死闘は凛然なりて  −第10話 「謝肉祭」−
 








     「さぁ、バトル――」


                             「再開だぜっ!!」


 うおおおぉぉ!と全く同じ叫び声が2人から鳴り響く。
 私の目の前を2人の真人くんが姉御に突進していった…!


     「真人少年に問題だ――20度の水1リットルに20度の水1リットルを加えると、水の温度はいくつだと思う?」
     「答えは――2リットルだよ…!」


 ――ドゴッ! ボカッ!!

 2人の真人くんが姉御の蹴りを食らって両方とも地面をゴロゴロと転がっていった。

     「不正解。キミは問題の趣旨を理解していないらしいな。20度の水では永遠にゆで卵は作れない――
      同じ能力のキミが2人に増えたとしても大した問題じゃないのだよ。」

     「はっ! そんな余裕ぶっこいてられんのも今だけだぜ?(真人1)」
     「なんてったって――筋肉革命なんだからな!(真人2)」

 筋肉、筋肉〜♪ と両腕を胸の前に合わせてフリフリする2人の真人くん。

 ――ガスッ! ゴシャッ!!

     「んがーっ!?」「うごっ!?」


     「うわ〜っ、今のは何か壊れたらいけない部分が壊れちゃった音?」
     「…っ最悪だ。クドリャフカ君ならともかく、こんなむさ苦しい野郎が2人で踊っているなぞ見るに耐えん。」

 姉御に派手に蹴り飛ばされたが、すぐに真人くんは2人とも立ち上がる。

     「やはり2人でもキツイってか?(真人2)」
     「あの来ヶ谷相手だからな…。だがまだまだ!(真人1)」



             「――1人じゃツライからふたつの手をつないだ〜♪」

                            「2人じゃ寂しいから輪になって手をつないだー♪」


 ――!!


 姉御も私も声のした方向へ振り返る。
 そこに現れたのは、またしても――真人くん!

     「しかも2人追加ッすカ!?」
     「2人では飽き足らず、今度は4人だと…?」

 姉御は心底嫌そうな顔をする。
 無理もない。真人くんが4人に増えたのだ。
 しかも全員、同じ顔をして笑っているのが最悪だった。



     「さぁ、今度こそ――(真人1)」

                        「本気のバトル(真人2)」

     「再開と…(真人3)」

                        「行こうぜっ!!(真人4)」














死闘は凛然なりて

−第10話 「謝肉祭」−











 ――ガスッ! ゴシャッ!! ベキッ! ズカッ!!

     「んがーっ!?」 「うごっ!?」 「うげっ!?」 「ぶほっ!?」


 四方から土煙を上げて襲い掛かってくる真人くんを2秒…いや、1秒ちょっとで全員地面に転がしてしまった。
 1人目を回し蹴りで、2人目を逆の足で、3人目には肘打ち、そして4人目はバックナックル…!

     「えぇーい! 鬱陶しい筋肉どもめ…!」

     「オイ、4人でもダメなのかよ!(真人4)」
     「あの来ヶ谷相手だぞ…(真人3)」
     「そうだ、まだだ。まだまだ――(真人1)」
     「何てったって、筋肉センセーションが起こるんだぜ?(真人2)」

 真人くんたちは立ち上がると4人そろって筋肉、筋肉〜♪と両腕をフリフリして踊りだす。

     「ッ――!気持ち悪いというに――」
     「――筋肉いえい、いえーい!…と見せかけてスキありッ!!……っぬお!?(真人3)」

 姉御は横から掴みかかってきた真人くんの首を逆に掴み返すと、思い切り前に投げ飛ばす。

     「邪魔だ…!」
     「んま――ちょ…っ!? ひぃぃ!?(真人3)」

 ――ドン!

 ボーリングの玉がピンをなぎ倒すように、投げ飛ばされた真人くんが他の真人くん達にぶつかって絡まるように転げた。


     「ふぅ…4人いても話にならん。だがウザイ事この上ないな。」



                             「井ノ原の子は7人の子〜♪」

                                      「1人は筋肉であとも筋肉♪」

                       「まだまだこれからだぜ、ライライダニ…!」



 ――!!

