒すんだ?」
     「確かに…完成した姫路城をぶつける隙がないな。」


 問題はそこだ。それは理樹も気付いているはず。
 普通に組みあがった姫路城をぶつけようとしても砲撃によって焼き払われてしまう。
 そうなればお手上げ――このバトルで武器を失ってはどうにもならない。


     「理樹は城、理樹は石垣、理樹は堀。理樹と姫路城は一心同体――三枝を倒すチャンスは一度きりだ。」




           :
           :



     (はぁ…はぁ…っ!ダメだ。投げつけるタイミングがないよ…)


 避けるだけなら何とかなる。
 だけど、葉留佳さんに近づいて攻撃するとなると今までの比じゃないぐらい危険を伴う。
 もし、この完成した姫路城が砲撃に触れでもしたら最期――僕は戦えなくなってしまう。
 皮肉にも守るべきは僕の体ではなくて、この無駄に精密な姫路城だった。
 ――恭介だったらこんな時どうするだろう。


――ズゴーン!!


     「ほれほれ、どうした理樹くん。逃げ回ってばかりじゃリトルバスターズのストライプの悪魔
      リリカルはるか様には勝てませんヨ。」
     「くっ…」


 もつれる足で思い切り地面を蹴る。その場その場でなんとか葉留佳さんの攻撃をかわしているザマだ。
 ――まずい、息が上がってきた。
 どこかのタイミングで攻撃しないとこのままじゃ――


     「でも、なんか細かい砲撃も飽きてきたナー。ねー、ライジングサン、他のモードとかないのカナ?
      こう、ズバーっと視界全部焼き払えるヤツとか。」
     『イエス マスター』
     「お、マジですか。それじゃ、いっちょそれいってみますカ?」
     『スターライトブレイカー ヤンギレ モード レディ―』



     ガシャン、ガシャン――


 葉留佳さんの持っている杖が変形を始めた。
 足元の魔方陣も巨大なものに変化している。
 これから何が起こるか、僕にも予感が走った――次に来るのは今までとケタ違いの魔砲。


     「…っ! どうすれば――」


 唐突にBGMが流れ出し、葉留佳さんの体が輝き始めた!
 両手を前に突き出し、制服が1枚1枚剥がれていき――


     「――!! これは――変身!!」



           :
           :




     「おい、三枝の体なんか輝き始めたぞ。」
     「…何が起こっているんだ?まさか…お約束の変身シーンなのか?」


     「――おまえら、特撮ヒーローモノを見ていて何か不思議に思った事はないか?」


     「え?」
     「不思議なところっていうと――なんで1人であんなにバタバタ敵を倒してるんだ、とか?」
     「違う。それはヒーローなんだから当然だ。」
     「じゃあ、何で戦闘員はみんなで一斉に襲い掛からないか。」
     「いい線ついてるぜ、真人。それは子供心に俺も考えていた事だ。どんなに強い正義の味方でも
      決して無敵ではない。だが、それ以上に俺には不思議だった事がある。」
     「何がだ?」
     「ヒーローは必ず必殺技なり何なり、パワーアップするときは変身するものだ。腰のベルトが
      回りだすと、背景が変わって無駄に時間をかけてすごいコスチュームになるだろ。」
     「――そうか、分かったぞ。恭介。」


 俺は謙吾に頷き返す。


     「真人、ヒーローが変身している間、戦闘員や怪人たちは何をしていると思う。」
     「ババ抜き。」
     「負けたヤツが最初にヒーローに特攻するのだろうが微妙に外れだ。他には?」
     「焚き火を囲んでマイムマイム。」
     「ヒーローが先に変身を終えると輪に入りづらくて気まずいので微妙に外れだ。他には?」
     「変身シーンのバックダンサー。」
     「子供を喜ばせようとする奉仕精神は評価するが、敵か味方か分からないので微妙に外れだ。他には?」
     「かぶりものを脱いでクールダウン。」
     「それは現実的過ぎるので微妙に外れだ。いいか真人――
      ヤツらは変身するヒーローを指咥えて見てるだけなんだよ。おまえら、変身シーンなんて毎週毎週
      見てるだろーが!学習しろよ!…そう言いたくなる。」

     「そうか!攻撃するのなら――」



           :
           :




     「――変身中の今しかないっ!」


 僕は姫路城を抱えて変身中の葉留佳さんに猛然とダッシュする。
 もし恭介だったら絶対にこの機を逃さない…!


     「やあああぁぁ〜〜〜っ!!」

     「え?うわっ?理樹くん、ちょっと着替え中!ストップ!…タンマ――!」
     『チョ…w オマ……ww』
     「葉留佳さん、ごめん――っ!」
     「きゃーっ!? スカート脱ぎかけなのにぃぃぃ〜〜〜理樹くんのばかぁーっ!!」
     『ハルチン ハァハァ…』
     「行くよっ!!」
     「ヤダ!来るな〜〜〜っ!!理樹くんにお〜そ〜わ〜れ〜る〜〜ぅ〜〜」
     「えええ〜〜っ!?」
     『(*´д`*) 』


――ボカッ!




           :
           :






     「ううぅ…理樹くんが私を汚したぁ…ええぃ、この役立たずのエロエロデバイスっ!」
     『ムハーッ ハゲシク ライジングw』


 葉留佳さんはデバイスがコンパクト化した赤いビー玉を地面に叩きつける。
 正直、葉留佳さんの変身シーンにでも攻撃に出ないと確実にあの時僕は負けていただろう。


     「――理樹、やったな。」
     「恭介! 本当に死ぬかと思ったよ。っていうかこれって遊びだよね?ね?」
     「やるじゃねーか。正直、筋肉足りねーから三枝には勝てねーと思ってたがやったな!」
     「ふっ。理樹の潜在能力は確かだ。このぐらいは当然だろう。」
     「真人! 謙吾!」
     「一番最初に理樹の勝利を疑ってたのは謙吾だったけどな。」
     「え〜〜!殿方ははるちんに労いの言葉もなしですか?冷てぇーっ!」


 みんなの喧騒の中、僕は脱力して床にごろんと寝転がる。
 熱を帯びた背中にひんやりとした心地よさが広がる。


     (おかしな世界だけど――なんとか生き残れたよ。)


 ――葉留佳さんも真人や謙吾と同じく、超人じみていたけど…やっぱり何かあるんだろう。
 他の人たち…小毬さんやクド、来ヶ谷さんに西園さんもやっぱりオカシイのかもしれない。


     (勝てるか不安だけど…バトルになったら覚悟しておかないとね――)




 <暫定バトルランキング>

   @棗恭介
   A宮沢謙吾
   B井ノ原真人
   C神北小毬
   D西園美魚
   E能美クドリャフカ
   F来ヶ谷唯湖
   G直枝理樹
   H三枝葉留佳
   I棗鈴

 ※勝利の状況

   三枝の着替え中に理樹が乱入してやった。



≪次の話へ≫


【戻る】
inserted by FC2 system