     「姉御…これで7人っス。」
     「…………………。」

 さらに3人の真人くんが食堂から走ってきた!
 そうしている間にやられた4人の真人くんも回復して、全員姉御へと攻撃を再開する。

     「キミはアレか? 1匹見かけたら30匹はいるといわれるあの虫か?」

 真っ直ぐに突き出された拳をジャンプで避けて、そのまま真人くんの頭に手をついて空中で一回転――
 背後に回りこんで、そこから力強すぎる後ろ蹴りで真人くんを吹っ飛ばした!

     「んぎゃ…っ!(真人5)」
     「オイ…っ!?(真人6)」
     「急に止まるな…わぁっ!?(真人7)」

 吹っ飛んだ真人くんに後列の3人の真人くんが巻き添えを食らって倒れ込んだ。
 ――と、横から他の真人くん飛び込んできた!

     「もらった…!(真人2)」
     「いや、遅いな。」

 ――ダンッ!


     「ぎゃああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜」

 綺麗に回し蹴りを腹にもらった真人くんは、弧を描いて校舎の窓ガラスを破り、中へと消えていった。


     「はぁ…はぁ……これで1人減ったわけだな。――さぁ、残り6人。」




                               「教室に残る? さすらう? 真人と遊ぶ!!」


                       「物理? 筋肉? もちろん――筋肉!」


                               「筋肉いえぃ、いえぃ!」


                       「筋肉いえぃ、いえぃ!」






     「………………………………………………………………………………。」
     「……あ、姉御。アレ何でしょうかネ?」


 校舎裏から真人くんが1、2、3、4… まだまだ出てくる。

 いや、それだけじゃない…!
 食堂からもニカッと笑った真人くんの一団がこちらに走ってくる。
 よく見れば学生寮の窓からも真人くんがぞろぞろと飛び出してくる!


     「葉留佳君。これは私に本気を出せといっている――そう解釈して問題ないな?」
     「なはははは…はは……。」
     『ガクガクブルブル』


 「――はあああぁぁぁあ!!」


 ――ダンッ! ゴスッ!! バキッ!!


     「ぐあっ!!(真人15)」
     「ちょ…っ!ホガッ!?(真人12)」
     「痛ぇ!?(真人19)」

 近づいてきた真人くん3人を全員、右足だけで蹴り倒して姉御は真人くんの団体へと突撃する!
 今までとはケタ違いに素早い動きで次々と真人くんの群をなぎ倒していく…!

     「ウボッ!(真人1)」
     「ンハッ!?(真人14)」
     「出てきたばっかなのに何しやがるっ!!――うぎゃっ!?(真人9)」

 だが、姉御に倒された真人くんもすぐに復活しては立ち上がって攻撃に加わる。
 見れば姉御を中心に真人くん20人近くが取り囲んでいる格好になっていた。

     「…っ! しつこい――!」

     「いよっしゃ! 来ヶ谷をやっつけろ!(真人8)」
     「おらああぁぁ!!(真人16)」

 姉御の左ストレートを顔面に食らった真人くんが地面を直線に転がっていく。
 それを飛び越えて、空中の真人くんは姉御に拳を叩き込もうと大ぶりのパンチのモーションに入る――

     「――ッシ!」
     「ひ…(真人5)」

 ――ボキッ!! ドカッ!!


     「ハァ…ハァ……。いい加減――」
     「おら、捕まえたーっ!!(真人18)」

     「――ッ!」

 目の前の真人くんにヒザと肘をお見舞いした姉御を、後ろから別の真人くんが羽交い絞めにした!
 それと同時に別の真人くんが姉御にパンチを繰り出す…!

     「食らえ――んごハッ!?(真人1)」

 姉御は捕まりながらも、殴りかかってきた別の真人くんの股間をフルスピードで蹴り上げた!
 そして、背後から羽交い絞めにしていた真人くんも一本背負いで前方へと投げ飛ばす。


     「――いってしまえッ!」

     「のおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜!!(真人18)」

          :


 ――ダンッ!!

     「ぐはっ!!(真人18)」


 投げ飛ばされた真人くんは、はるか30m先にある食堂の壁にぶつかって床に倒れこむ。
 ぶつかった壁の一部がボロボロと崩れ、真人くんの頭にコツンとあたって地面に落ちた。


     「――さすが来ヶ谷。だがまだだ。まだまだ筋肉が足りねぇ!(真人18)」








              :
              :













     「来ヶ谷さんは今頃交戦中なのかな…。真人に勝てるかな?」
     「のーぷろぶれむ。今の来ヶ谷さんなら大丈夫なのですよ。」

 食堂の方向を眺める僕――直枝理樹にクドが笑顔で答えてくれる。

     「できれば対謙吾戦の最終兵器に、と思ってたんだけどね。ところでクド、聞いていい?」
     「なんですか?」
     「どうして僕らと一緒に恭介たちに挑もうと思ったの?」

 最初は僕と小毬さんと葉留佳さんだけで戦おうと思っていた。
 だけどクド、西園さん、来ヶ谷さんの3人が僕らの計画を知って助力を申し入れてくれたのだ。

     「計画にはみんなすぐに気が付きました。」
     「確かに…食券をエサにして派手に人員を集めていたからね。」
     「それを知ったら、そんな面白そうなイベントを傍観していることはない!という事で3人とも
      同じ意見だったのですよ。」

 そう言って軽やかな笑い声を立てるクド。
 その笑顔の向こう側に何を隠しているのだろうか?

 "クドたちもこの世界が何なのか知っているの?"
 ――訊いても多分僕には答えてくれない気がした。


 ――ザ…ザザ……


     「――通信?」

     『こちら、はるちん。はるちん。姉御がちょいヤバっす! 筋肉革命で姉御がやられそう…!』
     「えっ!? 来ヶ谷さん相手に真人が優勢!? ちょっと待ってよ!」

 一瞬、意味がわからなかったけど瞬時にそれを飲み込んで、2番目に気になる単語を聞き返す。

     「ところでその…筋肉革命って、何?」
     『筋肉いぇい、いえぃ! ってカンジでそこら中に真人くんだらけになっちゃったヨ…!』

 さらに意味が分からなかった僕は、これ以上の質問を無駄と判断してクドに振り返る。
 目線を送る僕にクドも両手を胸にガッツポーズで頷いてくれる。

     「分かった。そっちにクドを派遣する――!」
     『うん!ありがとう…!――ブチ』


 でも、まずいな…。
 これで真人1人に葉留佳さん、来ヶ谷さん、クドの3人がかり。
 まだ、男子寮の中には謙吾と恭介がいるのだ。

     「同時に来られると厄介だけど――」

 いや、それより今僕の周りには戦力になる主要キャラがいないのだ。
 西園さんたちは別行動。男子寮の外に僕がいて中には小毬さん。

     「よし、ここは小毬さんと供に行動したほうがいいね…。」





              :
              :













 ――ゴンッ! ボカッ!! バスッ! ドゴッ!!


     「うぼあぁぁっ!?(真人95)」
     「チーーッ やるなッ!!(真人126)」
     「攻めろっ…! 来ヶ谷にも疲れが見えるぜ!(真人82)」

 足払いを食らって転んだ真人くんを姉御が空中へと垂直に蹴り飛ばす。
 周りを取り囲む真人くんの輪から、1人、また1人と姉御の攻撃で弾き飛ばされていった。
 あれから真人くんは増えつづけ、今では100人は軽く超える程集まっていた。

     「うらぁぁぁ〜〜っ!! 三枝、降りてこい! 空飛ぶのは卑怯だぞっ!(真人45)」

     「やなコッタですヨ。そこでバーベキューになりやがれデスっ!!」
     『―ディバインバスター』

 魔法で空中を飛んでいる私――三枝葉留佳に、地上の真人くんが声を張り上げた。
 私はその方向に向かって一発砲撃を放つ。

 ――ドゴォォォォォォ!!


     「痛ェ…。だが、この程度の攻撃力じゃまだまだ効かねぇぜ!(真人53)」
     「…んげ。」

 直撃を食らったにも関わらずピンピンしている真人くん。
 やっぱりだめだった。ゼロタイムで出せる攻撃じゃ真人くん相手に無意味――
 だが、大きな魔法の準備をするには、空中を飛び回って逃げていてはダメだ。


     「おおぉぉぉぉぉ〜〜〜〜っ! 三枝ぁぁ〜〜!!(真人101)」

     「きゃぁぁぁぁぁーーっ!!」

 地上の真人くんが他の真人くんを空中いる私に向かって投げ飛ばしてきた!
 下界から放物線を描いて飛来してくる何度目かの真人くんを思い切り杖で殴り倒す。

 ――ボカ!

     「!わああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜ッ!!(真人101)」

 徐々に声が小さくなっていき真人くんが地面に衝突する音を確認する。
 が、次々と下から真人くんが投げ飛ばされてくる…!


     「…きゃっ!? あ〜〜ね〜〜ごぉ〜〜〜〜っ! 大丈夫ですかぁー!?」

     「なんとか――シッ!!」

 ――ボグッ!

 蹴り飛ばされた真人くんの体がキリモミ吹き飛ばされながら、校舎4階あたりの壁に激突して落ちていく。
 上空から見ていると、姉御を中心に無数の黒い人がわらわらと取り巻いている様子がよく分かる。
 いくら姉御といえこのままでは――

     「はぁぁぁっ!!」
     「ぎゃっ…!(真人40)」
     「なんかオレ、一番割に合わな――ウゴッ!?(真人1)」

     「そら…! 消し飛んでしまえ…ッ」

 ハンマーで殴るようにアゴを真横から右足で打ち抜く。
 そして、返す足で横にいる真人くんも――

 ――ガシッ!

     「――ッ!!」
     「おらぁぁ! 捕まえたぜ…!(真人113)」

 振り上げた足を真人くんに掴まれた…!

     「うりゃあぁぁ〜〜!!(真人113)」

 右足を掴まれたまま振り回されて、姉御は空中に投げ飛ばされる――!

     「甘いッ! これなら――」
     「逃がすかぁぁ〜〜!!(真人77)」

 空中で体を回転させようとする姉御に真人くんが1人飛び掛って転がるように地面に落下した!

     「あ、姉御ぉぉぉぉ!!」
     「…ッガハ!! しまった――」

     「来ヶ谷を捕獲ー!(真人21)」
     「そら…! みんなで抑えろっ!(真人31)」
     「うおおお!!(真人141)」
     「みんなでかかれば怖くねぇっ!!(真人99)」
     「うらうらー!(真人55)」

 真人くんの1人と、もつれるように地面に転がった姉御に次々と他の真人くんが覆い被さっていく!
 姉御の上に真人くんが…その真人くんの上にも真人くんが無数に折り重なっていく。
 やがて姉御の姿が見えなくなり、それでも真人くんはどんどん上に積みあがって、人間の山ができてしまった。


     「――諦めろ、来ヶ谷。多勢に無勢だぜ?(真人77)」
     「筋肉革命が起きたんだからな。この世界はもう手遅れだ。(真人109)」
     「筋肉、筋肉、筋肉…みーんな筋肉。(真人26)」


     「…くっ、おのれ。真人少年相手にコレはしたくなかったのだが――」







     「――わふーっ!? 血沸き肉踊るお祭りですぅ〜〜〜!!」






     「クド公…!」
     「なに…っ? その声はクドリャフカ君か――!」
     「ん? クー公か?(真人18)」


 ――白い帽子に亜麻色の髪。
 小さな体を白いマントがすっぽり包み込んだ姿――
 クド公がこちらを見て、目をまん丸にしていた。


     「あの…誰が本当の井ノ原さんなのですか?」

     「「オレだぜ!(真人1〜128)」」

 全員で振り返ってニカッと笑う真人くん――シュール過ぎる…。

     「…………クラ」
     「わーっ! クド公! しっかりおし!」

 目を見開いてヨロヨロと倒れそうになるクー公を私は慌てて支える。

     「クドリャフカ君。本当にコイツらは全員、真人少年に他ならない。どういうわけだか――
      大量に増殖してしまったようだ。」

     「わふ〜〜っ!! 筋肉、筋肉、筋肉…。どこを見ても筋肉なのですっ」
     「そのとおり! 今日は筋肉感謝祭!(真人111)」
     「まだだ! まだまだ増えるぜ、筋肉はッ! 65536人まで挑戦だッ!!(真人128)」

     「というわけでクー公。おまえも筋肉の虜だぁぁぁぁぁッ!!(真人93)」


 一斉に真人くんの群がクド公に襲い掛かる…!

     「わふ〜〜っ!?」

 逃げる間もなくクー公は真人くんたちにガッシリと抱きこまれてしまった。
 姉御と同じようにクー公の上にまた真人くんの山ができあがる。
 これではもう――


     「わふ〜〜〜〜ぅぅ!? きゃっ! 何するですか…っ!? ドコ触――ムギュゥ」
     「わははは! オレ達の筋肉でしっぽりムフフといこうじゃねーか!(真人49)」
     「そ〜れ、筋肉!筋肉ぅ〜〜♪スリスリ(真人97)」
     「いえ〜い! それそれ筋肉、筋に――(真人127)」


 ――カプっ


     「ンま!?(真人127)」


     「おい、どうした?(真人25)」
     「オレの下のオレ――ガクッとしてんぞ。(真人114)」
     「しっかりしろ!それでも筋肉かっ(真人25)」
     「お、目ぇ覚ましたか。ビックリさせんなよ――(真人51)」

 ――がぶっ

     「つぁッ!?(真人51)」

     「おいコラ、オレがオレに噛み付くな!(真人19)」
     「なんかコイツら…様子がおかしいぞ、オイ!(真人64)」


 最初にクー公に噛まれた真人くんが横にいる真人くんの首筋に噛み付いた。
 そして、その噛まれた真人くんも周りの真人くんに次々と噛み付いていく――

     「いったいなんなの…」
     「――クドリャフカ君は吸血鬼だ。吸血鬼に噛まれた人間は吸血鬼になってしまい、
      みんな彼女の支配下で生きることになる。」

 真人くんの山の中から姉御が呟いた。

     「チョぎッ!?(真人53)」
     「逃げろ、逃げんだよ! 噛まれたら終わりだ!!(真人1)」
     「んぎゃ〜〜〜〜〜(真人18)」
     「ひ〜〜〜〜〜〜〜〜!?(真人102)」

 クー公に組み付いていた真人くんの山が崩壊して、みんな散り散りになって四方八方へと逃げ出す。
 まさに阿鼻叫喚の地獄――むさくるしい男がくんずほぐれつ絡み合っては追いかけっこを始めたのだ。






              :
              :






     「…美しくないです。せめて恭介さんか直枝さんなら――ウットリ」
     「これは勝負あったようね。でも、最初から来ヶ谷さんが井ノ原に噛み付いておけば済んだものを…。」


 真人たちの崩壊の様子を男子寮の屋上から眺める人影が2名――
 日傘の女生徒――西園美魚は溜息をつきながら視線をずらす。
 一方、傍らで腕を組んでいる女生徒――二木佳奈多はその様子を無表情で見ていた。

 ――ザザ…ザ…

     『西園さん――聞こえる? 今どこにいるの?』
     「はい、感度良好です、直枝さん。今は男子寮の屋上で待機中です。どうぞ。」
     『来ヶ谷さん、葉留佳さん、それにクドの様子は確認できる?』
     「はい、能美さんに噛まれて井ノ原さんの一部が暴徒化。半分ぐらいはすでに能美さんの支配下です。」
     『真人の半分がクドの支配下…?? えーと――』
     「簡単にまとめると、井ノ原さんの敗走中という事です。どうぞ。」
     『そっか。真人に勝ったんだね!さすがクドだ――それじゃ次の作戦に移ろう!』
     「はい。それでは参ります。」


 ――ブッ

















≪次の話へ≫


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